岡田:きっかけは、私が「博報堂ブランドデザイン」というチームに配属され、企業のブランドマネージャーの方と一緒に仕事をする企画が増えたことでした。一般的にブランドマネージャーと言えば企業内でも花形のポジション、メーカーに入りたい学生からも憧れの存在です。でも実際にお会いして話をしてみると、すごく苦労されている方が多い。
会社から「今年の売上目標と、それを実現するための予算はこれです」とミッションを与えられ、四半期ごとの売上を達成するために、短期的な利益を常に追わなければいけない。私はもともとブランドという概念は5年や10年といった短期間では収まりきらない100年以上も通用する商品を育てることだと思っていたので、「実態はそうでもないぞ」と感じました。
岡田:はい、さらに言えばブランディングでベンチマークしておくべき、お手本とも言える存在は、アップルやスターバックスといった米国発のブランドです。もともとブランドという考え方が米国で培われたものですので、仕方のない話かもしれませんが、日本にもお手本とすべき存在があるのではないかと思うようになりました。江戸時代から「のれん」という言葉がありますし、何よりも日本には長寿企業が多い。
そこで長期的なブランドをつくるためのヒントは、足下にあるんじゃないかなと、日本で長い伝統を持っている産業の中で、新しいブランドづくりをしている人に話を聞いてみることにしたんです。
岡田:そうです。自分だけのインプットになるのはもったいないので、どうせならばチームを組んで博報堂社内だけでなく、それこそブランドマネージャーのような職種の人たちにも伝えていきたいと思ったんです。
そこで老舗や伝統に興味のある人はいないかなと、社内で呼びかけたら、意外とみんな興味を持ってくれたんです。阿部もその一人でした。
阿部:岡田さんから「老舗ブランドの研究を一緒にやらないか」と声をかけてもらいました。長寿企業が日本に多い背景と、事業を継続できている理由を調べることが、ブランディングのヒントになると共感したんです。
阿部:取材先は素材を製品化する2次産業の方が多いのですが、誰もがその素材をつくり出している生産者(1次産業)をすごく大事にしているということです。
それに気付かせてくれたのが、乾燥レモンとティ―バックをセットにした「フロートレモンティー」をつくっている光浦醸造工業の光浦健太郎さんでした。光浦醸造工業は、もともとは醤油や味噌をつくっていた会社です。新たなパートナーを組むことについて、光浦さんが「本気の人と組むということが、とにかくブランドづくりでは大事だ」とおっしゃっていました。
レモンティーなので、レモンを使います。そこで広島県内で農薬を使わずに、つくり方からこだわっている人を探して、話したうえで共感できたから、一緒に組むことにしたとお話されていました。原材料の供給者を安く買いたたくのではなく、パートナーとしての関係構築を重視視していたのです。
阿部:そうなんです。ブランディングと言えば、完成品をつくり、その商品に憧れを持たせて、ファンをつくっていく方法論だと思います。しかし私たちの取材先の人たちはファンをつくる前に、まずは生産者や地元の人と関係をつくり、しっかりと足下を固めてから、ブランドを広げていくという順番になります。
岡田:そうした取材先と話をしていると、新しくブランドをつくるときに、先にターゲットを決めた方がいいのか、そもそもターゲットという言い方が相応しいのかということも考えるようになりました。
岡田:たとえば、アフリカのことわざに「早く行くなら一人で行ったほうがいいけど、遠くに行くならみんなで行ったほうがいい」という言葉があります。この言葉と同じように、ターゲットを限定してどう売るかを考えるよりも、そもそも誰と一緒につくった方がいいのかをしっかり考える方がビジネスとして長く続くかもしれません。
そう考えると、やはりお客さまをターゲットという言葉で表現できないわけです。お金で商品を買ってくれるだけの存在ではなく、「いい商品だった」と周囲の人に推奨してくれるかもしれない。つまり、お客さまもブランドを一緒に育てていく「仲間」として捉えられるんです。
岡田:そう考えていくと、今までブランディングで使っていた用語が一つひとつ気になってきます。たとえば、「ブランドロイヤリティ」も日本語に訳すと「ブランドへの忠誠心」ですよね。そうすると、封建社会の王さまと市民の関係みたいで、ロイヤリティという言葉にも少し違和感を感じます(笑)。
阿部:現段階で明確な手法があるわけではないんですが、例えば「クラウドファンディング」という手法があるかもしれません。製品をつくる前の段階から支援者を募るという発想が、とても近いと感じています。
まったく新しい手法を持ち込んで、根底から考え方を変えるというよりも、いま起きている変化を取り入れていくということが重要ではないでしょうか。
岡田:繰り返しになりますが、ブランドづくりにおいては、まずは仲間をつくるための言葉づくりから考えてもいいかもしれません。
私たちは「志」「形」「属」という3つの要素から、有機的な体系(エコシステム)を構築していく作業が、これからのブランディングにおいて非常に重要になると考えています。その中でも、まずは「属」を起点にしながら、「志」や「形」を考えてみてはいかがでしょうか。
阿部:まずは継続して、おもしろいブランドをこれからも発掘していきたいと思います。そして、今回お話させていただいた「仲間づくり基点のブランディング術」を体系化させていきたいです。
岡田:もしかしたら、その体系化していく段階から、いろんな人を巻き込んで一緒に考えた方がいいんじゃないでしょうか。つまり我々が、完璧なものをつくってターゲット顧客を決めて提供してしまうと、それこそ従来型のブランディングですよね。
まずは仲間となる企業の方と一緒にブランドづくりに取り組みながら考えていきたいですね。
☆ブランドたまご(ブラたま)バックナンバー
☆博報堂ブランドデザイン
企業ビジョンやブランド戦略、商品開発支援などの業務に従事。著書に『お客様を買う気にさせる「価値」の見つけ方』(KADOKAWA)『博報堂のすごい打ち合わせ』(ソフトバンククリエイティブ)など。東京工業大学非常勤講師。日本大学非常勤講師。
2014年入社以来、ブランディング専門ユニット「博報堂ブランドデザイン」に所属。ストラテジックプラニング職。食品、飲料、化粧品、不動産、ホテル、自治体等、幅広い業界でブランド構築を支援。