マスメディアからニューメディアにわたり、KPI開発、PDCA管理まで広くマネジメント。コミュニケーション全体を俯瞰する。直近ではデータによるコンテンツの配信分け、コンテンツとオーディエンスのマッチング分析、オーディエンスのナーチャリングモデル開発に携わる。マスメディア、デジタルメディア双方に通じるジェネラリストであり、テクノロジーにも精通。カンヌライオンズ2015年クリエイティブデータ部門審査員、アドテック、カンヌ、I-COM等グローバルスピーカー。
スパイクスをミニカンヌだと思ってのぞんではもったいないのではないかと思う。スパイクスは、アジアパシフィックに限ったものを探す、欧米では発表されないものを探す、自分ごと化できるものを探すには最適な場所だ。今年スパイクスで出会ったものの中から、そんな欧米では発表されないものをご紹介したい。
人気セッションの裏で開催されたMindshareによるDonald Trump: What’s the Big Idea? #TrumpSpikesというセミナーだ。(公式サイト:https://www.spikes.asia/festival-programme/#/donald-trump-whats-the-big-idea)
このセミナーのスパイクスならではのポイントは2つある。
1つ目はご存知、現在米国大統領選を戦っているトランプを題材にし、かつ、セミナータイトルにまでしている所だ。海外へ行くと、トランプの話題で持ち切りだ。ただ、セミナーではアイスブレークであったり、ネットワーキングの冗談に使われる。スライドに出てきたとして、せいぜい1枚だ。ましてや、国・宗教・政治的背景が複雑なヨーロッパのカンヌでトランプについて語るセミナーなんてあり得ない。
2つ目はMindshareがこの話題について話すということだ。MindshareはWPPグループのメディアエージェンシー集団、GroupMの一つで、巨大なグローバルクライアントをワールドワイドで扱う大エージェンシーだ。テクノロジーが強い、アジアに根ざすといったような特徴は少ないが、総合点が高い、いわゆる優等生的なエージェンシーだ。マルチメディアの計測に対する見解だとか、正論をいうことはあっても、グローバルな場では特徴的なエッジーな話題に触れることはほぼない。
そんなMindshareがトランプについて何を語るのだろう。
答えは納得だった。いかにも優等生らしい、徹底的なメディア分析だった。
ファインディングスをいくつかご紹介しよう。
トランプのツイートは9割以上が一方的なのに対して、ヒラリーは@ツイート、リツイートを多用する。丁寧に1対1のインタラクションを行う。
発信デバイスはどうだろう?トランプのツイートは56%が個人所有のアンドロイド、iOSを含めると、8割がモバイルから発信されているのに対し、ヒラリーのツイートは64%がTweetdeckから発信されている。また、トランプのツイートにはとにかく誤字脱字が多いそうだ。
あれだけ遊説に飛び回っている事を考えると、トランプは移動中、自分で積極的にツイートをしているのに対して、ヒラリーはヒラリー陣営が丁寧にオフィスで対応していると考えるのが自然だ。
こんな分析が、テレビ戦略、ビジュアル戦略、競合分析、発信内容、インスタのハッシュタグにいたるまで細かく続く。
結論として、Authentic“本質的”とはいうけれども、実は“本質的に見えること”が国民を動かしているというのだ。
このトランプのメディア戦略は私たちが広告会社としてブランディングを広告主に日常的に提案する手法と実は相反する所も多く、また、そもそも私たちは本質的に“見えること”ではなく、本質を目指しているという違いもある。
だが、トランプの話題はアジアパシフィックでは実は話題にしやすく、メジャーだけれども、他人事なものだ。ゴリゴリ掘ると、私情を絡めず、思わぬ発見が多い題材であるというのは間違いない。色々と考えさせられた。
最後に、セミナーらしくチャーミングだった点も2つ。「この分析はけっこう膨大なメディアデータを回しているんだけど、Mindshareの独自ツールを使っているからできたんだ。」と、しれっと入れた宣伝。散々分析した結果、トランプと酷似したメディア戦略を実施しており、国民の支持を集めている歌手がカニエ・ウェストだと発表し、「4年後の大統領選をこの2人が戦っているとしたら、この世のおしまいだ。」と笑いで結んだこと。
笑いですめばよいと、切に願う。
<スパイクス・アジアとは>
スパイクス・アジアは、カンヌライオンズの地域版フェスティバルとして2009年にスタートし、毎年9月にシンガポールで開催されるアジア地域最大級の広告コミュニケーションフェスティバルです。
2016年は、「Digital Craft部門」と「Music部門」が新設され、全20部門となり、23の国と地域から過去最高の5,132作品の応募がありました。
アジア太平洋地域の広告分野における創造性の発展と、アイデアと人的交流のプラットフォームとして、カンヌライオンズ同様注目を集めています。
また本年度は、カンヌライオンズの受賞数ランキングトップ10に、アジア太平洋地域の国々が3ヶ国がランクインするなど、アジアが躍進を遂げています。
【スパイクス・アジア Vol.3】セミナーレポート①岩嵜博論―イノベーションデザインのスペシャリストが語る「Power of Prototyping(プロトタイピングの力)」
【ニュースリリース】博報堂グループ、スパイクス・アジア2016にてグランプリを受賞。 他金賞5、銀賞3、銅賞12を獲得 ― ヤング・スパイクスでも2位 ―