テレビ、ウェブ、屋外メディアなどで配信される「動画」の存在感が高まっています。
メディアやデバイスが多様化し、動画をいつでもどこでも見られる環境が出現したことで、生活者はどう変化しているのでしょうか。
博報堂は、生活の隅々まで行き渡った動画によって生活を豊かにしている生活者のことを、「視聴者」ではなく<動画生活者®>と呼んでいます。
この日のセミナーでは、生活者データをベースに<動画生活者®>を捉え、多様な動画メディアを駆使する「動画統合プランニング」の方法が紹介されました。
博報堂のマーケティングコミュニケーションの基本にある考え方は「生活者発想」です。
私たちが取り組んでいるデータ活用もまた、この考え方がベースになっています。
私自身、この5年間にわたってデータ活用に携わってきてわかったことが二つあります。
一つは、ビッグデータの蓄積によって生活者を極めて詳細に理解できるようになったこと、そしてもう一つは、データが繋がったことで、マーケティングの「対応期間」が変わったことです。
データを見れば、数年前からの生活者のアクションの推移を把握することができます。
それによって、例えばブランドスイッチなどへの対応が可能になります。
つまり、データによって生活者に継続的かつ長期的にアプローチすることができるようになったのです。
データはまた、生活者の全体像を多面的に捉えることを可能にしました。
生活者は、朝起きてから寝るまでの間にモチベーションを刻々と変えています。
そのどのタイミングでアプローチするのが有効なのかがデータによってわかるようになってきたのです。
そのようなデータ活用を可能にするのが、博報堂の「生活者DMP(データマネジメントプラットフォーム)」です。
これは、生活者や市場の全体を捉えるだけでなく、捉えた生活者層に対し戦略的に情報を発信していくことを可能にするツールです。
市場全体を数千万IDの規模で捉え、生活者の意識から行動までを複層的に、24時間365日まるごと捉え、さらにオンラインからオフラインまでを連続的に捉える──。
それが博報堂の生活者DMPです。
生活者DMPは、6つのタイプのデータによって構成されます。
そしてここに、後半に詳しく説明する「動画生活者®データ」も加わりました。
生活者DMPは、コミュニケーションに3つの革新をもたらしました。
「生活者理解の精緻化」「マルチターゲット×マルチメッセージの実現」「メディアプランニング/メディアバイイングの高度化」です。
そのそれぞれに対し、博報堂は独自のソリューションや方法論を開発し、データ活用をさらに進化させています。
「生活者理解の精緻化」のために活用できるソリューションが、生活者の意識データと、ウェブ閲覧、購買といったアクチュアルな行動データをつなげて分析する「Querida(クエリダ)」です。
これを活用することにより、顧客像をリアルに描き、マーケティング戦略立案から広告配信までを一気通貫でプランニングすることができます。
一方、商品別に狙いたいターゲットを選定し、メディアの特性に応じてメッセージを変え、かつタイミングの出し分けを行うのが「マルチターゲット×マルチメッセージ」の方法論です。
「メディアプランニング/メディアバイイング」に活用できるのが、テレビ視聴ログデータとオンラインアクチュアルデータを統合して、テレビCM効果を最大化するソリューション「Atma(アトマ)」です。Atmaでは、100万台規模のテレビ視聴ログデータ、実店舗での来店・購買データ、ウェブ閲覧行動・検索データの3種類の大規模データを活用します。
このソリューションによって、「ターゲット抽出→テレビ視聴傾向分析→テレビ×ウェブ配信→広告効果測定→ターゲットや出稿計画の見直し→ターゲットの再抽出」というPDCAサイクルが実現します。
さて、ここからは博報堂DYグループの4社(博報堂、博報堂DYメディアパートナーズ、博報堂プロダクツ、博報堂DYデジタル)横断の動画統合ソリューション「hakuhodo.movie」についてご説明します。
これは、先に挙げた「生活者理解の精緻化」「マルチターゲット×マルチメッセージの実現」「メディアプランニング/メディアバイイングの高度化」を、「動画」の観点、「動画」という手法で、一気通貫で実現するものです。
今「動画」は人々の生活になくてはならないものになっています。
「web動画」だけを見てみても、動画サイトの人気はどんどん高まり、動画サービス自体も様々な形態のものが出現しています。動画広告市場が伸びているというデータもあります。
マーケティング・ファネルにおいては、認知や理解だけでなく、購買検討なども「動画」が担えるようになってきています。極論すれば「すべてが動画になっていく」とも言える状況が出現しているのです。
そのとき、改めて博報堂という会社の成り立ちを考えると、博報堂はこれまで何十年も「テレビCMという動画」によって企業や事業課題を解決するお手伝いをしてきた会社です。
「動画」と言うと、成長著しいweb動画に注目が集まりがちですが、テレビ放送も、web動画も、屋外動画メディアなども含め、あらゆるメディアは「動画」で一気通貫できるのではないか?そのコンセプトで設立されたのが「動画統合ソリューション hakuhodo.movie」です。2016年12月に設立し、これまで100件を超える案件にご活用いただいています。
博報堂は、人々を、単に商品を購買する「消費者」ではなく、多岐にわたる嗜好や行動形態をもつ「生活者」と捉えています。
同じように、hakuhodo.movieは、動画を観る人を「視聴者」ではなく<動画生活者®>という言葉で捉えます。
動画はもはや、単に「観る」だけのものではありません。
動画をきっかけにものを買う、製品の使い方や購入後のサポートも動画で確認する、動画でショーアップされたイベントを楽しみ、自ら撮った動画を投稿して仲間とシェアする。
そんな生活スタイルが多くの人にとって当たり前になっています。
そのようにして動画によって生活を豊かにしている人たちを、私は<動画生活者®>と名付けました。
この発想をすると、次のような生活者の捉え方が可能になります。
私たちは2017年11月に、「動画生活者® 統合調査」を実施し「動画生活者®データ」を整備しました。プレスリリースにて発表もさせていただきました。これは、直近3カ月内にスマートフォンで無料のweb動画を見た人を対象にしたインターネット調査と、主要動画サイト視聴ログを統合したデータベースです。
まさに今、動画視聴の測定方式も転換点を迎えています。テレビCMは、世帯視聴率より個人視聴率が重視され始め、テレビCM視聴とweb動画広告視聴を並列に考えようという動きも業界の中で広がっています。この動画生活者データは、そのような状況に対応すべく「リアルタイム・テレビ視聴の傾向」「タイムシフト・テレビ視聴の傾向」「web動画視聴の傾向」「VoD(ビデオ・オン・デマンド)の視聴傾向」などを、並列して把握できるよう設計しています。
「動画生活者®データ」を概観し判明してきたのは、生活者には、一般的な「欲求」とは別の「動画欲求」とも言えるような気持ちがあるということです。
例えば、「学ぶことは大切」だと考えている人は「学習動画」というジャンルをよく見るでしょう。
しかし「家族は何よりも大切」だと考えているからといって「家族動画」なるものをよく見る、ということは考えにくい。
つまり、動画には特有の欲求「動画欲求」があるのではないか?そのような仮説から、調査データから「動画欲求」をそれぞれ大きなボリューム(数百万人から千数百万人)を持つ七つの種類に整理しました。
以上のいずれかを持つ人を<動画生活者®>と定義すると、その実人口は約3,800万人。この分析結果は、2017年2月にプレスリリースさせていただきました。
更にこのデータでは動画を見ている瞬間にフォーカスした生活者行動・意識「動画モーメント」を把握することができます。
このデータから、特徴的な調査結果の一部をご紹介します。
・例えば、インターネットで人気の「動物動画」。このジャンルの動画を見ている時は「SNSを見ながら」であることが他ジャンルに比べ多い。
・例えば、10代女性に絞ってデータを見ると、web動画を見るシチュエーションとして5人に1人は「入浴中」を挙げます。
・例えば、最近の学生は「受験勉強動画」を利用する機会が多いと思われますが、数あるジャンルの中で、最もネット上で「シェア」されやすいのは「受験勉強動画」です。
このような、ある生活者の、動画を見ている瞬間の実態のことを我々は「動画モーメント」と呼んでいます。
動画モーメントを把握することで、最適なデバイス(テレビやスマートフォン等)で、最適な動画を、最適なタイミングで届けることを目指しています。
「動画欲求」と「動画モーメント」を掛け算することで、「動画クリエイティブ」と「動画配信」を高度化していくことが可能になります。
hakuhodo.movieは、「動画生活者®データ」を起点とした<分析>が起点にはなります。
しかし、生活者の動画メディア環境は日進月歩で変化しています。
そんな中で適切な「動画統合プランニング」を実現するには<制作>担当と<配信>担当が緻密に連携をとる必要があります。その実現をサポートするのが、動画統合プランニングメソッド「16マス・メソッド」です。
<配信>の方法を縦軸に、<制作>つまり何を目的としてつくるか(KPI)を横軸に、置きます。
横軸は「リーチ・関与」「行為・関与」「理解」「検討購買」です。
縦軸は「広告(ペイドメディア)」「オウンドメディア」「PR(アーンドメディア)」「ソーシャルメディア」。
これで4×4の16マスの表ができることになります。テレビCMも、web動画も、店頭サイネージ動画も、すべての動画広告は、このマスのどれかに当てはまります。
この16マスを、例えば大きな模造紙として用意し付箋を使いながら、ストラテジスト(分析担当)が用意した「動画生活者®データ」を見ながら、メディアプランナー(配信担当)、クリエイター(制作担当)がワンテーブルで議論する。
さらに広告主の皆さまもご一緒にプランニングする。
つまり、動画統合プランニングとは、データ分析だけで成立するわけでなく、必ず「人間(プロフェッショナル)」の知見を集約することが必要です。
それもまた、hakuhodo.movieが掲げるプランニングメソッドです。これ自体を、ワークショップ形式でご提供することも可能です。
さて、ここからは仮の商材を設定し、動画統合プランニングを疑似体験していただきます。
課題を「メーク落とし製品の販売促進」とします。
コミュニケーションの目的は、「メークをすばやくしっかり落とす」機能を伝えること。
ターゲットは、「20~30代の働く女性(子供なし、化粧品を1回/月以上購入)」、アウトプットはマスメディアとデジタルメディアを最適に組み合わせる「動画統合」とします。
これらの分析軸はすべて「動画生活者®データ」で設定することができます。
まず、「動画生活者®分析」を行います。平日・休日の、起床から就寝まで。
1時間毎の「web動画の視聴率」「リアルタイム・テレビ放送の視聴率※」を見ていきます。
「タイムシフト・テレビ放送」は今後重要になってくるので参考までに見ておきます(※この「視聴率」はいわゆる番組視聴率ではなく、当調査で「その時間にテレビ放送を見た」と回答した人の割合を指します)。
すると、やはり「リアルタイム・テレビ放送」は最強のメディアであることが分かるのですが、時間帯によっては「web動画」が最強のメディアになる実態が明らかになります。
そして、それぞれの時間帯で「リアルタイム・テレビ放送」と「web動画視聴」のどちらがより効果的か?それぞれの時間帯の視聴実態つまり「動画」モーメントから見て、どんな動画施策が有効か?次々と発想を広げていくことができます。まとめると、下図のようになります。
例えば平日朝は圧倒的に「リアルタイム・テレビ放送」です。
忙しい朝にweb動画を見るニーズは少なそうですね。ならば、15秒テレビCMが良いと判断できます。
一方、夜の就寝前は、平日も休日もweb動画を、YouTubeを筆頭にTwitterやInstagramで見ていることがわかります。
ならば、SNSを通した動画投稿キャンペーンや、SNS上で著名なインフルエンサーを活用することが良いと判断できます。このように、次々に有効と考えられる施策を発想していくのです。
ここまでは言わば「データを元にしたアイデア出し」です。
これら全てを採用する必要はありませんが、ここでは仮に全てを生かし、「動画統合コミュニケーション」を設計していきます。先ほどの「16マス」シートに当てはめて、コミュニケーション戦略を構築していきます。
ここでは「先ずweb上での盛り上がりを作ってから、テレビCMやテレビ番組で話題化し購買を促す」ことを大方針に設計しています。
①は短尺のweb動画広告、②はSNS上のインフルエンサーを起用したタイアップ動画広告、⑤は動画投稿キャンペーン、それらが④のwebオウンドメディア上を中心に展開され、商品特徴を深く「理解」させます。
その上で、⑥⑦は、それぞれ異なるテレビCMを展開。⑦で情報番組などを想定したテレビ番組に取り上げてもらうPR活動を行います。
店頭では、③でインフルエンサーを起用したPOP、⑧でメディアで取り上げられたことを生かしたPOPで販売を後押しします。
以上、動画か動画以外の方法か、あるいはマスかデジタルかを問わず、自由にプロットしながら「全体解」をつくれるのが16マスツールの特徴です。
これによって、<動画生活者®>を確実に捉える「動画統合プランニング」が実現するのです。
(今回は「動画生活者®分析」のみを拠り所として「動画統合コミュニケーション」を設計しましたが、本来は更に「コアアイデア」や「表現コンセプト」なども検討しながら、より強いコミュニケーション戦略を構築していきます。)
先に「すべてが動画になっていく」という言葉で、メディア環境変化の捉え方をご紹介しました。
一方、実は動画視聴環境の変化で、我々プランニングする側が変わる必要がある、言い換えれば「すべてを動画が変えていく」のではないでしょうか?
広告プランニングで重視すべきは「枠」ではなく「人」になったと言われます。
しかし「動画」を考えると、さらに「モーメント」、つまり、人が広告メッセージをどのような時に、どのようなメディアやデバイスで受け取るかを考えなければならない時代に変わりつつあります。
そこで力を発揮するのが<動画生活者®>データを含む生活者DMPです。
動画には「アウトプットとしてわかりやすい」というメリットがあります。
そのため、宣伝担当、分析担当、営業担当、開発担当といった異なる職種の人が動画を介してワンテーブルの議論を行うことができます。更に言えば、一体にならなければ高度な動画統合プランニングを行うことはできない、つまり我々が変わらなければならないのです。
生活者発想をもとにした「モーメント分析」と、広告主を含む様々なプロフェッショナルが一体になった「ワンテーブル議論」が動画統合ソリューションにおける最も重要なポイントである──。
それが本日の結論となります。
※掲載時プロフィールです。
1996年からデジタル関連業務をスタート。
ウェブ制作、プログラム開発などを現場で行い、2000年からコンテンツのプロデュース業務及びコンテンツ編成業務を担当。
その後、サッカークラブのウェブビジネスプロデュースや、テレビ機器への映画・コンテンツ配信の企画等を担当。
2007年に博報堂DYメディアパートナーズに入社し、リスティング広告、アフィリエイト広告、DSPの責任者。
2013年期初よりDMP担当の責任者となり、DMP開発、DMPを使ったサービス開発などを推進。
現在、博報堂DYグループのDMP領域の対応責任者。
4月1日より、ヤフー株式会社との合弁である株式会社HandyMarketingの立ち上げに参画し、設立と同時にCMOに就任。現在に至る。
2002年、大学院コンピュータサイエンス専攻修了。同年、博報堂入社。
大手通信会社グループのマーケティング戦略立案からキャリアをスタート。
その中で、ある新技術を活用した広告配信プラットフォームの発明で特許出願。
それをコア・コンピタンスとした、大手通信会社グループとの共同事業会社設立業務に従事、経営の視点を得る。
その後はデジタル・クリエイティブ部門に所属。webメディア開発、webPR業務に携わる。
hakuhodo.movieにおいては、戦略発想とクリエイティブ発想を横断し、クライアントに対する動画統合ソリューションの実現をサポートしている。