こんにちは。ヒット習慣メーカーズの山本です。
最近、思いついたアイデアをすぐ形にしたがる、企画好きの友人から面白い話を聞きました。なんと、物々交換に特化した、お金を介さないフリマイベントを企画したというのです。一般的なフリマは、持ち主にとっては不要だけれど自分にとっては必要なものを、なるべく安い価格で手に入れるためにあります。しかし彼が企画したフリマは、物々交換が大前提。出店者だけでなく来店客までもが自宅から小物や服などを持ち寄り、モノとモノの交換が行われていたようです。試験的な試みのようで規模こそ大きくないものの、コンセプトに共感する人々で集まったマーケットには、あれやこれやと対話をしながら交渉を楽しむ人であふれ、多くの会話やつながりが生まれて盛況だったとか。話を聞いていて、シンプルに素敵な取り組みだなと思いました。それと同時に、お金って何だろう、お金を介さない取引って何だろうと、貨幣経済から少し外れた価値交換の実態について、気になり始めてしまったのです。
そもそもお金とは、価値の交換をなるべく均質に、そして効率よく行うために生まれたものであるといえます。お金があるからこそ私たちは、その価値の信用が続く限り、様々なモノやサービスといつでも交換できるのです。その意味で、お金とは非常に合理的な価値交換のツールであるといえます。しかし調べてみると、先のフリマの例に漏れず、お金を介さない新しい価値交換の兆しが生まれ始めているようです。ということで本日のテーマは、「ノーマネーディール」。これは、お金を介さない新しい価値交換のカタチを楽しみながら生活に取り入れる人が増えているという話です。具体的な例をご紹介します。
まずは、店舗での物々交換サービスです。
最近、物々交換サービスを始めたリサイクルショップが話題になりました。着なくなった洋服を持っていくと、専用ラックの中から同じ点数分の服を持ち帰れるというサービスです。かさばるだけの着なくなった服を引き取ってもらえてエコだし、しかも無料ショッピングの気分を楽しめるということで、利用者からは好意的な声が上がっているようでした。また、店舗空間の一角を物々交換用のスペースとして利用する例は、カフェにもありました。あるカフェでは、リレー形式で客がモノとモノの交換をしていくような小区画を店内に設けているようです。区画内のものは無料、しかし取っていくなら何か残してゆけというわけです。物々交換の連鎖を客同士がつなげていくためのスペースを提供するこれらの取り組みは、モノを長く大事に使うという社会的な活動でありながらも、お店側にとってもコミュニティ化につながるという点で親和性がありそうです。
次に、オンラインでの物々交換です。
不要なものを販売できるフリマアプリが好調なことは記憶に新しいところですが、モノとモノの物々交換をオンラインで実現するプラットフォームも人気を博しつつあるようです。これらのプラットフォームでは、フリマアプリと同じように、使わなくなった不要なものをサイトに出品することから始まります。出品された品を欲しいと思った人が、コメント欄などを通じて対価となる品を提示し、ニーズがマッチすれば取引が成立するというものです。サービスの中には、1対1の物々交換だけでなく複数人での交換機能を提供しているものもありました。「ほしいもの」「あげれるもの」を複数人間でマッチングさせながら、モノの交換の環を作るというものです。このような動きを受け、フリマアプリの中には、物々交換専用の取引ページを作ることで、お金を介さない取引の機会を提供するところも出てきているようでした。
最後に紹介するのは、ノーマネーなスキルの交換です。
ここまでモノとモノの交換例をご紹介しましたが、「ノーマネーディール」の例はモノに限りません。スキルを提供することで対価をもらう新しい価値交換のカタチが広がっています。これは広義にはスキルシェアと呼ばれるもので、Google トレンドで調べてみるとコロナウイルス発生直後の時期を最大値としながら、ここ数年検索数が伸び続けていることがわかります。
「スキルシェア」の検索推移
これまでスキルとお金を交換するという副業的な文脈が主流だったスキルシェアですが、最近ではスキルの対価としてモノや体験を得られることに重きを置いたサービスにも注目が集まりつつあります。たとえば、人手不足で困る地域の人々や事業者と、スキルを提供する代わりに宿泊場所や食事、地元のローカルな体験を得たいと考える旅行者をマッチングする新しい旅行アプリが話題になっています。農作業から町おこしの企画出しまで、様々な困りごとの助けになりながら、対価として地域での滞在場所や体験を受け取ることができるサービスです。利用者の声を見てみると、地域やそこに住む方々との関係性が深まったという感想が多くみられ、サービスを使った濃い滞在体験から移住につながった例もあるようです。時間やスキルといった無形資産を、お金で買えないものや体験に交換する新しい価値交換の例といえます。
さてここまでご紹介した「ノーディールマネー」ですが、兆しの背景にはいくつかの側面がありそうです。
まずひとつは、経済的側面です。原材料高騰や円高による物価高の影響で財布の紐が固くなる中、なるべくお金を使わずに、モノやスキルと交換することで必要なものを賄いたいと考える人が増えているのではないでしょうか。また、環境や資源問題が注目され、もったいない意識が社会全体に広がったことも拍車をかけていそうです。自分にとっては持ち腐れしてしまっているものが誰かの価値になるという喜びと、お金をかけずに必要なモノが買えるという体験を同時に得られることが、「ノーマネーディール」の背景にある魅力のひとつではないでしょうか。これは特に、人と人の対面的なやり取りのない、リサイクルショップの物々交換サービスの例やオンライン物々交換などで最も顕著にみられるように思います。データやAIテクノロジーの発展により、生活者ニーズのマッチング精度が向上していることも追い風といえそうです。
もう一つの重要な側面は、「ノーマネーディール」がはらむ物語性にあると思います。カフェで実施されているリレー式物々交換や、手伝いをしながら地域を旅するスキルシェア型旅行アプリ、そして最初に述べた物々交換フリマの例を見てもわかるように、対面のやり取りを通じて行われる「ノーマネーディール」では、コミュニケーションが生まれやすい環境にあります。目の前の相手はどんな人で、何と何を交換すれば取引が成立するのか、交換するモノや体験にはどんな価値やストーリーがあるのかなど、対話を中心に価値の交換が行われていく面があるからです。お金を介在しない分、コミュニケーションや対話が必要になり、そこに物語や新たな関係性が生まれる。無人店舗やECサイトなどをはじめ、相手方の顔が見えず、ともすると無機質にも感じてしまう価値交換の在り方が広がる中、その反動として、物語や関係性を重視した、新しい価値交換の在り方が受け入れられはじめているのかもしれません。
最後に、「ノーマネーディール」のビジネスアイデアを考えてみました。
そういえば、クリスマスパーティーで行われる持ち寄りのプレゼント交換会なんかも、まさしく物語や人々の関係性を生むような価値交換ですよね。お金を介在しない新しい価値交換のヒントは、もしかすると日常に隠れているのかもしれません。これからも「ノーマネーディール」な新しい交換様式の例を探し続けていきたいと思いました。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
2017年に博報堂入社以来、ストラテジーやブランドデザインを軸として、企業やブランドの戦略・企画立案に従事。ミレニアル世代/グローバル領域の業務経験多数。写真と音楽とすべてのユースカルチャーをこよなく愛する。