-平野さんは2014年に新卒入社ということで、この連載の中ではもっとも若手。博報堂に入ったきっかけは?
平野:博報堂の生活者発想というフィロソフィーに共感したのと、OB訪問したときみんなすごくいい人で、ここで一緒に働きたいと思いました。縁あって入社が決まったのですが、実際自分にどんな仕事が向いているかはまったくわからなくて、最初はどこでもいいので自分が向いているところに送り出してください!」という感じでした。ストラテジックプラニング職(以降ストプラ)に向いているだろうということで、初任は戦略の部署に配属されました。
-なぜストプラ向きと思われたのでしょうか?
平野:入社前に地方観光を盛り上げるためのアイデアを考えるという課題があって、みんながたくさんアイデアを書いているなか、僕はびっしり市場分析をしてプランを出していたんですよね。いま思い返せばそのアプローチがストプラ的だったのかなと思います。ある種理屈っぽいところからコンセプトを導き出すのが好きだったんだと思います。
はじめに配属された部署では、ストプラ職でも言葉や概念を大切にする先輩が多くて、分析だけでなく、コンセプトをじっくりつくり込む。そのやり方がすごくフィットしたし、影響を受けました。初任の経験から、コンセプトを突き詰め、それを形にすることに興味が湧いて、PR職に職種転換したんです。
-コンセプトを形にするという意味ではクリエイティブ職も選択肢にあったのでは?
平野:そうですね。いろいろな選択肢がありますが、PRって会社のすごく上流から情報資源をつくっていく仕事。PRという視点で社会とブランドの接点をつくることにチャレンジしていきたいと考えました。
それでもPRの専門家になるかといったらそうとも言い切れなくて、第二配属を決める面談で「5年後・10年後は、いまはまだ名前のない職種に就いていると思います」と話した記憶があります。当時の局長はキョトンとしていましたね(笑)。でも、時代とともに求められる職能に合わせて進化していきたいという気持ちがあったんです。
実際昨年からは、PRを本業としながらクリエイティブチームに所属していて、コピーを書いたりCMのコンテを描いたり。クリエイティブディレクターの考え方を学びながら修業しているところです。PRの背景も活かして融合的な企画がつくれる、自分なりの働き方が見えてきました。
-ストプラ-PR-クリエイティブという融合は、博報堂のお家芸でもありますよね
平野:そうですね、博報堂には専門的な能力を突き詰めている人もいれば、広い視点で統合的にプランニングできる人もたくさんいる。嶋浩一郎、木村健太郎といった先輩たちがつくってくれた文化だと思いますし、その方々の肩書きってやっぱり規定しにくいんですよね。昨年僕は新潟県燕三条地域にある家電メーカーに半常駐の社員として出向していたのですが、それも新しい仕事のやり方。マーケティング部に所属して1年間広報担当をしていました。クライアントの社員として半常駐で働く、という経験はすごく貴重でした。
-なぜ半常駐という働き方になったのでしょう?
平野:もともと博報堂がリブランディング商品戦略、D2C事業など事業再構築パートナーをしていた会社。中堅企業でしたので広告費にそこまでお金をかけられないこともあり、社内で広報の力を底上げする必要がありました。広報のノウハウを伝えるというのが主なミッションでしたが、本気で商品を売ろうと思ったら、経営企画とも、営業とも、開発とも、部門を横断して議論しなければなりません。領域を横断して仕事をできたことが僕自身の経験にもなりましたし、クライアントに対してある意味ちょっとおせっかいになってもいいかな、と思うようになりました。いい関係性づくりに注力しながら、立場の垣根なく一緒になって良いアウトプットを生み出すプロセスに意義を感じましたし、その経験が財産となりました。いまは常駐期間が終了していますが、定期的なサポートを続けています。
-平野さんにとって、クライアントと一体感を持って仕事することが重要?
平野:半常駐とまでいかなくても、ブランドマネージャーとかなり近い距離感でお付き合いするやり方が向いていると思います。やっぱり人との関係性が大事なので、長くご一緒できる仕事がありがたいですね。いま担当しているメンズヘアケアブランドは、はじめは販促的なご依頼からスタートしたのですが、もっとブランドを根本的に考えようということで、ワークショップを行ったり、1年くらいかけてブランドコンセプトを規定することからはじめました。
ブランドを強くするためになにが必要かを考え、戦略からPR、クリエイティブまでの全体像をクライアントと共創するのが自分のやり方。それができると、「なんかいまこの辺に可能性を感じてるんだよね…」といった、すごく抽象的な状態でも相談してもらえるようになるんです。だからこそ、営業といっしょになってがっつりクライアントの懐に入っていくというのが僕のスタイル。自分は制作職というよりプロデューサー的な立場で仕事をしていますが、これからはそういう働き方が重宝されるんじゃないかと思います。
-いまプロデューサーと言っていましたが、それが以前宣言した「名前のない職種」なのでしょうか?
平野:自分で規定できていないという意味ではその通りかもしれないですね(笑)。これからの時代には、クライアントと生活者と社会、いろいろなものをつなげる人が必要。リレーションをプロデュースする「リレーション・プロデューサー」みたいなものに価値が生まれると思うんです。いまそれが、自分の中で徐々に具現化されている感じ。これまでの経験を活かして、いいつながりを設計できる人間になりたいです。
-今後はどんな仕事をしていきたいですか?
平野:課題ややりたいことが明確じゃない仕事のほうが、プロデューサー的な役回りが生きてくる。お悩みがどこにあるかわからない、オリエンシートが書けない、という状態のときに声をかけてもらえたらうれしいです。「何をすればいいかわからないときホットライン」みたいな(笑)。
いろいろな領域のプロフェッショナルがいるなかで、僕はある意味エバンジェリスト的な役割でクライアントと博報堂をつなぎ、ブランドマネージャーといっしょにプロジェクトを動かしていくのが理想。ストプラ-PR-クリエイティブという経歴があることで、営業とは違ったアプローチでその仕事ができると思います。
自分としては、いいものをつくりたいという気持ちより、いいクライアントに出会いたいという気持ちが強いんです。これまでも自分を育ててくれたソウル・クライアントがいくつもありますが、それは深い信頼関係があったからこそ。そういうクライアントとこの先どれくらい出会えて、いい仕事をできるかがすごく楽しみだし、僕にとってのモチベーションです。大事なのは、課題とか手法とか広告賞ではなく、結局は人。これからも、人との出会いに一番ワクワクするんだろうとなと思います。
2014年博報堂⼊社。ストラテジックプラニング職を経て、2017年より現職。
戦略構築から社会潮流を起点としたPR・クリエイティブまで、社会との良い関係を築くための手法を自由に構想・実装し、クライアントと共にブランドの課題に立ち向かう。