「ミレニアル世代」とは、2000年代以降に成人を迎えた、もしくは迎える世代のこと。アメリカでは、1981年から1996年頃に生まれた若者をこう呼んでいます。現在、ミレニアル世代は世界人口の約3割を占めており、世代として「最大勢力」であるとして大きな注目を集めています。
アメリカのミレニアル世代の特徴として挙げられるのは、
①マイノリティグループ(ヒスパニック系・黒人など)が4割以上を占め、フラットな人種意識を持つ。
②高学歴(25~34歳の34%が大卒)
③学生ローン(=奨学金)の借金が多く、平均3万5千ドル(05年比1.75倍)を背負う。
よりフラットで、知的水準も高い世代。さらに不景気が当たり前の中で育っているので、他の世代と比べて消費にシビアであることも、この世代の大きな特徴です。
一方で、日本のミレニアル世代はどうでしょうか。やはり「消費離れ」の傾向がはっきり見られます。
「全国消費実態調査」の結果を見ると、30歳未満の勤労単身世帯の消費性向(所得に対する、消費金額の割合)は、1999年の82.7%に対して、2014年には73.5%と、15年間で10ポイント近く落ちています。
消費だけでなく、彼らの育ってきた時代背景をみると
①家庭科を男女共に習い、共働きが当たり前化する時代を過ごし、男女平等意識が強い。
②インターネット、スマホ等のデジタルツールの普及とともに成長しているために、効率志向が強い。
③成長なき失われた20年に育ち、世の中大変な中でも「現状を楽しむ体質」を身につけている。
という特徴も挙げられます。このような前の世代と比較しても特徴的な意識を持った人々が、いま成長し、結婚。平均初産年齢は30.4歳ですので、子供あり世帯を形成する時代に入っています。
今後は、彼・彼女らのような新しい感覚をもった家族が増加。10年後には家族世帯の3割を超え、家族消費を牽引し始めるのです。
それでは、そんなミレニアル家族の家族意識の特徴を紹介していきたいと思います。
私たちは今回、全国の25歳~34歳で6歳未満の子供を持つミレニアル世代の母親に対して、「ミレニアル家族生活実態調査」を実施。ここでは、45歳~54歳のアラウンド50世代家族との比較から見えてきた、ミレニアル家族の3大行動原則をご紹介しましょう。
ミレニアル家族は、家事の役割を固定化せずに流動的分担とし、責任や時間を家族の間で柔軟に分散する傾向があります。例えば、インタビューをしてみると「上の子のお風呂と寝かしつけはパパ。それがうまくいったらママとバトンタッチして皿洗い」「時間がある時はパパが保育園に子どもを送る」といった日頃の行動が聞かれました。
ミレニアル家族で「できる時に夫婦のできる方が家事をやればよい」と考える人は57.3%、「男性だから女性だからという性別役割分担に縛られたくない」と考える人は50.7%にも上ります。
また、この世代の夫が担っている日常的な家事は、ゴミ出し、風呂掃除など4.8個となっています。これは50代前後の既婚男性の倍近い数字です。
完璧を求めるのではなく、賢く選択し、自分たちなりの基準で物事に優先順位をつけるのがミレニアル家族の特徴です。家族インタビューからは「台所は使った時についでに掃除する程度」「掃除は土曜のみ。平日は、子供がこぼしたり、汚れているなと気がついたりした時だけ掃除する」「子どもが小さいうちは、ほかのことがおろそかになっても、子どもと一緒にいる時間をつくりたい」といった具体的な行動や意識が見られます。
さらに意識データをみると「生活に困らない程度に家事をすればよい」と考える人は43.8%、「仕事と家庭・育児、自分の趣味等すべてそこそこできればよい」と考える人も38.1%に上ります。
家事を「労働」ではなく、「楽しみ」と捉えるのも、ミレニアル家族ならではです。
インタビューでは「朝食をワンプレートにステキに盛り付けて母に写真を送っている」、あるいは「子どもが生まれてからはおうちで焼肉。パパがビールを飲みながら肉を焼いてキッチンカウンターに出して食べている」といった工夫によって日々のやらねばいけない家事を楽しもうとしていました。
データをみても、「日々の生活を楽しんでいる」と答えた人は43.7%。これはアラウンド50家族の26.4%を大きく上回っています。
ミレニアル家族は、共働きも多く多忙。なかなか自分の時間を持つことが出来ません。そんな中でも、やらねばいけない家事の時間と、自分の時間をなんとか融合させることで日々の生活の中に柔軟に楽しみを作りだそうとしているといえるのです。
このような、フラットで柔軟な行動原則を持つミレニアル家族。私たちは「身の幸(さち)家族」と名付けました。「家族みんなで、お互いを柔軟に支え合い、無理せず、欲張らず、自分たちなりの幸せをつくり出す家族」といった意味がここには込められています。
この身の幸家族、過去の家族とどのように違うのでしょうか?そこで、40年くらい前からの家族像の変遷を捉えてみたいと思います。
80年代から90年代前半の安定成長期を代表する家族像は「背伸び家族」でした。「よりよい生活」という目標を全員で追いかけていたのがこの時代の家族の特徴です。その後、バブル崩壊を経て90年代後半から00年代の「失われた15年」と呼ばれる混乱期が到来。その時代の家族像を代表していたのが、生活不安の中で間違いのない幸せを守ろうとする「身の丈家族」でした。そして2010年代に入り、低成長が当たり前の中、本格的な共働き化と共に登場し始めたのがミレニアル家族です。彼らは、厳しい環境の中にあっても委縮せず、お互いに助け合いながら自分たちなりの基準で、身近に幸せをつくりだす「身の幸(さち)家族」なのです。
ではこのような身の幸(さち)家族は日々どのように買物をしているのでしょうか?
分析をしてみると、身の幸(さち)家族の3大行動原則に即した3つの特徴が見えてきました。
夫の買物参加率が高まっており、「買物係=妻」という偏りが少なくなっています。
ミレニアル家族の夫の買物の定期的実施率は24.7%。買物同行率は45.3%に上ります。生鮮や総菜、トイレタリーなど日用品の買物にも夫が同行しているのです。このように夫婦一緒に買物をすると、夫婦の意見を合わせられ、買物の失敗も少なくなり、夫一人でも買物できる知識を得ることが出来ます。そんな「みんなでも、だれでも買物が出来る」フレキシビリティを実現しようとしているのです。
実際にインタビューをしても、夫が自分で担当する家事の道具で使いやすいものを選んだり、値引きを気にして惣菜を買うなど夫でさえも主体的に買物に関わっている実態が見えてきました。
ミレニアル家族は、共働きも多く忙しく、家族との時間も大切にしたいので買物にあまり多くの時間をかけられません。そこでかつてのように「品ぞろえがあるほど良い」という意識ではなく、あらかじめ一定の品質や基準で商品を絞り込んでおいてほしいという意識を持っています。
データで見ても「買物で迷いたくない」という意識は42.8%、「ある程度絞られた中から選んで買いたい」という意識も26.8%とアラウンド50家族を上回っています。
さらにインタビューでは、「商品の多すぎるショッピングモールは疲れる」「いっぱい商品を買うときは、国産に絞り込まれたスーパーに行く」などの声が聞かれました。時間もなく、商品も情報も氾濫する現代だからこそ「あらかじめチョイス」された商品提案をミレニアル家族は求めているのです。
ミレニアル家族は「休日は家族と過ごしたいけど、買物もしたい(しなければいけない)」という家族の時間とタスクのジレンマを持っています。
さらに「買物は楽しみたいけれど、ついでにしたい」という意向も持っていることがわかりました。楽しみたいけれど無理して遠方に行くわけではなく、家族の楽しみの中に「ついで」として買物を位置づけようとしているのです。このように忙しい日々の中で、家事=タスクであっても自分の楽しみへと融合させる「敢えて楽しむ」意識は日々の買物にも反映されています。
実際に、インタビューからも日用品の買物出会っても子供向けのイベントのある場所に行ったり、お惣菜を買う際は楽しい買物体験がある場所で買うようにしているなど、敢えて買物を楽しもうとする「買物テイメント」意識が見られました。
さて、このように家族意識と同様に、これまでの価値観にとらわれず柔軟に工夫しているミレニアル家族の買物実態。私たちは上記のような買物行動、意識をまとめ「身の幸(さち)家族のフレキシ消費」と名付けました。時間がない、けれど買物も楽しみたいし、家族ともすごしたい…そんな様々な制約、ジレンマの中にあっても、工夫をしながら幸せを創りだす。新しい家族の買物行動です。
ではこのようなミレニアル家族、さらに「フルタイム共働き世帯」「専業主婦世帯」などを比較するとどのような発見があるのでしょうか?さらにディープな分析から見える発見をこれからお届けいたします。
1980年神奈川県生まれ。 2003年東京大学教育学部卒、 同年、博報堂入社。マーケティングプランナーとして教育、自動車、飲料、トイレタリー、外食などのコミュニケーションプランニングを担当。07年より博報堂大学こどもごころ製作所プロジェクトに 参加し、クラヤミ食堂など体験型コンテンツの企画、運営を担当。11年より博報堂生活総合研究所にて、生活者の未来洞察コンテンツの研究、発表を担当。「総子化」「インフラ友達」「デュアル・マス」などの制作・執筆に関わる。15年より博報堂買物研究所に異動。近未来の買物行動予測研究と、買物行動を起点としたマーケティングに従事。