博報堂ブランドデザインが東京大学と開催する、大学生のためのブランドデザインコンテスト「BranCo!(ブランコ)」。1チーム3~6名の学生が協力して、課題となるテーマについて様々な視点から調べ、考え抜き、魅力的な商品・サービスブランドのアイデアをつくりだして競い合うチーム対抗形式のコンテストです。2012年に開始し、これまでのべ99大学1830名の学生が参加しています。
今年、5回目を迎え、「BranCo!2017」として始動しました。
※ニュースリリース http://www.hakuhodo.co.jp/archives/newsrelease/33888
…なぜ博報堂がブランドデザインコンテストなのか?
実施の背景、込めた思いなどを、当コンテスト主催の博報堂ブランドデザイン・宮澤正憲代表が語ります。
―5年目を迎える「BranCo!」ですが、そもそもの実施の背景を教えてください。
私が代表を務める「博報堂ブランドデザイン」は、ブランドをつくる仕事をしています。企業や団体・自治体向けに、コンサルティングのほか、商品開発、組織開発など幅広くお手伝いしているのですが、その中で、ブランドづくりで用いる発想法はすごく汎用性が高いなと思い始めました。でも、基礎的なスキルなのに、あまり学ぶ機会がないし、かといって社会人になってから教わるようなものでもない。
そのころ(2011年)、たまたまご縁があって東大で授業を持つことになり、「正解のない問いを共につくる」というテーマを立てました。正解のないものを、チームで、どんなプロセスで考えていくか、発想法の基礎を学んでいただくものです。意外と大学ではほぼ教えていない内容だったようで、これが今も東大の授業の一環として続く「ブランドデザインスタジオ」です。
始めたら、1年目から評判になって、他の大学生からもやりたいという声が来た。かと言って、僕らが全部の大学で授業するわけにもいかない…。じゃあ、もうちょっと簡単に、このエッセンスだけでもいろいろな学生さんに学んでもらえたらという思いから立ちあげたのが、この「ブランドデザインコンテスト」なんです。
―なるほど、もともとはブランドデザインスタジオから始まって、それが拡大していったのですね。実施が決まってから実際にコンテスト化するのに、苦労した点はありますか。
実は、最初はこじんまりやろうと思っていて、大した告知もしなかったんです。でも、ふたを開けたら200人以上の参加者がいた。ほとんど口コミで集まったのですが、それが大変というか、予想外でしたね。予定していた会場に入りきらず、てんやわんやでした(笑)。2年目以降も年々増えて、去年だと650名ぐらいの学生が参加してくれています。
こういう機会って、一部のゼミや大学院にはあると思いますが、一般的な大学生向けにはあまり整備されていないと感じます。機会を待ち望んでいた学生が多いなという印象でした。
―毎年、“あるテーマでブランドデザインすること”がお題ですが、具体的に学生に提供している、いわゆるブランディングのヒントを教えてください。
「リボン思考」と「チームワーク」です。「正解のない問い」を「リボン思考」で考えて、それを共につくる=「共創」でつくるというのが、基本的な教えているエッセンスですね。
「リボン思考」は、ブランドが完成するまでのプロセスを「インプット」「コンセプト」「アウトプット」の3つのステップで考えるシンプルで汎用性の高い発想法です。インプットではできるだけ多くの情報を収集し(拡散)、コンセプトを絞り込み(収束)、そこからアウトプットを多彩に拡げていく(拡散)フレームで、図の形状がリボンのような形のためこのように呼んでいます。
「チームワーク」は、博報堂およびブランドデザインが特に大切にしている要素で、多様な個が集まってつくるアウトプットこそ、新しくて価値があるものが生まれると考えています。そのためチーム内での「共創」はもちろん、セミナーや懇親会では、できるだけ他のチーム・大学の学生と話す機会を提供するようにしています。
一方で、「共創」は「競争」、つまり「Competition」の意味も含んでいます。健全な競争環境にあることで学習の意欲が高まるので、ここはあえてコンテスト形式にしているんです。
これらのブランディングのヒントは、いつも最初のセミナーで参加者に伝えています。そのほか、1次予選を通過したチームには、個別に博報堂社員のアドバイザーをつけてもう少し深い内容を学んでもらっています。
―毎年、テーマが難しいですよね。「嘘」「学び」など…。どのように決められているのですか。
基本的には、ブランドデザインメンバーと学生スタッフとのブレストで決めています。
それ自体が何となく概念的で、わかるようで実は考え出すとすごく難しいものが毎年のテーマになっています。「正解のないもの」を考える際は、そもそもそのテーマをどうとらえ直して、どう定義するかが実はとても大切です。そのためあらかじめ定義がしっかり決まっているものだと、ちょっとつまらない。あえて正確な定義がないものを毎年選んでいますね。
―これまでの参加学生の活動で印象に残っているものはありますか。
参加するチームは、それぞれ独自性を出そうとかなり工夫してますね。例えばリサーチにすごくこだわっているところもあるし、逆に、アウトプットの最終クオリティーに徹底的にこだわって、実際の商品までつくるチームは多数あります。あと、プレゼンや衣装に凝るところもある。けんかして、殴り合い寸前までいったけれど、最終的には仲良くなってプレゼンしたとか、毎回エピソードを聞くたびに、おもしろいなと思います。
―審査についてお聞きします。毎年4チームが最終決勝に残って、1チームの優勝が選ばれていますが、どういう基準なのですか。上位入賞チームには、共通している点がありますか。
このコンテストの大きな特徴に、アウトプットはもちろん、同時にプロセスも評価するというものがあります。具体的には、「リボン思考」の中身である「インプット」「コンセプト」「アウトプット」、さらに、チームワーク(一貫性)、プレゼンテーションの5項目で採点しています。
最初の予選だと、一点突破で点が上がって勝つチームが多いですね。定義がすごくおもしろいとか、アウトプットがユニークとか、変わったリサーチをしているとか。でも、最終の4チームぐらいになると、どのレベルも高くて、総得点勝負になる感じではあります。
これには、途中のアドバイザーの意見なども活きていると思います。「あなたのところは、アウトプットはいいけど、リサーチをもうちょっと強化してね」といったように。ただ、参加するみなさんには、難しく考えずにまずは自分が得意なところで、勝負してほしいですね。
―博報堂社員との掛け算というのは、参加学生にもいい影響を与えていますか。
そうですね。単純に社会人と話す機会が得られるというのもありますが、互いに「企画」や「発想」という共通言語で話せるのが魅力だと思います。学生さんでも、その企画に対してかなりの時間をかけてつくってくるので、かなりレベルの高い話を社員としている印象があります。
社員にとっても、学生ならではの着眼点から、多くの学ぶことがあるみたいです。
―ここからは、「BranCo!2017」について教えてください。今年は関西でも実施することになりましたが、どういった経緯だったのですか。
これまで、関西からわざわざ来てくれる学生が結構多かったんですね。去年優勝したチームは関西のチームだったのですが、優勝賞金は全部交通費で飛んだなんて話していて(笑)、かわいそうだな、機会があれば関西でもやりたいなと思っていたんです。そしたら今年、たまたま元社員のつながりで、同志社大学が興味を持ってくださり、話が進みました。
もちろん全ての大学にオープンにしているコンテストなので、関西のいろんな大学生が来てくれるといいですね。
―それ以外に、これまでの「BranCo!」とは違う試みはありますか。
毎年おもしろいアイデアが出るので、それをちゃんとカタチにする仕組みができないかと、考えています。今年、クラウドファンディングサービスを運営するREADYFORさんに協力いただいているのはその意図です。
―今年のテーマの発表は12月3日ですが、待ちきれない学生のみなさんのために、ヒントをお願いします!(笑)
そうですね。テーマとしては、今年も「正解のない問い」で、みんなが知っているけれども、考えると難しいテーマです。でも、うまくいくと、ちょっと世の中が幸せになる可能性があるようなテーマですね。去年の「学び」と同じくらい、もしくはちょっと難しい?レベル感だと思ってください。
―発表が楽しみですね。BranCo!の今後の展望はいかがですか?
学生さんの発想や企画の基礎力を上げたいという思いがあるので、今後は高校生版もつくれたら面白いですね。とにかく気軽にいろんな人がこの思考について触れられる場を増やして、日本全体が発想力豊かになるといいなと思います。
もともとのコンセプトは、「企画の甲子園」なんです。みんな野球を熱心にやったりするのって、やっぱり甲子園があるからだと思うんですね。演劇も、「全国演劇大会」とかあると、演劇部がすごく燃えるとか。「発想」も一緒。何かゴールがあることが、学ぶ一番の仕組みじゃないかと思います。
―最後に、学生さんにメッセージをお願いします。
今年も、意気込みのある学生さんにたくさん来ていただけるといいなと思いますね。ちょっとハードル高そうに見えても、やってみないとこの楽しさはわからないので、とにかく気軽に一回参加してもらえたらと思います。世界が広がる可能性はあるんじゃないかな。
東京大学文学部心理学科卒業。2001年に米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院(MBA)卒業後、次世代型ブランドコンサルティングの専門組織である「博報堂ブランドデザイン」を立上げ、ビジョン策定、企業戦略、新事業開発、CI、商品開発、空間開発、組織開発、人事研修など多彩なビジネス領域において実務コンサルテーションを行っている。また、イノベーションコンサルティングの専門組織「博報堂イノベーションデザイン」及び地域や社会課題解決の専門組織「博報堂ソーシャルデザイン」も率いながら、多様な領域で活動を推進中。2013年より東京大学教養学部にて共創型アクティブラーニング授業プログラム「ブランドデザインスタジオ」を運営するなどビジネスと高等教育の融合にも取り組んでいる。成蹊大学非常勤講師。
主な著書に「「応援したくなる企業」の時代」(アスキー)、「ビジネスを蝕む 思考停止ワード44」(共著、アスキー)、「「個性」はこの世界に本当に必要なものなのか」(共著、アスキー・メディアワークス)、「ブランドらしさのつくり方-五感ブランディングの実践」(共著、ダイヤモンド社)など。