※「博報堂イノベーションデザイン」:企業のイノベーション創発活動支援の専門チーム
※「博報堂こそだて家族研究所」:こそだて家族に関する専門ナレッジをもつプランニングチーム
高齢者人口は急速に増加し、彼らの生活や意識の変化がもたらすインパクトに社会の関心が集まっています。いま、ありとあらゆる領域で「長寿人生」を前提としたシフトが進んでいます。自分らしいペースでの働き方、家族と適度な距離感で快適に付き合い続けられる住まい方、特定の時期に限定されない生涯を通じた学び方、など、寿命が伸び続ける社会においては単に身体的に健康であるだけでなく精神的、社会的にもいつまでも満足し続けられるような暮らし、すなわち「ウェルビーイング」が国家・企業・個人の最大の関心事となっているといっても言い過ぎではないでしょう。
それに対して、昨今、こどもの数は減り続けています。日本では、かつて一大ボリュームを誇っていたこどものいる家族(こそだて家族)は社会的にマイノリティとなりつつあります。
社会の目が高齢者に注がれると、必然的に「年金」「医療」など高齢者と関わりが深い領域にリソースが割かれ、マイノリティであるこどもたちやこそだて家族の「ウェルビーイング」の優先順位は下がっています。例えば、まちづくりにおいては介護・医療施設などが優先され、こどもたちが伸び伸びと遊べるような場の確保・充実は後回しにされているかもしれません。
しかしながら、このような現状はこどもたちやこそだて家族にとって悪いことばかりではありません。ユニバーサルデザインなど高齢者にとって安全で快適な空間はこどもにとっても安全で快適な空間であることが多いですし、シングルマザーと高齢者のシェアハウスなど、両者それぞれの困りごとをマッチングさせた多世代交流型のビジネスも広がりつつあります。
また、共働き世帯の増加やIT技術の進化などを背景に、こどもたちを取り巻く環境は大きく変わってきています。オンタイムでスムーズにやり取りできる教育サービスやシッターサービス、母親同士などで相互サポートを支援するアプリ、他にはないユニークな特色をうたう保育・学童施設の増加など、デジタルテクノロジーの力も借りて、多様なライフスタイルニーズに応えるサービスが台頭してきています。
一方で、都心を中心とした待機児童・学童保育不足問題、過疎地域での人口減少による教育インフラの危機、公共機関でのバギー使用可否論争、保育所建設に対する地元住民の反対運動など、こどもたちとその家族を取り巻く環境は、社会の変化を受けて新しい悩みもクローズアップされるようになりました。特に、核家族で周囲からの支援が得られにくい「孤育て」問題はこどもにとっても家族にとっても好ましくない影響が懸念されていて、地域ぐるみでなんとかしないといけないという風潮も広がってきています。
このように、こどもやその家族を取り巻く環境には、増える共働き世帯の多様なライフスタイルニーズを叶えるサービスが新しい動向として注目されてきている一方で、そのような暮らしを快適に楽しく実現するにあたってのいままでなかったような不便さ、不自由さ、障壁が立ちはだかっています。
ジャンルや世代を問わず、新しい生活のヒントはしばしば不自由さ、不便さ、障壁を乗り越えようとするチャレンジから生まれています。わたしたちは、いまだからこそ、こどもたちが伸び伸びと笑顔で育つ未来を考えてみることが、社会全体がもっと豊かに変化するための示唆につながるのではないかと考えました。
こどもが減っていく中で学校はどのように役割をシフトしていくべきか?「孤育て」家族にとっての理想的な住まいの間取りは?こども発想で考える魅力的なヘルスケアとは?こどもが1人でも安心して行動できる公共インフラとは?山のように積まれているこれらの問いへの答えを考えていくことは、こどもたちや家族だけでなく結果的にすべての人々の暮らしにとっての「ウェルビーイング」のヒントになるのではないか。私たちはそのように考え、未来のこどもたちの暮らしに思いをはせてみることにしました。
次回以降は、具体的なワークの内容について紹介していきます。