※「博報堂イノベーションデザイン」:企業のイノベーション創発活動支援の専門チーム
※「博報堂こそだて家族研究所」:こそだて家族に関する専門ナレッジをもつプランニングチーム
博報堂イノベーションデザインの提供する「Future Senario Mapping」というプログラムを使い、こそだて研メンバーを中心に「未来のこそだて家族シナリオマップ」を作成しました。
「Future Scenario Mapping」とは、未来の社会や生活者の変化を示唆した未来シナリオを、時系列にプロットし、全体の変化のベクトルが一覧できるように可視化したマップを作成するプログラムです。マップは、チームや組織ならではの未来に向けてのヴィジョンやアイデアを共有し、さらに独自の未来をつくりあげる活動にドライブをかけていく触発材として機能します。また、マップというアウトプットそのものだけでなく、既に発表されている未来に関する事象や兆しを収集し、それらをひとつひとつ共有しながら未来社会に与えるであろう影響を徹底的にディスカッションし、未来への見立てを構築し、複数の未来シナリオとしてまとめていくというメンバーが一丸となって進めるプロセス自体も、組織全体のイノベーション力強化につながります。(>詳しくはこちらをご覧ください)
マップ作成は、以下のようなプロセスで進めていきます。
今回のワークショップに参加したこそだて研のメンバーは、ほとんどが現在こそだて中のプランナーやクリエイターたちです。ワークショップでは、それぞれのプロフェッショナルとしての業務上の知見だけでなく、こそだてや仕事に日々邁進するなかで生まれるいち生活者としてのさまざまな思いや問題意識を寄せあつめ、未来への見立てに対する議論や解釈を重ねながら共同でシナリオ、マップを作成しました。
こそだて関連のテーマにおける、現在既に発表されている未来に関するニュースや記事を広く収集し、重要なものを選んで絞り込みます。
ベーシックスタディでは捉えきれないような、現状の延長線上で考えているだけでは確からしさが判断しづらい未来の兆しのヒントを探しに行きます。今回は、こそだて関連で新しい取り組みをしている有識者複数名へのヒアリングを実施しました。
上記のプロセスで収集・分析した情報について、ワークショップ形式でディスカッションを重ねながらそれぞれの情報に関する未来への示唆を見つけ、それらの示唆を特定の文脈に基づきコンセプト化、ストーリー化できるように編集をするとシナリオが出来上がります。つくったシナリオを、それが起こりうるタイムラインを想定して時系列にマッピングしたらマップの原型の出来上がりです。
「これほど集中的に未来について議論する機会もなかなかないので楽しかった。」
「大変だったが、膨大な情報からなかば強制的に未来に起こることを考えていく過程で、今までは考えつかなかった新しいアイデアがどんどん浮かんできた」
など、このようなプロセス自体を体験することの意義を強く感じたという声が多くあがっていました。
ワークショップでつくったマップの原型を整理・統合した上でブラッシュアップすると、下記のようなマップが出来上がりました。
マップは、約30個のシナリオから構成されています。背景や意味合いが似たシナリオ同士は同じグループに分類し、グループを統合したタイトルを付けました。
シナリオ同士になんらかの相関がありそうな場合は線で結んでいます。例えば、「教育の個性化・カスタマイズ化」の流れが進んでいくと、より自分や自分の子供にマッチした教育環境を求めて特色ある教育方針を打ち出す地域や特定の学校を主体的に選択すること(「教育価値観で居住地を選択」)が当たり前になることが考えられ、この2つのシナリオは背景と結果、という相関が考えられます。相関は背景と結果だけでなく、相反する動向や変化のドライブ要因といったベクトルも含まれます。線が多く集まるシナリオは、色々な世の中の動きとの関連が示唆される重要なシナリオとして注目します。
線の付け方やグルーピングの仕方によって、未来変化の方向性は何通りにも考えられますが、大切なのは「どの未来が起こりそうか」といった「予測」「受身」のスタンスではなく、方向が複数ある中で「自分たちなら、どの未来をつくっていきたいか」という「創造」「攻め」のスタンスを、組織・チームとして持ち続けることであると私たちは考えています。なぜならば、社会や生活者の変化が加速度的に早まっている昨今において、未来を「予測」しその予測通りに備えていく、という待ちのスタンスでは世の中の流れに遅れてしまうだけでなく、常に未来への意思をアップデートし続けなければ組織の弱体化にもつながりかねないという問題意識があるからです。
このように、複数のシナリオを時系列でプロットしその相関も含めて一覧できるのがこのマップの特徴です。組織やチームの目的に合わせてテーマを設定し、情報収集、マップ制作、という手順で作成します。
マップは、ただ資料としてとりまとめるだけでなく、共有体験が最大化するアウトプットとして制作することをお薦めします。例えば、オフィスの共有スペースの目玉コンテンツとして、マップの内容を巨大なデジタルウォールに投影してもよいかもしれません。できるだけ多くの人がマップを目にし、マップの情報を共有することをきっかけとして未来に対する共通見解や思いをディスカッションする媒介として機能させることが、組織イノベーション力の強化につながるからです。
さらに、マップは一度つくって終了というたぐいのものではなく、作成したシナリオは時間の経過や社会の変化に応じて常に追加、変更していく必要があります。グルーピングの仕方や相関線のつけ方は個人やメンバーの主観が大きく影響してくるので、作成するメンバー次第でマップの全容も変わってくるかもしれません。
つまり、マップは常に編集・アップデートしつづけることを前提として作成するのがその機能や価値を発揮しやすい、のぞましいあり方となります。
こそだて研メンバーでのマップ作成セッション終了後、マップを作成するプロセスで気づいたこと、発見したことを話し合いました。議論はさまざまな方向に広がりましたが、その中でも特に盛り上がったトピックとして、「新職業」の可能性が挙がりました。
世の中全体の急速な変化のスピードの中で、「こそだて」や「教育」などのトピックスは、高齢化やIoT化、働き方、エネルギーのあり方などの他の領域の動向と相互に強く関連しあい、化学変化を起こしていくことが予想できます。その結果、こそだて家族やこどもたちを取り巻く環境も今までとは全く違う新しい役割を担うプロフェッショナルが期待されるようになるのではないでしょうか。例えば、「地域コーディネーター」、「こそだて方法のコンサルを専門とする人」、「家族構成員全員のキャリア開発コンサルタント」、「ITとこどもとの関わり方指南」、など、こそだてや教育領域の既存の規定路線を超えていく仕組み、また具体的な人やモノが急激に必要とされるのではないか、議論はそのような方向に深まっていきました。
こどもやこそだて家族の未来をみることで、社会全体でこれから必要とされる職業や役割の可能性が浮かび上がってきたのです。
次回は、マップセッションから見出された未来シナリオや新職業の可能性について、具体的にご紹介していきます。
・「こども」を通じて「未来」を考えてみる―。“「こども未来」発想”とは?①