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ブランドたまご 第27回 / 10年で4つのブランドを立ち上げた老舗和菓子屋。ターゲットは、健康、美容、スポーツ!?「からだにえいたろう」

2017.11.16
#イノベーション#ブランディング#博報堂ブランド・イノベーションデザイン
江戸時代から続く、日本橋にある榮太樓總本鋪の本店にて。左より、榮太樓商事の林大樹さん、博報堂ブランド・イノベーションデザイン加藤由佳、榮太樓總本鋪の細田眞社長。
「ブランドたまご」とは、生まれて間もない、まさにこれから大きく羽ばたこうとしている商品ブランドのこと。中でも、伝統を活かしながら革新を起こしている魅力あふれるブランドに注目し、その担い手に博報堂ブランド・イノベーションデザインのメンバーが話をうかがう連載対談企画です。
第27回に登場するのは、来年で創業200年を迎える老舗にもかかわらず、最近10年で新しいブランドを4つも世に送り出している、榮太樓總本鋪の細田眞社長と、榮太樓總本鋪の外商営業等を担う榮太樓商事の林大樹さん。「糖質制限」という言葉が流行する現代に、老舗の和菓子屋が試行錯誤の末にたどり着いた答えとは。そして、ゆずれない信念とは―。
「甘いものは別腹」がモットー、博報堂ブランド・イノベーションデザインの加藤由佳が、糖質を気にする方にもやさしい和菓子シリーズ「からだにえいたろう」ブランドに迫ります。
ブラたまポイント:
①原点は江戸時代。日本橋の人々に可愛がってもらった恩を忘れない
②新しいブランドの答えは、自分達が持っているものの中にある
③もの作りに妥協していないから、表現は貪欲にチャレンジできる
④きっかけは、「榮太樓のお菓子が食べられなくなった」というお客様の声
⑤お菓子は人を幸せにする。その原点は譲らない。

原点は江戸時代。日本橋の人々に可愛がってもらった恩を忘れない

榮太樓總本鋪(えいたろうそうほんぽ)は、江戸時代から続く日本橋の老舗の和菓子屋さん。「きんつば」や「飴」を中心に、様々な和菓子を昔ながらの製法を守りながら発売しています。また、時代に合わせて新しいブランドを作り出している、革新の担い手でもあります。今回取材したのは、「糖質制限」という現代のニーズに真正面からこたえた新ブランド「からだにえいたろう」。今年の6月に発売したばかりですが、若い人だけでなく、昔からの榮太樓ファンからも評判を集めているそうです。

榮太樓商事「からだにえいたろう」の商品群。手前左から、ポリフェノールあずき茶、スローカロリーよもぎ豆大福、糖質をおさえたようかんこし餡、奥左から糖質をおさえたようかんこし餡6本入、スローカロリーどら焼き5個入。

加藤:「榮太樓」は日本橋の老舗の和菓子屋さんですが、読者の中には知らない方もいると思いますので、細田社長から簡単に会社の成り立ちを教えていただけますか。

細田:今の日本橋に店を構えたのが1857年。私たちの原点ともいえる商品は「きんつば」なのです。魚河岸でとても人気だったと聞いています。当時、屋号は井筒屋という名前だったのですが、「井筒屋」とは呼ばれずに、3代目の下の名前である「栄太郎」の愛称で呼ばれてました。魚河岸の皆さんから「お〜い、榮太樓さん。きんつば持ってきてよ」と可愛がられていたそうです。そこで、屋号を「榮太樓」に変えてしまいました。創業から来年で200年を超えますが、江戸のみなさんに可愛がってもらったからこそ今があると考えています。

榮太樓總本鋪の細田眞社長。

加藤:日本橋の人たちに、「榮太樓さん」は大人気だったんですね。

細田:はい。ですから、私たちは和菓子屋ではありますが、京都や金沢にあるような高級な和菓子を作るのではなく、きんつばや大福など、気軽に楽しめてお腹にたまる、そんな和菓子を作っています。

新しいブランドの答えは、自分達が持っているものの中にある

加藤:江戸時代から続く老舗の榮太樓ですが、「あめやえいたろう」や「にほんばしえいたろう」など、最近次々と新しいブランドを生み出していますよね。
新ブランドを立ち上げるきっかけについて教えて下さい。

細田:「あめやえいたろう」が生まれたのはいまから10年前、ある百貨店さんからお声がけ頂いたのがきっかけです。本店をリニューアルするから、何か新しい提案はないか、と言われたんです。最初は「あんこ」を使った商品を提案したのですが、百貨店さんからは「和菓子屋であんこは当たり前だから、別ものを考えてくれ」って差し戻された。
「おいおい、ちょっとまてよ・・」と悩んだのですが、百貨店さんから「榮太樓といえば飴があるじゃないですか。飴で考えて下さい」という逆提案がありました。

加藤:たしかに、きんつばと並んで飴も榮太樓の主力商品ですよね。

細田:はい。百貨店の和菓子屋で「飴」を扱っているところは、榮太樓ぐらいなものです。中心的な商品でしたが、かといって売れているわけでもない。社内でも「飴で提案なんかできるのか?」という声もあり、正直言って自信がなかったんです。
しかし、ある女性社員が中心となって、色々なバリエーションの飴を開発しました。化粧品の「グロス」のような飴や、宝石のような飴など、従来の飴とは全く違うテクスチャーや味で提案したところ、百貨店さんからの評価も高く、実際に発売した後もとても注目されました。

榮太樓總本鋪「あめやえいたろう」の主力商品、スイートリップ。有平糖をベースにした「みつあめ」をチューブに入れている。グロスリップのような見た目が女性に人気。

加藤:それくらい、「あめやえいたろう」は榮太樓にとって画期的な新商品だったんですね。

細田:とてもインパクトがありました。ただ、あれを「新商品」だといわれると、ちょっと違和感があるんです。というのも、見た目は新しいですが、飴を作る技術や行程は、榮太樓が200年間培ってきたものから変えていません。
ですから、「あめやえいたろう」での一番気づきは、「自分達が持っているものを見直して、提案の仕方や見せ方を変えれば、売れ行きが落ちているものでも良くなる可能性があるぞ」ということです。
自分たちの『商品』に自信が持てましたね。

もの作りに妥協していないから、表現は貪欲にチャレンジできる

加藤:それが、つぎの「にほんばしえいたろう」につながるんですね。

細田:はい。「にほんばしえいたろう」は、飴やせんべいなど、色々なお菓子を小袋に詰めたシリーズです。1袋200円均一にして、好きなモノをチョイスしていただけるタイプで、アトレさんなどで展開しています。
小袋に分けた商品はこれまでも結構ありました。しかし、煎餅屋さんの小袋は煎餅だけ、豆屋さんの小袋は豆だけですよね。そこで、幅広いジャンルのお菓子をシリーズで展開したところ大好評に。ついで買いも誘って、客単価も上がりました。

榮太樓總本鋪「にほんばしえいたろう」は、もっと和菓子を身近にしたいという志から生まれたブランド。

加藤:次々とブランドを生み出して、しかも成功を遂げた、最大の要因は何だと思いますか。

細田:そうですね。「ベースはこれだ」というものがあるところがポイントでしょうね。時代によって、表現のしかたを変えていますが、作り方へのこだわりや、おいしさにこだわる点は、絶対に変えません。例えば、人工甘味料や香料は基本的には使いません。「ものづくり」を妥協していないからこそ、それ以外の表現方法に対しては貪欲にチャレンジできるんだと思います。

きっかけは、「榮太樓のお菓子が食べられなくなった」というお客様の声

加藤:そんな榮太樓の新しいチャレンジが、「からだにえいたろう」ですね。
ここからは、担当した林さんにもお聞きしてみたいと思います。

林:はい。私は昨年8月に榮太樓商事に入社したばかりなんです。

加藤:そうなんですね。以前はどんなお仕事をなさっていたんですか?

林:それまでは、データアナリストの仕事をしていました。

加藤:えっ、食品関係ではなかったんですね。

林:はい。ポイントカードなどのビッグデータを分析して、クライアントに情報提供するデータアナリストでした。

榮太樓總商事の林大樹さん。

加藤:全然関係ないお仕事だったんですね!なぜ榮太樓に転職しようと思われたのですか?

林:実は、ここにいる細田社長のインタビュー記事を読んだのがきっかけだったんです。
「あめやえいたろう」が発売された時の記事だったのですが、先ほど話していた「温故知新」の話をしていたんですね。

細田:そんな記事、あったかな(笑)。覚えてないんですよね。

林:その言葉に感銘を受けて転職したのですが…(笑)。もともと、榮太樓は小さい頃に母親と一緒にお店に行っていて知っていたのですが、その記事をよんで、こんな新しい挑戦をしているのかと衝撃をうけて。もともと、食品の商品開発をやりたかったので、転職を決めました。

加藤:そんな林さんの最初の仕事が、「からだにえいたろう」だったんですね。

細田:実は、健康感を大事にした和菓子を作りたいという思いは、榮太樓として10年以上前から持っていました。特に近年「低糖質」が流行っていますが、和菓子は砂糖の固まりですからね。

林:私が入社する前に、榮太樓をひいきにしてくださっているお客様から「体調を崩して糖質制限しているので、榮太樓のお菓子が食べられなくなっちゃった」という声があったそうなんですね。なんとかしたいと商品化に舵を切りました。

加藤:たしかに、低糖質は社会的にブームにもなっていますね。でも、老舗の和菓子屋さんが取り組むのは、とても珍しいですよね。

林:そうなんです。糖質を変えるという事は、和菓子屋の命である「砂糖」とか「小豆」を触るということです。迷っていた時にお会いしたのが、北里大学北里研究所病院の山田悟先生(糖尿病センター長)でした。
山田先生が提唱していたのは、やみくもに糖質をカットするのではなく、1日に必要な糖質を、必要な量だけ取りましょうという「適正糖質」という考え方でした。一食あたりの糖質を20g~40gに、間食は10gに抑えましょう、という目安の中で、おいしく適正量を食べようとおっしゃっています。
そこで私たちも、糖質を10g以下に抑えた和菓子ができないかと考えたのです。

加藤:世の中にはたくさんの低糖質やカロリーオフのお菓子などがありますが、おいしくないものもありますよね。榮太樓クオリティに持っていくのは相当大変だったと思うんですが、やはり原材料から見直したんですか?

細田:まさにそこなんですよ。糖質を減らすには、やはり砂糖を減らさざるをえない。でもね、砂糖が入ってない和菓子は美味しくないんですよ。
山田先生からも、当初は「甘ささえ感じれば、人工甘味料でいいじゃないですか」と言われたのですが、そこは譲れなかった。食事ならまだしも、菓子は甘ければいいってもんじゃない。美味しくって、心が豊かになり、笑顔になれないと、菓子じゃないですよ。
それを作るのが、本当に大変だったのですが(笑)

林:結局、天然由来の甘味料を使いながらも、砂糖も使っているんです。でも、砂糖の量を減らせば、全部のバランスが崩れますから、あんこの研究からやり直しました。
丸々1年間かかりましたが、試作品はどれくらい作ったかな…。

細田:例えば「ようかん」は、私が食べただけで30以上はあったから、試作段階では200回は超えるんじゃないの?
最初はジャリジャリしていて食べられたものじゃなかったよね。

林:そうでしたね。今回、原材料の一部は変えていますが、作り方の行程はほとんど変えていないんです。
昔からと同じように、寒天や水飴を使い、練っていく。味のクオリティが保てたのは、榮太樓がもつ技術があったからなんです。

加藤:ただお腹を満たすだけでなく、おいしくなくてはお菓子じゃない。そんなブランドの考え方があったんですね。
ネーミングもとても親しみがわきますね。
やはり、「えいたろう」という言葉は入れたかったんですか?

林:いや、それにはこだわってなかったですね。漢字の名前からカタカナの名前まで色々候補はあったのですが、満場一致で「からだにえいたろう」になりました。「からだによい(えい)」と、「えいたろう」の2つの言葉が重なっているんです。

からだにえいたろうのロゴマーク。

お菓子は人を幸せにする。その原点は譲らない。

加藤:まだ発売されてから数ヶ月ですが、反響はいかがですか?

林:そうですね、お客様からは「おいしい」という反応が多くて、とても嬉しいです。そこにこだわっていたので。昔からの榮太樓のファンの方からも、応援していただいてます。あとは、「健康と和菓子の組み合わせが面白い」という反応も多く、テレビ取材や雑誌の記事にも出させていただきました。

加藤:まだスタートしたばかりですが、「からだにえいたろう」ブランドの今後の展開についても聞かせてください。

林:ブランドを立ち上げる時に、「健康、美容、スポーツ」という「3つの大切なこと」を掲げたんです。まず第一弾として、健康をテーマにした和菓子を発売。第二弾では、美容にも良いポリフェノールが豊富な小豆茶を出すことができました。
今後、第三弾としては、ジョギングなど日常的にスポーツを楽しんでいる人に向けた新しい商品を出していく予定です。

細田:具体的には、アミノ酸を使ったお菓子なんですけどね。まさに開発中なのですが、アミノ酸は扱いが難しい上に、美味しくするのが難しい。この間、試食品を食べたのですが、アミノ酸を供給してくれる会社の方は口々に「榮太棲さん、美味しいですね!」と言ってくれるのですが、私にしてみれば全然でした。味に妥協せずに、美味しいスポーツ用のお菓子を作りたいと思います。

加藤:開発は大変でしょうけど、楽しみです。最後に、榮太樓の今後の展望について聞かせてください。

細田:榮太樓は江戸時代からお客様に育てられてきたブランドですので、それを守っていきたいですし、こちらから新しい提案をしていきたいですね。罪悪感なく食べられる事を「ギルドフリー」と呼んでいるのですが、そんなお菓子を作りたいと思っています。
食べるものは、人の体と心を健康にするためにあります。そこで喜んでもらえるものをつくる、ということを、これからも忘れずにいたいですね。

加藤:おいしい「お菓子」を作るのではなく、おいしいという「幸せ」を作っているのが榮太樓なんですね。お話を聞いていて、お客様に育てられたからこそ、お客様の気持ちや時間など、本質的なことを見つめている企業なんだな、と感じました。ただおいしいものを作っている菓子ではなく、人間を見つめている。さすが老舗だなぁと改めて感じました。
今日はありがとうございました!

取材終了後、細田社長にお店をご案内いただきました。法被には昔の屋号「井筒屋」のなごりが残っています。

■ご参考■
榮太樓總本鋪 http://www.eitaro.com/
からだにえいたろう http://www.karadanieitaro.jp/

【撮影協力】桑原雷太

ブラたまEYE ~編集後記~

博報堂ブランド・イノベーションデザインでは、これからのブランドには「志」「属」「形」の3要素が不可欠だと考えています。「志」はその社会的な意義、「形」はその独自の個性、“らしさ”、「属」はそれを応援、支持するコミュニティを指しています。(詳しくはこちらをご覧ください)
今回は「志」の視点で、「からだにえいたろう」から読み取れるこれからのブランド作りのヒントを考えてみたいと思います。

【志】自分たちの信念と、お客様への恩返し。2つを行き来するモノづくりが、
長く愛されてきた秘訣
「人にとって、菓子とは、食べたら気持ちが満たされる、心の食べ物でなければならない。」
お二人が何度も口にしていたのは、「人間にとっての菓子の役割」でした。
だからこそ、健康を考えたお菓子をつくっても、絶対においしさだけは妥協しない。
お客さんを我慢させない。それを徹底していました。
流行りの糖質制限に着目していたため、取材前はトレンドを取り入れるのが上手い企業なのかと思っていました。しかし、開発の動機は、「榮太郎が食べられなくなった」という愛用者の声。榮太郎はお客様に育てられてきたブランドだからこそ、恩を返していこうという姿勢に、はっとさせられました。
榮太樓總本鋪はただ、伝統の技術を活かして菓子をつくっているのではなく、自分たちの信念と、お客様の視点を振り子のように行き来してモノ作りをしていました。これこそが、200年もの間、愛され、応援され続ける秘訣なのではないでしょうか。
この2つの視点を往復した商品を生み出し続けるのは簡単なことではありませんが、時代の変化を乗り越えて、ブランドが愛され続けるには、この持久力を持てるかが鍵になるのかもしれません。

>>博報堂ブランド・イノベーションデザインについて詳しくはこちら

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