THE CENTRAL DOT

「若者世代」と「シニア世代」、対立ではなく「共栄」を探る

2019.09.19
#シニア#博報堂シニアビジネスフォース 新しい大人文化研究所#博報堂ブランド・イノベーションデザイン若者研究所#若者
左「博報堂ブランド・イノベーションデザイン若者研究所」リーダー:ボヴェ啓吾 右「博報堂シニアビジネスフォース 新しい大人文化研究所」所長:安並まりや

若者世代の人口が減り、シニア世代のボリュームが増える「逆ピラミッド」の社会構造が明確になりつつある日本社会。その中で、ともすると分断しがちな若者世代とシニア世代。
この4月から博報堂ブランド・イノベーションデザイン 若者研究所のリーダーとなったボヴェ啓吾と、シニア世代を対象にした調査・研究やマーケティングを手掛ける博報堂シニアビジネスフォース 新しい大人文化研究所の所長に5月に就任した安並まりやが、両者の新しい共栄の可能性について語り合いました。

若者世代とシニア世代の「今」

ボヴェ:
最近の若者の傾向でとくに僕が注目しているのは、「非連続な時代を、個人の意思と責任で生き抜かなければいけないことへの不安」です。社会の変化は激しく、テクノロジーも日々進化しています。周囲のものごとが非連続的にどんどん変わっていくので、明日がどうなるかまったくわからない。現在の状態がなだらかに続いていくとは思えない──。それが最近の若者が共通して抱えている感覚です。

安並:
大企業への就職意向が高いのも、将来への不安感があるからなのでしょうね。

ボヴェ:
そう思います。同時に、たとえ大企業に就職できたとしても、その企業が10年後、20年後もそのまま存続しているとは考えていないし、そこで自分がずっと働くとも思っていません。今の若者たちにとって、会社はあくまで一つの、一時の所属先にすぎません。
なにが起こるか分からないような時代には、マルチに活動し、広範な関係性を築いて、そこでさまざまな情報や経験を得ることで、社会の変化よりもむしろ自分の方が速く変化していく。それがリスクヘッジになるし、そこから自分の価値も生まれていくと考えている若者がとても多いと感じます。

安並:
シニア層の最近のキーワードは、やはり「人生100年時代」です。人間の寿命が一日に2.5時間ずつ伸びていると言われる時代に、長く生きてしまうかもしれない不安をいかに軽減して、楽しみや幸せを見出していくか。それが現在のシニア層の皆さんに共通する意識だと思います。

ボヴェ:
長生きに対する不安を抱えていらっしゃる人が多いのでしょうか。

安並:
多いと思います。不安には大きく二つあって、一つは健康に対する不安、一つは経済的不安です。それらの不安を解消していくことが、シニアマーケットをターゲットにしている企業や私たちマーケティング企業の役割でもあるのですが、不安を解消することって、実はマイナスをゼロにするだけなんですよね。
不安解消だけでなく、どれだけポジティブな人生設計を提案していけるかが求められていると思います。

若者とシニアの接点をいかに創出するか

ボヴェ:
社会の構造を見ると、シニア層のボリュームが年々大きくなっている一方で、若者の数は少なくなっています。今後、若者がシニアを支える社会にどんどん進んでいくことになります。

安並:
一人の若者が一人のシニアを肩車しながら生きる。そんなイメージですよね。

ボヴェ:
そういう社会は若者が割を食う社会なので、多くの若者はシニアに反感を抱いているのでは?という見方をする人もいます。「割を食う」構造になっているのは事実なのですが、そこに対立関係を見出すのは建設的ではないと僕は考えています。

実際、若い人たちにヒアリングしてみると、「接点がほとんどないので、シニア層のことはよくわからない」という意見が大半です。中には「日本のシニア層の人たちはあまり楽しそうに見えない」という意見もありました。
なので、社会の仕組みに対しては不満があっても、それはシニアにむけたものではないんですよね。反感を抱いているというよりは、よく知らないし、むしろ同情している。それが現在の若者がシニアに向けている正直な気持ちかもしれません。

安並:
「接点がないからよくわからない」というのは、まさしくシニア層が若者たちに対して抱いている感覚でもありますね。シニアには若者と比べて時間とお金があるし、何より長い仕事人生の中で培ってきたスキルや経験があります。自分の経験を若い世代に伝えて、若者たちに貢献したいという気持ちを多くの人がもっているのだけど、「若者はそれを受け入れてくれないのではないか」「嫌がられるのではないか」という気持ちも一方にはある。それが多くのシニアの本音だと思います。
相互理解を深める機会がないのがやはり一番の問題ですね。

ボヴェ:
具体的な接点があれば、それぞれの思いを伝え合うこともできるし、シニア層の経験やスキルを若い世代に継承していくこともできるはずですよね。

安並:
今考えられる方法として二つあると思うんです。一つは、シニアと若者がともに興味を持って参加できるプロジェクトを立ち上げることです。例えば、環境破壊などの社会テーマは若者、シニア共通の関心事だと思うんですが、そのようなテーマのプロジェクトをつくって、そこにシニアと若者がフラットな立場でメンバーとして参加し、同じ目標を目指していく。そんな取り組みがあれば、互いに学び合うことが可能になるはずです。

もう一つは、群馬県高崎市の「絶メシ」プロジェクトのような取り組みです。
これは高齢者が経営している地元の飲食店の味を絶やさないための情報発信グルメサイトなんですが、それだけにとどまらず店の後継者までも募っています。これに多くの若者が応募していると聞きます。伝統工芸や農業など、後継者がなかなか見つからないほかの分野でも使える手法だと思います。

50年後の未来をともに考えるプログラム

ボヴェ:
どちらもとても面白いアイデアですね。若者の多くは、スキルを身につけることや自分が成長することに関してとても貪欲です。一つのスキルだけでは生きていけない世の中になりつつあることを知っているからです。その点で、シニアの皆さんと接しながら、スキルを学ぶことができる仕組みは、多くの若者に支持される可能性があると思います。

ただし、若者には学習やスキル獲得に大きなコストをかけてはいられないという意識もあります。非連続性の時代では、よほどの確信や、他人の評価を度外視するほどの偏愛がなければ、一人前になるまで何年もかかるようなチャレンジをすることは難しい。できるだけ時間やお金をかけずに効率的に経験やスキルを得る方法や、気軽な心持のなかで新しい世界の入り口や選択肢を体験し、自分が本当に望むものを知るきっかけになるような場が欲しい。それが最近の若者の感覚だと思います。そんな感覚に合った学びの機会をつくれば、参加したいと考える若者はたくさんいるのではないでしょうか。

安並:
シニアと比較的気軽に交流できて、気軽に学ぶことができる。そんな場を若者は求めているわけですね。

ボヴェ:
もちろん「学び」だけにとらわれる必要はなくて、例えばクラウドファンディングのようなプロジェクトでもいいと思います。若者が実現したいビジョンがあって、それをシニアの皆さんが金銭的に、あるいはスキル的にバックアップするといった取り組みです。
このような仕組みだと、ビジョンに対する支持を得るためには、自分たちの世代だけでなくシニア層にも共感してもらえるテーマを探していく必要があります。そこで、若者の志とシニアの望みがうまくマッチアップしていけば、とても有意義な取り組みになると思います。

安並:
若者とシニアの両方が大切だと思うものは、世の中全体にとって価値あるものになるはずですよね。

ボヴェ:
まさしくそのとおりで、例えば、「50年後の暮らし」をシニアと若者が一緒に考えるプロジェクトなどは、とても面白いと思うんです。若者はどうしても短期的なスパンでものごとを考えがちですが、
50年後の未来を想像することで、視野を大きく広げることができます。
一方、シニアの皆さんは、現在の暮らしをどう守るか、あるいは過去の自分の生き方をどう肯定するかといった発想になりがちだと思います。しかし、自分がおそらく生きてはいない50年後に何を残していきたいかと考えれば、豊かなアイデアが生まれる可能性があります。

安並:
若者は自分がシニアになった頃のことを考える。シニアは50年後の若者に何を残すかを考える。そういうことですよね。確かに、それによって世代間のギャップを越えた普遍的で本質的な発想が生まれそうです。
未来を洞察するプロジェクトは博報堂の中にもあるし、ほかの企業や大学、NPOなどにも未来予測に取り組んでいる人たちはたくさんいますが、その多くは若者の視点を前提にしています。シニアの視点で未来を考えるというのは、盲点と言っていいかもしれませんね。
シニアには60年、70年と長く生きてきた経験があります。その経験の延長上で未来を考えることができれば、より現実に即した未来像が描けるかもしれません。それに、「もっとこんなふうに生きられたらよかったな」という思いを抱えているシニアも少なくないと思うんです。「もう一度生きるならこうしたい」そんな視点から生まれる豊かな未来像がきっとあると思います。

ボヴェ:
若者とシニアの二つの視点を合わせたとき、どんな未来像が生まれるか。そう考えるとワクワクしますね。

安並:
ぜひ、そんなプログラムを実現させたいです。

異なる世代を結びつけて新しい価値を生み出す

ボヴェ:
若者とシニアの交わりに関してもう一つありうると思うのは、今の若者の暮らし方や若者が使っているツールをシニアが取り入れていくという視点です。
例えば、デジタルツールやSNSはシニアにこそニーズがあるとも言えるし、若者が志向しているさまざまなコミュニティとのマルチな関わり方も、シニアにとって有意義なライフスタイルになると思うんです。

安並:
定年後でもSNSを使えばいろいろな人とつながることができるし、マルチな関係をつくることによって、よりアクティブな生き方が実現しますよね。現役の頃の「地縁・血縁・会社の縁」から、趣味のつながりも含めた多彩なつきあい方に移行していくためには、若者の価値観を取り入れていくことが確かに有効だと思います。
もう一つ、「働く」という点に関しても、マルチという発想が必要かもしれません。シニアの関心ごとのトップにいつも来るのは、実は「働き方」なんです。これまでのスキルを「働く」という行為を通じて世の中に還元していきたいのだけれど、定年後はなかなかその機会を見つけられない。そんな悩みを多くのシニアが抱えています。
もちろん現役の頃と同様の働き方をするのは難しいと思うのですが、例えばいろいろな職場にちょっとずつ関わるとか、何人かでチームを組んで一つの仕事を回していくとか、そんなマルチで柔軟な働き方の仕組みができれば、多くのシニアが仕事をしながら生き生きと暮らしていくことができるはずです。

ボヴェ:
それもシニアが若者のスタイルを取り入れていく一つの方向性ですね。おそらくこれからの時代は、若者の課題と高齢者の課題を個別に解決していこうとしてもうまくいかないと思います。両方の課題をつなげることによって、新しい視野が開けてきて、これまでになかった解決法が見えてくるのではないでしょうか。

安並:
異なるジェネレーションを結びつけて、そこに新しい価値を生み出すということですよね。それを誰がやるのか。

ボヴェ:
僕たちですか(笑)

安並:
ですよね(笑)。まずは社内で連携を進めながら、いずれ企業などの賛同を募って大きな動きにしていけたら理想的だと思います。

ボヴェ:
ええ。ぜひ実現させましょう!

ボヴェ 啓吾
博報堂ブランド・イノベーションデザイン 若者研究所 リーダー

1985年生まれ。2007年(株)博報堂に入社。マーケティング局にて多様な業種の企画立案業務に従事した後、2010年より博報堂ブランド・イノベーションデザインに加入。
ビジネスエスノグラフィや深層意識を解明する調査手法、哲学的視点による人間社会の探究と未来洞察などを用いて、ブランドコンサルティングや商品・事業開発の支援を行っている。2012年より東京大学教養学部全学ゼミ「ブランドデザインスタジオ」の講師を行うなど、若者との共創プロジェクトを多く実施し、2019年より若者研究所のリーダーを務める。

安並 まりや
博報堂シニアビジネスフォース 新しい大人文化研究所 所長

2004年博報堂入社。ストラテジックプラナーとしてトイレタリー、食品、自動車、住宅、人材サービス等様々なマーケティング・コミュニケーション業務に携わる。
2015年より新しい大人文化研究所の研究員として、シニアをターゲットとしたプラニングや消費行動の研究にも従事。共著『イケてる大人 イケてない大人―シニア市場から「新大人市場」へ―』(光文社新書)

FACEBOOK
でシェア

X
でシェア

関連するニュース・記事