こんにちは。新たにヒット習慣メーカーズに加わった、中国湖南省出身の江源です。
これから中国で起きている出来事を中心に分析していこうと思います。よろしくお願いします。
秋はお出かけ日和、シニアも元気いっぱい。つい先日、実家の両親は70歳にして、中国西南部の方面にドライブに出かけて雲貴高原の険しい山道を走りぬき、なんと6千キロを走破したそうです。私はそんな無謀な旅が年齢を気にせず毎年おこなわれるのも困るなと冷や冷やしながら話を聞いていました。
両親の武勇伝はさておき、今回は、こういった中国の元気なアクティブシニアが日常的に活動する場所であり、最近存在感が高まりつつある「老年大学」をテーマとして取り上げます。
中国の「老年大学」は高齢者のための生涯教育、社会参加が実現できる場所の中で中心的な役割を果たしています。「老年大学」は80年代初期の頃に登場して以来、民間資本の参入の加速によってサービスも多様化しており、都心部から農村部まで普及しています。中国老年大学協会によると、2018年の時点で高齢者向け教育機関の数は7万校を超え、800万人の高齢者が受講していると推定されています。
高齢化が加速する中国では、2025年までに60歳以上の高齢者人口が、総人口の5分の1にあたる3.3億人に達すると予想されています。そのような状況の中、受講希望者が急速に増加することにより入学難が問題になるほど「老年大学」への関心も年々高まっています。Baidu指数の推移を確認すると、「老年大学」は人気上昇の一途をたどっていることが見て取れます。
「老年大学」が提供する魅力的なサービスをいくつかご紹介します。
まずご紹介するのは、「老年大学」が教室の外へ飛び出し、体験型のテーマ旅行・ツアーを手掛けるケースです。
中国の旅行市場では、自分の時間ができて心身ともに豊かに楽しく生活したいシニアが牽引している一方、テーマがどうしても革命聖地巡りや文化史跡巡りなどに限られてしまうため、知識習得への意欲が高いシニアのニーズに応えきれていないのが現状です。そこで「老年大学」がテーマ旅行を企画から運営まで行うようになってきています。絶景スポットでの写真講座とか、人気映画の撮影地で実際に使われていたセットや衣装で本格的な演技指導のもと、短編映画まで作ってしまうとか、美術館で鑑賞をしながら作品の解説を聞くとか、シニアの知的満足度を高める体験をさせることで、「老年大学」は居場所として次第にかけがえのない存在になっていきます。
「老年大学」が化粧品やファッションなどの物販を行うこともあります。
「老年大学」の販売手法は、ライフスタイルの提案に軸足を置いています。中国の女性シニアの間では、メーキャップ化粧品より基礎化粧品を重視するような傾向にあります。メイクレッスンの際に、体系的なメイクの基本知識とテクニックを丁寧に解説し、商品を買わせるための口説き文句を口にしないことに徹した結果、ほぼすべての受講者が自発的に何らかの商品を買うようです。
また、「老年大学」では、シニアが生きがいを実感できるステージを用意しています。
「老年大学」で学んだことを発表するステージを設けることで、生きがいを得ることができ通い続けることにつながるわけです。一例を挙げると、化粧品やファッションアイテムの新商品発表会において、商品を購入した「老年大学」の学生がモデルとして起用され、スターになった気分でランウェイを闊歩する体験を実現するというサービスを提供しているところもあります。
では、「老年大学」が中国のシニアから人気を集めた理由は何でしょうか?大きく2つあると考えられます。
1つ目は、空巣老人の増加です。中国でいう空巣老人とは、日本でいう泥棒の意味ではなく、雛鳥が巣立って親鳥が取り残されることにたとえ、子供が成長し家を離れた年老いた親のみで生活する高齢者を指しています。一昔前は定年で仕事を終えたら、孫の世話・面倒をみるのが生きがいとされてきましたが、核家族化の進展により、空巣老人となるケースが増えています。「子供や孫のことを最優先に考える」から「自分のことをもっと大事にしたい」という価値観の変化は時代とともに進んでいます。「老年大学」は時間もお金もある元気な空巣老人にとって、自分を高める学びの場であり、同世代とつながる社交場であり、輝きを取り戻すことができるステージであり、大切な居場所となりつつあります。
2つ目は、デジタルライフの進化です。すでに世界有数のデジタル先進国になった中国では、昨年の時点で55歳~70歳における、あるコミュニケーションアプリのユーザー数が6000万人以上いるそうです。「老年大学」はこういったデジタルツールを活用することでオンライン授業を配信したり、日々の生活に役立つ情報を発信したり、物販を行ったり、学生同士の交流の活性化を図ったりすることが容易になったことの影響も大きいと思います。
最後に、「老年大学」を起点に、日本企業にとって、以下のようなビジネスチャンスがあると考えました。
中国では、「家有一老、如有一宝(年寄りは家の宝)」ということわざがありますが、人生100年時代に、誰でも心豊かに楽しい老後生活を送れるようにお祈りするばかりです!
2017年博報堂に中途入社。
近いようで遠い中国のヒット習慣から仕事のヒントを探す日々。
中国で一番辛いと言われる故郷の湖南料理をこよなく愛する、生粋の「辛党」。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。