第1回目のコラムでも紹介したように、「家族みんなで、お互いを柔軟に支え合い、無理せず、欲張らず、自分たちなりの幸せをつくり出す家族」であるミレニアル家族を、私たちは「身の幸(さち)家族」と名付けました。その「身の幸(さち)」ぶりはデータでも明らかになっており、博報堂生活総合研究所の「生活定点」調査で見ると、「あなたは幸せですか?」という質問に対して、“非常に幸せな方だと思う”が3割弱と高く、時系列で見ても過去最高スコアを更新。この多幸感はイマドキのミレニアル家族の特徴であり、「幸せ上手」とも言えます。
このような、ミレニアル家族はどのように身の幸(さち)を「つくっている」のでしょうか。さらに、基本的には消費にシビアなこの世代が、身の幸のためどんなものには財布の紐を緩めてしまうのでしょうか。その消費のツボ=新たなマーケットチャンスを明らかにするため、25~34歳の子供・家族持ちのママに対して、「今年した家族のための幸せな買物」のリアルを調査。幸せな買物のエピソードと、それを表す写真を約100名から収集し、傾向を分析してみました。
季節的なこともあって七五三、ランドセル購入などの慣例行事、近年定着してきたハロウィンに、行事の王道の誕生日など「イベント」についてのエピソードが目立ちました。実際に件数としても、全エピソードに対してイベント関連は25.2%と、子供用品の話題に次いで多いメジャーなテーマでした。
中には、「ファーストシューズ(子供が初めて履く靴)」「生誕100日記念のスタジオフォト」「出産後の2回目結婚式(出産前にも挙式して、子供と一緒で3人で2回目の結婚式を挙げた)」など、あまり昔にはなかったような記念・イベントについてのエピソードも目立ちます。
思えば、節分の恵方巻き、イースター、ハーフバースデー…など、私たちが子供のころにはなかった行事がどんどん増えています。誕生日や節句、運動会、クリスマスなど、これまでもあったイベントでの思い出作りはもちろん、新しく楽しめるイベントにも積極的に取り組み、楽しみや幸せを増やしてしまうミレニアル家族。
これまで普通にしていたことやちょっとしたことをイベント化すると、その機会を楽しもうとするミレニアル家族が準備に多少のコストや労力も使って動いてくれそうです。
子供ができると家族の中心は子供になりがちです。子供のために、ものの選択基準が変わったり、ブランドやチャネルの見直しが起こったりするのが常。しかし調査を分析してみると、必ずしも常に子供優先というわけではなく、「親の意向」が強く表れている場合も多々見受けられました。
もちろん、「子供も気に入ってくれている」ことは絶対条件で、親の意向だけで買うことはないでしょうが、これらは親の好みや希望と子供の喜びや楽しみの「かさなり」をうまく見つけたもの選びをしています。
ここ数年、アニメで描かれていたり、動物が主役だったり、一見子ども向けに見えますが、実は社会問題や心の成長を描く大人向けの内容でヒットしている映画が増えているようです。子供はキャラクターやアニメを楽しみ、大人はその裏側にあるヒューマンドラマを楽しむ。一方に合わせて他方が我慢することなく、親子が同時に楽しめることが、ヒットにつながっているのかもしれません。
こうした、うまく親と子供の「かさなり」をつくれる商品やサービス・体験を提供できるのか、がミレニアル家族の消費を促すツボの一つと考えられます。
集まったエピソード・写真を見渡してみると、旅行、家、自動車、子供服やおもちゃなど定番の家族の買物が挙がる一方で、かなり日常的な風景や商品も多くありました。
共働きは当たり前で、家族みんなで過ごせる時間が貴重である、という意識が以前よりも高いと思われる世代。その貴重な時間を「家族のつながりを感じる幸せな時間」としていかに楽しむかをミレニアル家族は重視していることが分かります。
また、家族とつながる日常生活を幸せにするための消費は、日用消費財に留まりません。
これらは生活必需品ではないため、なくても困らないものです。ただし、空間を演出してくれたり、流行りのサラダをさっと作って食卓を彩ってくれたり、あることでもっと家族で過ごす日常生活をステキなものにしてくれます。家族とつながる時間を「盛り上げてくれる」ツール。利便性や機能性だけでなく、「ものがもたらしてくれる時間価値=タイムパフォーマンスのよさ」まで伝わると、こうした+αのものの購入までつながっていきそうです。
以上、ミレニアル家族を動かすポイントとして「買物による幸せのつくり方」を見てきました。「買物を楽しみたい」という意識がアラウンド50世代の家族よりも14ポイントも高いミレニアル家族。ただ「楽しむ」だけではなく、その楽しみ方も工夫することで、非常に高い「幸福度」を支える買物をしていたのです。
一回目では、ミレニアル家族の家族像から見られる、買物特徴を時代の変遷とともに見ていきました。80年代のよりよい生活を求めた“背伸び家族”から、バブル崩壊後、今の生活を守る“身の丈家族”へ。さらに、共働きが当たり前となりつつある昨今では、家事や育児を分担し、柔軟に支え合いながら自分たちなりの幸せを創り出す“身の幸家族”へと変化。そうした家族像の中で買物も、その時の状況に合わせながら、気楽に楽しもうとする「フレキシ消費」へと変わってきている兆しをご紹介しました。
二回目では“働くママ”と“専業ママ”の家事や買物への意識・行動の違いを読み解き、時間がない中で本当は買物を楽しみたいものの、タスク化してしまっている働くママのジレンマを浮き彫りにし、そんなママに毎日の買物の中に楽しみを感じてもらう工夫のご提案をしました。
三回目では、都市と地方のミレニアル家族の違いに着目。買物のために多くの情報を求める都市のミレニアル家族と、間違いのない買物を志向する地方のミレニアル家族のために、どんな場所でも満足度の高い買物をするためのポイントをお伝えしました。
そして、最終回となる今回は「幸せな買物」実態から見る、ミレニアル家族の幸せ工夫術を分析しました。
全回を通じて、いかに効率的にするか?だけでなく、質的に豊かにするのか?ということが、今後の買物に求められているように思います。企業も変わりつつある家族の形を捉えて、新しい提案が出来るとより楽しい買物を実現できるのではないでしょうか?
2008年博報堂入社。
マーケティング担当として新商品開発、ブランディングなどに係る。
化粧品、下着、美容家電、飲料・サプリメントなど主に女性ターゲットの商品を担当。
2013年より社内プロジェクト「博報堂キャリジョ研」を立ち上げ、20~30代の働く女性(=キャリジョ)についても研究中。
★バックナンバー★
・【博報堂買物研「ミレニアル家族が買物を変える!」第3回】都市の「探したい」買物、地方の「間違えたくない」買物
・【博報堂買物研「ミレニアル家族が買物を変える!」第2回】 気持ちも時間もコントロール 「働くママ」の買物行動
・【博報堂買物研「ミレニアル家族が買物を変える!」第1回】新・家族の買物像「身の幸(さち)家族のフレキシ消費」