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PR発想は“コミュニケーションファースト”時代の妙薬だ【第1回】

2018.02.22
#PR#トレンド

ソーシャルメディアが活発化したことで、“コミュニケーションファースト”の時代が到来したいま、企業のマーケティング活動でさえも、積極的に話のネタとして消費される時代になりました。

「モノよりコト、だから“コミュニケーションが大事”だよね」にとどまらず、もはや「モノそのものには興味がない、モノをネタに語りたいだけ、“コミュニケーションが第一”だ」という生活者が誕生し、増殖していると言い換えてもよいかもしれません。

事実、そもそも商品やサービスの購入にかかわる気が全くない、つまりターゲットではないにもかかわらず、「これはアリだ!ナシだ!」という議論に積極的に参加する生活者の存在が非常に目立つようになってきています。インフルエンサーのように個として立っているわけではないが集団で声を上げ、場の空気を決定づけてしまう様は、時に“ガヤ”のようにも感じられます。彼らの存在は議論を活発化させるだけにとどまらず、実際のターゲットの意思決定にまで少なからぬ影響力を及ぼす役割を担っており、「実購入ターゲットじゃないから、コミュニケーションターゲットじゃないから」と無視することができなくなっているのです。

その結果、世の中に支持されるモノはニッチでも爆発的に売れる。世の中から反感を買うモノは、それを提供した企業の評判も落とす。いったん世の中からスルーされたモノは、「スルーされるくらいのモノ」とレッテルを貼られ、浮上のきっかけすら得られない。といったように、マーケティング活動の成否が結果に極端に表れる、かなりシビアな状況が生まれています。

このような時代を上手く泳ぎ切るためには、「企業の活動そのものが世の中へのコミュニケーション活動だ」ということをまず自覚し、その上で、「世の中はいま、どんなことを考えているのか」とソーシャルインサイトを強く意識する、PR発想(※)がマーケティングにも必要になってきます。

  • 博報堂PR戦略局では、PR発想を「多様な社会的視点に基づき、『レピュテーションを構築する、また行動習慣を変えること』を目的に、メディアやインフルエンサー、また一般生活者など第三者を巻き込んだコミュニケーション構築を行う、戦略的発想」と定義しています。

「一つの商品サービスだけではなく、企業の全活動が世の中へのメッセージになっている」という視点をもつこと。「ターゲットに向けたコミュニケーション活動だけでなく、ターゲットを含む、世の中全体とコミュニケーションをしている」という意識でマーケティングプランを考えること。これら2つを統合するPR発想で考えていかなければ、マーケティング戦略も思うようにワークしません。ターゲットが判断材料にする情報のすべてをコントロールすることはできないのですから。

時節・トレンドの嘘 ~クリスマスはオワコン?!~

実際に、PR発想でソーシャルインサイトを掘っていくことで、通常のマーケティングデータからは見つけづらい、生活者の行動原理が見えてくることがあります。

例えば、典型的な時節や商戦期である「クリスマス」を見ていきましょう。
百貨店やECのクリスマス商戦は相変わらず活況に見えますから、この時期に「クリスマス気分を盛り上げるマーケティング施策を投下する」ことは、考えるまでもなく正しいように思われますが、本当にそうなのでしょうか?クリスマスのウキウキした気分だけを鵜呑みにしてマーケティング戦略を構築してよいものでしょうか?

図1:クリスマス関連TV番組露出

図1は、2015年から2017年の11月01日〜12月31日までの、いわゆるクリスマスシーズンに、テレビの情報、報道番組で「クリスマス」がどれだけ取り上げられたかの変遷を示したものです。

露出件数からは、「クリスマステロ~」、「政治家がある問題に関してクリスマスまでに結論を出す~」「クリスマス休暇で株式市場に参加者が少なく~」などのクリスマス気分とは無関係の情報は省いてあります。

なぜテレビの露出を見るのか疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、その理由は次回以降に譲らせてください。
さて、数字の推移を見ていきましょう。

2015年に714件、63.7時間の露出があったクリスマス情報は、翌2016年に595件、46.3時間と激減しています。件数にして20%、時間にして30%もの減少です。

翌2017年は、件数を若干回復するものの2015年基準には戻せず、時間は2016年と同等で、2015年から比べて30%減のままです。2015年のクリスマスが例外的に盛り上がっただけとか、2016年が例外的に盛り上がらなかったというわけでもなさそうです。

単純な件数と時間の比較ですが、「あれ?クリスマスってダウントレンドなのかも」という疑問を抱くには十分な材料なのではないでしょうか?
この読みが正しいのかどうか、もう少し検討を続けましょう。

次に図2でSNS(twitter)投稿の推移を見ていきます。

図2:クリスマス関連話題 ツイート数

テレビの露出件数の推移から「クリスマスはダウントレンドかもしれない」という目線でこの表を見ると、この数字の推移に、ただならぬ気配を感じてもらえるのではないかと思います。

ツイート全体の件数は、2017年に2015年の約2倍にまで伸びています。公式リツイートは約4倍と爆発的な伸び率です。
「なんだ、クリスマスダウントレンドなんて、杞憂じゃないか!」と結論付けるのは早計ですよ。

そう、察しのいい皆さんはもうお気づきだと思いますが、公式リツイートの中身はズバリ、リツイートキャンペーンの参加者によるものだからです。

つまり、全体のツイート数は大幅な伸びを見せているものの、そのほとんどが企業のプロモーションに関連したツイートとなっているのです。
確かに、クリスマス商戦は盛り上がっているのです。ただし、そこにクリスマス気分が作用しているとは、まだ言えません。

そこで、クリスマス気分をより表していそうなオーガニックツイートの数を追ってみましょう。
ツイート全体や公式リツイートが急激な伸びを見せている一方で、オーガニックのツイート数は減少しています。2015年ツイート全体に占めるオーガニックツイートの割合47%ありましたが、2016年には34%、2017年にはなんと18%にまで落ち込んでいます。

ここにきて、テレビの露出傾向から見た「クリスマスはダウントレンドかも」という読みの輪郭がはっきりしてきたようです。
どうやら世の中は、クリスマス気分を感じられないまま、クリスマス商戦に突入しているようです。

ソーシャルインサイトとしては、こんな感じでしょうか?

お得だからクリスマスセールには参加する、プレゼントシーズンだからクリスマスプレゼントを購入する。でもそこに「クリスマス気分を積極的に楽しみたい」という温度感はあまりない。
年末仕事に追われる中で、「クリスマスなんてどこか遠い世界のお話だよなあ」と、クリスマスシーズンに違和感を持っていらっしゃったみなさん、安心してください。たぶん多数派です。

ソーシャルインサイトを踏まえた戦略とは?

以上のようなソーシャルインサイトが見えてくると、自信を持ってクリスマスシーズンのマーケティング戦略が立てられるようになりそうです。

「クリスマス商戦自体は活況なんだから、クリスマス気分に関係なく“お得!”“セール!”“今だけ!”これで勝負だ!」というのも、勿論アリです。
逆に、「それでもクリスマス気分を積極的に楽しみたい人は存在しているのだから、あえてクリスマス気分で勝負する!」という手もあります。ただし、この場合は、少し醒めてしまった世の中に、もう一度クリスマス気分を取り戻すための、「クリスマス気分の啓発」までを同時に行わなければならないでしょう。

さて、みなさんはどう考えますか?

※第2回に続く

安川 徹(やすかわ・とおる)
PR戦略局

コピーライターとして2003年博報堂入社、2009年からPR戦略局所属。
ソーシャルインサイトを読むことで、課題の見えにくい新規事業やサービスの立ち上げ、定番商品のリバイタライズを行う。
広報、PR、広告、メディアプランなどのコミュニケーション領域だけでなく、販売戦略や商品ライナップ戦略に至るまで、PR発想のマーケティング施策を立案・実施。2004年TCC新人賞、日経BP広告賞受賞。
(PHOTO by 馬場道浩)

【調査設計】
◆図1
・調査キーワード:「クリスマス」
・調査期間:期間①「2015年11月1日~2015年12月31日」
期間②「2016年11月1日~2016年12月31日」
期間③「2017年11月1日~2017年12月31日」
・調査媒体:【TV】在京6局(NHK、NTV、TBS、CX、EX、TX)
テレビ露出検索システム「エヌケン」にて検索
※情報バラエティ・ドキュメンタリーを除く、テレビ番組を対象
※事件・事故、政治、悪天候、ネガ話題のみの露出を目視により排除
◆図2
・調査キーワード:「クリスマス」
・調査期間:期間①「2015年11月1日~2015年12月31日」
期間②「2016年11月1日~2016年12月31日」
期間③「2017年11月1日~2017年12月31日」
・調査媒体:【SNS】Twitter
ソーシャルリスニングツール「Boomresarch」にて検索
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