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博報堂ケトルの渋谷新オフィス『TRAIN TRAIN TRAIN』が
博報堂にもたらすもの

2018.12.19

東急東横線の渋谷駅~代官山駅間の線路が地下化したことで生まれた線路跡地に、複合施設「SHIBUYA BRIDGE」 が誕生しました。その一角に2018年9月13日にプレオープンし、10月より本格稼働を始めたのが、博報堂ケトルのサテライトオフィスを含む「TRAIN TRAIN TRAIN(トレイントレイントレイン)」です。

博報堂ケトルを始めとするクリエイティブに携わる5つの会社( audioforce tokyo 合同会社/ EDP graphic works Co.,Ltd. /株式会社博報堂ケトル/ 株式会社ホワイトブリーフ/ディグラム・ラボ株式会社)が集う場所。コンセプトは「ストリートオフィス」だといいます。

本プロジェクトを起案し、先導して取り組んできた博報堂ケトルの大木秀晃に、コンセプトの意図や期待できる価値などについて聞きました。

Q. この度、赤坂以外にサテライトオフィスを設立したきっかけや経緯を教えてください。

3年ほど前から、僕は危機感を持っていました。博報堂は個々のクリエイターが立ってはいますが、同時に仕事も属人的になりすぎているのではないかと思っていたんです。かといって、社内のメンバーや広告業界内の連携だけでなく、もっと社外のクリエイターともつながりを持つべきだろう、と。

そして、クライアントとも今までのような受発注の関係だけではなく、よりフラットで「仲間」のようなチームを組むこともできるはずです。むしろ、クライアントのほうが僕らより進んだ取り組みを実践していて、クリエイターと直接的にパートナーシップを結んでコラボレーションする事例もあるくらいです。

その課題意識を持っていた中で、昨年、雑誌『WIRED』が主催したドイツのベルリン視察ツアーに参加した際に、日本より二歩も三歩も進んだコワーキングの形を目にして、「これだ!」と思えました。日本のコワーキングスペースやシェアオフィスは「オフィスを持てない小規模事業者が間借りしている場所」をイメージされるかもしれませんが、ベルリンでは「企業が出向き、クリエイターやスタートアップと仕事をする場所」になっています。

ベルリン自体がそういったワークスタイルを後押しする影響もあり、かつての「ベルリンの壁」の影響でドイツ南部に大企業が本社を構えていることもあって、さまざまな分野の人たちがコワーキングスペースに集まり、ゆるい共同体をつくりながら、イノベーションにチャレンジしている様を目の当たりにしたんです。

それは、たとえば「盛り上がっている地域に支社を作る」といった動きとは全く別物です。その支社内にいる人間が、同じ会社の人ばかりであれば意味がない。借りる場所の規模は小さくても、そのスペースはクリエイターと共有できる空間であるべきなのだと感じました。

Q. そこから「ストリートオフィス」というコンセプトを思いついたのでしょうか。

ベルリンから帰る飛行機で最初の企画書をつくりましたね(笑)。

実は、SHIBUYA BRIDGEができる前に、事前にこの場所の立地について意見を求められたことがあったんです。この場所は駅からも離れているから利便性が良いとはいえず、ディベロッパーからすれば地価が低くなる場所です。ただ、僕は「クリエイターの銀座に見えます」と答えていました。

SHIBUYA BRIDGEの近隣にある八幡通りや明治通りには、クリエイター、デザイン事務所、芸能事務所、メディアなども多く入居し、それらの代表例を地図上に置いてみると、まさにこの場所が交差点。「もし、クリエイターが集まれるスペースを作れるなら、きっと良い成果を生むはず」と僕は話していたのですが、ベルリンの帰り道では「これこそ自分たちがやるべきだ」と思い直し、すぐに嶋(浩一郎)や木村(健太郎)(博報堂ケトルの共同代表)に持ちかけました。

コンセプトにある「ストリートオフィス」は、言い換えると「クリエイティブの路面店」です。通常ならクリエイターのオフィスはマンションの一室などでオープンにはしておらず、訪れるだけでも敷居の高い存在です。仕事を共にする人でなければ、街中のどこにあるのかさえわからないでしょう。

それとは逆に、「TRAIN TRAIN TRAIN」では、あえてオフィスを「街=ストリート」に置き、路面店のように開かれた場所にすることで、ショッピングをするようにクリエイターが行きたくなる場所を目指しています。「あそこに行けば誰かに会える」という状況を作りたかったんですね。一人で人脈を広げるというのは本当に大変なので、アポイントメントを取らずに人と会える場所が大事になると思いました。

そこへ、タイプの違う5社という路面店が集まることで「クリエイティブの商店街」を作る。1階部分に設けたカフェ兼スナック、7mある吹き抜けを活用したギャラリー、コワーキングスペース、屋上にはイベントも開催できるルーフトップを併設しているのも、クリエイター同士がつながる、賑やかな「商店街」にするためです。

カフェ/スナックとオフィススペースをつなぐ高さ7mの吹き抜け
イベントにも使用できる屋上のルーフトップテラス

5社の専有執務スペースも、ベルリンにならって小ぶりに作っています。その分、扉を大きくして、普段は開けておくことも多いです。廊下を広く取って、挨拶をはじめとした交流から、各々が仕事の相談を持ちかけることもあります。たとえば、廊下に設けた本棚の蔵書は、ホワイトブリーフの信藤三雄さんの持ち物が多いんです。広告クリエイターなら驚くかもしれませんが、信藤さんほどの巨匠にもこの場所であれば立ち話をして、そこから相談をさせていただくようなこともあります。

オフィスの廊下にある蔵書スペース

Q. デザインやインテリアでは、どういった点を意識しましたか?

ベルリンのコワーキングスペースで見た景色をイメージして、「むき出し」や「スケルトン」といった要素を残し、作り込みすぎないことです。使う人によって色が付けやすいようにしたかったことと、金銭面のメリットも確かにあります。最も大きい理由は、自分たちでDIYなどをして手をかけていくことで「もっとオフィスを自分ごと化していくべきではないか」と思ったからです。

イベントでアーティストに描いてもらった遊び心のあるウォールペイント

インテリジェントオフィスに本社がある一方で、現在はオフィスにいなくてもテレワークやクラウドで働ける環境に変わりつつある今、どこに「会社やオフィスの意味」があるのか。そこに、ぼくの課題意識がありました。博報堂ケトルもメンバーが増え、どこか個人商店化している印象が拭えず、それでは会社の意味がない。特定の場所に集まる意味、組織を組んでいる意味もなるべく問いたかったんです。仮に、個人商店であるなら、いかにそこへ人脈作りのメソッドを組み込んで、仕事が発展する関係性を作れるかが大事だと思っています。

たとえば、今後、料理家の方を招いて週1回の「朝食会」を開こうとしています。来る人たちの交流はもちろんのこと、料理が関係する案件が出たときに、事前に料理家の方と知り合っておけばアサインもしやすくなりますよね。

実際、まだ稼働して1ヶ月足らずですが、さまざまな人が遊びに来たり、見学に訪れたりしています。どうしても赤坂オフィスでは「議題」がないと、中に入ることさえ難しい。「TRAIN TRAIN TRAIN」はクライアントが「渋谷で作戦会議しましょう」とお越しになることもあり、関係性が深まる契機にもなっています。

Q. 「人脈作り」や「つながり」といった要素がキーになっていると感じますが、それらを重視する理由はあるのでしょうか。

僕自身の観点での話になりますが……これは博報堂や博報堂ケトルに限らず、日本全体において「仕事」と「投資」が、20代か50代以上に集まっていることに問題意識があります。一例を挙げれば、国が関わるような公共建築なら、やはり50代以上の巨匠クラスが選ばれます。かたや、インキュベーション支援だと20代の若手を育てる環境を整えることが重視されます。

僕は1982年生まれですが、僕らのような30代や40代は、仕事にも投資でも後方支援がなく、なおかつ横のつながりも希薄なままに孤軍奮闘している印象を受けるわけです。仕事も充実してくるこの世代がつながることで、東京のクリエイティブはもっと面白くなるはずと信じています。ここは、各分野の最前線で活動しているクリエイターを効率よく意図的につなぐことが主眼にあるので、いわゆるコワーキングスペースとも着想は異なるものです。

日本では「イノベーションは一部の天才がつくる」という発想になりがちですが、イノベーションは決して奇跡の産物ではないと僕は考えています。きっかけは「これまで話していなかった人たちが対話すること」です。ベルリンで、インフラ事業者とスタートアップがコミュニティでつながる瞬間を見ました。道路上のマンホールの検査を効率的に行いたいという課題に、「バスの底部に付けたセンサーで読み取れば故障箇所だけ判別できる」というアイデアでした。インフラ事業者とセンサー開発のスタートアップが対話し、お互いに「それって実現できるんじゃないの?」と思えたからこそ現実になっていく。新しいクリエイティブやイノベーションは、そうやって起きていくのだと僕は思います。

Q. 今後の「TRAIN TRAIN TRAIN」について展望を聞かせてください!

1階のカフェやスナックは、より戦略的につながりが生まれる場として活用していきます。現在は店主を日替わりでお願いしていますが、それぞれが本業を持つ人ばかりです。PR会社や芸能事務所、出版社で働いている人たちなので、異なるジャンルのクリエイターが集まりやすくなっています。幸いに「一日店主」をやりたい人は結構いるようで(笑)、
ポップアップの需要も非常に高いです。人を集める施策として続けていきたいですね。

また、アイデアレベルですが、地方クリエイターの支援もできればと考えています。「TRAIN TRAIN TRAIN」を東京での展示場にしてもらえば、彼らがネットワークを持つきっかけになると思います。周辺のクリエイターが立ち寄った際に、新しい才能と出会えるかもしれませんから。

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