井口雄大(博報堂 クリエイティブディレクター/コピーライター)
清水千春( 博報堂 アートディレクター)
高橋かのん(博報堂 コピーライター)
川廷昌弘(博報堂DYホールディングス サステナビリティ推進室 SDGs推進担当部長)
-はじめに「SDGインパクト」のサイト制作に携わった経緯を教えてください
川廷:このプロジェクトは、博報堂DYホールディングスのクリエイティブ・ボランティアチームで取り組んできたものですが、遡れば2015〜2016年、国連広報センター(以下UNIC)のみなさんとご一緒した「SDGsアイコン」の日本語化プロジェクトからご縁がつながっています。国連総会でSDGsが採択され、世界の共通言語になろうとしているとき、日本ではバラバラな表現の日本語アイコンが出回りはじめていました。これこそ広告会社の社会責任だと感じ、コピーライターの力で日本語版をつくりませんか、と申し出たのがきっかけです。それがいまや、企業はもちろん、政府や自治体、学校の教科書も使う共通言語になった。これ以降、UNICやUNDPとパートナーシップを深め、今回のサイト制作へとつながっています。
-「SDGsアイコン」の日本語化を担当した井口さんからみて、当時から今日までSDGsに関する意識の変化など感じることは?
井口:クライアントのなかでもたくさんのSDGsプロジェクトが立ち上がっているのを実感します。ただ、あくまでCSRの域を出ていないという印象です。SDGsはビジネスの利益になるものなのだという文脈で語れるまでに至っていないんですね。志や理念はもちろん、資本主義である以上、それをお金で説明する必要があるわけです。SDGsをビジネスの根幹に取り入れることが企業の未来につながり、ひいては世の中を変えることにもつながっていく。その第一歩としてSDGインパクトの取り組みがあると考えているので、今回のプロジェクトはとても重要なクリエイティブ・ボランティアになったと思います。
-今回のサイト制作の中心となった清水さん、高橋さんはいかがですか?
清水:私がはじめてSDGsという言葉に出会ったのが今から5年前。博報堂のCSRサイト内にSDGsの事例紹介ページ(HakuhodoDY SDGs Initiatives)をつくる社内プロジェクトに関わったのが最初で、その頃はまだクライアントのなかでもそれほどSDGsという言葉がメジャーではありませんでした。ここ2年ぐらいで急激に注目度が高まったという印象で、いまではSDGs関連の企業広告に携わることも増えています。その時に感じるのが、事業方針を決める経営層の方と宣伝部の方の間で、SDGsに対する認識のズレが生じているということ。そういう時には、まず最初の提案相手である宣伝部の方に対して、SDGsというのはこれまでの“ちょっといいことしましょう”というレベルの話ではなく、事業全体に関わることなんです、というお話をさせていただくようにしています。SDGインパクトの仕事に関わらせていただいたおかげで、こういった話も自信を持ってプレゼンすることができるようになったのが大きな収穫でした。
高橋:私は2020年入社なのですが、就職先を選ぶとき、会社がどのようにSDGsに向き合っているかがひとつの指標になっていました。いま実際に仕事をしながら感じることは、 SDGsの取り組みを大々的に発信している企業が増えている中で、“環境”に向き合っている企業が多い一方、“人”に向き合っている企業が意外と少ないということ。地球と人にしっかり向き合うというのがSDGsの基本なので、今回のサイト制作でもその想いが伝わるように意識しています。
-ほかにもサイト制作において意識した点や、苦労した点などありますか?
高橋:そもそもの仕組みを理解して紐解いていく作業が一番大変でしたね(笑)。正しく理解して正しく伝えることはもちろんですが、それだけではつまらないし、広がらない。どうすればチャーミングにキャッチーに伝えられるかを意識しました。
清水:伝えるべき要素が非常に多かったので、重要な部分はなるべくファーストビューで見せられるように工夫したり、「SDGインパクト」のロゴをギリギリまで遊んで楽しく表現してみたり。このびっくりマークも「SDGインパクト」のロゴマークのパーツを取り出してつくっているんですよ(笑)。
高橋:あと意識したことは“誰の目線で書くか”ということ。UNDP視点で「こうするといいですよ」と言ってしまうと、ちょっとお説教っぽい一方的なコミュニケーションになってしまいがちですよね。みんなSDGsが大切なのはわかっているけど、どう取り入れればいいかわからないという状態なので、その問いかけに答えるかたちで構成を考えました。実際に読む人の目線で言葉をつくっています。
井口:日本語アイコンをつくっているときから変わらないことですが、SDGsって、正しいことはわかっているけど、自分はやらなくていいかな、とか、誰かがやってくれるだろう、と思いがち。それをいかに自分ごと化してもらえるか、やってみようと思ってもらえるかが、コミュニケーションのうえで一番大切だと思っています。今回のサイトもその点は重視しました。
川廷:自分ごと化で言うと、「SDGsアイコン」の目標12「つくる責任 つかう責任」は秀逸だったとお褒めの言葉をもらいます。英語のアイコンを直訳すれば「持続可能な生産・消費」となるところですが、企業だけの課題と思われがちだったところを「つかう責任」としたことで、生活者にも関わってくる責任なんだと素直に受け止められる言葉になった。このひと言が象徴的ですね。この日本語アイコンを通して、いまや国内でSDGsの認知率はどんどん上がってきています。ただ、同時に本質的な理解まで追いついていないという側面があるのも事実です。アイコンを使って企業が次々と自分たちの取り組みを表明し、認知を広めていった一方、表層的な取り組みに対して“SDGsウォッシュ”であると批判を受けてしまうことも。だからこそ、改めてSDGsの理解を深め、客観的な評価をしなければならないことからも、このタイミングでローンチされた「SDGインパクト」は重要です。国内でSDGsを浸透させるための大切な局面局面でお手伝いできていることが非常にありがたいですし、我々広告会社としても大変学びになっています。
-広告会社としてSDGsに関わる意義や、今後の展望についてきかせてください
井口:僕がずっと考えていることは、広告ってなんなのか、コピーライターってなんのためにいるのかということ。あるときから、コピーライターは「資本主義の良心」でなければならないと思うようになりました。それはつまり、企業の目先の利益を上げるために存在するのではなく、企業と社会全体がよい方向に進むために存在するということ。そこをうまくブリッジさせるのが僕らの役割だと思っています。SDGsを信念としてだけでなく、利益の文脈でも説明できるように、というのもそのひとつですが、我々が企業と世の中をつなぐ役割が果たせるよう、今後も理解を深めていきたいです。
川廷:SDGsは、国連で採択された持続可能な開発目標。難解な内容を分かりやすく伝えるために、カラフルなアイコンを世界に配信したわけです。その日本語化に名乗りをあげたのも、意図や狙いを正しく理解して、このコミュニケーションツールを未来のために機能させることが、我々広告会社の天命であると考えたから。今回の「SDGインパクト」もまったく同じです。SDGsの評価制度という、いまの企業に必要なシステムを、我々も渦の中心部にいてコミュニケーションしていきたい。これからも、SDGsの本質を国内に定着させられるよう、クリエイティブ・ボランティアの枠組みも活用しながら働きかけていきたいと考えています。