博報堂生活総合研究所 上席研究員
酒井 崇匡
この連載では毎回、データを引き出すフックとなる言葉、フックワードを設定します。第一回目のフックワードは「のに」。「さっきまで晴れていたのに雨が降り出した」のように、前方のセンテンスに対して、後方のセンテンスが矛盾した結果を示す場合に多く使われる助詞です。検索は名詞や動詞でする場合が多いですが、このような助詞をフックワードにすると、文章的に検索された文字列が抽出されやすくなります。
今回はヤフー株式会社の提供するデータ分析ツールDS.INSIGHTを使って、Yahoo!JAPANの2021年検索データの中から「のに」を含む検索の上位100位を抽出。気になるものを私の独断と偏見でセレクトしてご紹介していきます。
(※DS.INSIGHTでは統計化されたデータのみを扱っており、個人を識別可能な情報は含まれません。)
まず目につくのは、「眠いのに眠れない」などの不眠系の矛盾です。2021年の1年間で少なくとも延べ推計約8.2万人の人が、眠れぬ夜を悶々としながら過ごしていたようです。
この人数の規模感はなかなかイメージしにくいと思うのですが、例えば「エアコン 電気代」を2021年中に検索した人は推計約8.7万人なので、同程度の規模感です。当然、眠いのに眠れなかったり、エアコンの電気代が気になったとしても検索しない人もいるので、潜在的にはもっと多いはず。実際、皆さんも「眠いのに眠れない」夜を過ごすこと、全くない人の方が少ないんじゃないでしょうか。ちなみに、この言葉を検索するとヒットするサイトでは、様々な眠くなるコツが紹介されています。
私も時々この矛盾を抱える夜を過ごすことがあります。一つ私が対処法にしているのが、「メモを取ること」。眠れない時はたいてい、悩んでいることがあったり、明日のタスクが頭から離れないときだったりします。悩んでいることやToDoを文字化することで、モヤモヤした不安が目に見える課題になって(少なくともそうなった気がして)安心して眠れることも多いんです。皆さんはどんな対処法をお持ちでしょうか。
続いて、食欲と体重に関する矛盾。ここに挙げていない類似のものも含め、2021年に延べ推計8.6万人の人が検索しています。増えますよね。体重。食べてないのに。ただ、検索結果トップに表示される記事(※1)によると、
“ダイエットによる栄養失調を体が察知し、カロリーをなるべく消費しないようにと生命の防衛本能が働いてしまうので、「食べないから痩せる」のではなく、「食べないから太る」”
という場合もあるそうです。検索しているのはどのワードも8~9割が女性なのですが、「痩せてるのにお腹出る」は男性も3割ほど検索しています。男の場合は腹に出る、ということですね。わかりみが深い。
恋愛の矛盾も幾つかのパターンが見られます。まずは、「付き合ってないのに」系矛盾。主に10~20代の女性が醸し出される恋愛フラグにモヤモヤしながら検索してます。勝手にやっててください、というところなのですが、以前私が行ったQ&Aサイトの恋の悩み分析では、「男は逃してしまったチャンスに、女は起きてしまった事態に悩む」という傾向が出ていて、符合するものを感じます(※2)。
一方で、付き合ったり結婚したりした後でも矛盾は発生するようです。「彼氏がいるのにほかの男」などは、彼氏側が彼女の行動に憤って検索しているように見えますが、実はこれも女性が検索者の4分の3を占めています。ちなみに、この検索をしている人のうちの一部は約1ヶ月ちょっと経ったくらいに「別れてすぐ付き合う女」を検索しています。みんなで元カレに温かいエールを送りましょう。
第1回からそんな纏めで良いのか、という気もしますが、いかがだったでしょうか。こんな感じでゆるく、チルモードで書き綴っていければと思います。
<参考文献>
※1
ALL ABOUT 食べてないのに痩せないのはなぜ?体重が増える理由とダイエット方法 https://allabout.co.jp/gm/gc/379878/
(2022/10/3参照)
※2
PRESIDENT Online 「やれたかも」で悩むのは女より男だった https://president.jp/articles/-/26016
(2022/10/3参照)
2005年博報堂入社。マーケティングプラナーとして諸分野のブランディング、商品開発、コミュニケーションプラニングに従事。12年より博報堂生活総合研究所に所属。デジタル空間上のビッグデータを活用した生活者研究の新領域「デジノグラフィ」を様々なデータホルダーとの共同研究で推進中。行動や生声あるいは生体情報など、可視化されつつある生活者のデータを元にした発見と洞察を行っている。
著書に『デジノグラフィ インサイト発見のためのビッグデータ分析』(共著・宣伝会議)、『自分のデータは自分で使う マイビッグデータの衝撃』(星海社新書)がある。