■嶋浩一郎からの推薦文
内山さんは注目の若手の一人です。
内山さんのすごいところはソーシャルな視点があること。もともと憲法全部覚えちゃって本まで出してる人だからなんでしょうか、社会をよりよくする視点をいつも持ってるんじゃないかと感じます。
Twitterを活用した「流行禁句大賞」という企画は彼女のアイデアですが、働き方改革や、ジェンダーギャップなど世の中のダイバーシティの課題をソーシャルメディアを巧みに活用して顕在化する仕掛けです。これからのマーケティングは社会におけるブランドの立ち位置を表明していく仕事になっていくと思うので、彼女の視点は強いと思います。
あと、同時にプラナーとしてリアリストであることをすごい!と思っています。特にプロモーション施策で、人に何をどのタイミングで伝えると効果があるかを徹底的に解像度高く考えていると思います。明るく周りを楽しくさせるキャラの裏に緻密な計算がある感じですかねえ。
——全国の書店員が「いま一番売りたい本」を投票で選ぶ「本屋大賞」の生みの親でもある嶋さんが「この人こそ!」と選んだのが内山さんでした。まずは率直な感想をお聞かせください。
内山奈月(以下、内山):「恐縮です」の一言に尽きます。というのも、実は私は入社時から憧れの先輩に嶋さんのお名前を出させていただいていたんです。「大きく出たね!」なんて言われることもありましたが…。研修時に、小さい頃から知っている「本屋大賞」の事例に博報堂が携わっていることに驚き、「何かを売るためのアイデアは、広告だけじゃないんだ!」と、私の目標の事例になりました。
——どうして嶋さんのそうしたアイデアに感銘を受けたのでしょうか。
内山:私は元々、博報堂の「面白いことをなんでも考えられる会社」という部分に惹かれて入社したんです。もちろん広告業界自体にも興味はあったのですが、学生時代から文化祭が大好きだった私にとっては、広告を作るという以上に、新しくて楽しいことを日々考えられる場所という点が大きな魅力でした。そういう意味で、従来の手法にとらわれず、柔軟な発想で世の中を動かした「本屋大賞」の手法はとても理想的だったんです。一時的な盛り上がりで終わっていないところも、すごい事例だと思います。
——現在はコピーライターと、あらゆる手法でコミュニケーションの形を考えるアクティベーションプラナーという2つの肩書きをお持ちとのこと。キャリアのスタートである、コピーライターのお仕事のお話からお聞かせいただけますか。
内山:入社して最初の3年間は1人のコピーライターの先輩を“師匠”として、その人と仕事をしていました。その頃は、とにかくコピーを書いて、書いて、書きまくる日々。正直、世に出ないものの方が多かったですが、先輩が目の前で書いたコピーを見て「こっちの表現の方が心を動かされる」「あっちの言葉の方が本当に言いたかったことだ」など、学ぶことだらけで、とても刺激的でした。
——その“修行期間”で見つけた、コピーを書く仕事の魅力とはどんなものでしょうか。
内山:私は元々コピーライターという職業を知りませんでしたが、実際にやって気付いたのは、コピーを書く力は、物事を考える精度やアウトプットの質に直結するということです。それに言葉って、Twitterででもすぐ書けるものだし、最小のアウトプットだと思っていて。たくさんの人に届けやすいし、世の中の共感を得れば、あっという間に広がります。だから私は、コピーライターとして挑戦したいんです。みんなが思っていたけれど言葉にできていなかったものを言葉にしたようなコピーは、本当に素晴らしいと思います。
——コピーライター5年目の内山さんですが、書くときに大事にしているマイルールはありますか。
内山:いろいろありますが、ひとつあげるなら「絶対嘘をつかないこと」でしょうか。当たり前のことですが、いちばん忘れてはいけない。ついつい面白さや目立つことばかり重視して、コピーを書きたくなってしまうときもあると思うんです。でも、嘘はついちゃいけない、本当に伝えるべきことを歪めちゃいけない。この教えは「コピー年鑑」で、とある大御所コピーライターの方もおっしゃっていたことなのですが、自分が書いたコピーが徐々に世の中に出るようになって、改めて大切にしているルールです。
——そんな内山さんの信念が浮かび上がるのが、ご自身が発案した企画「#流行禁句大賞2020」です。2020年を振り返り、2021年に持ち越したくない言葉を選ぶこの企画はTwitterでも大いに話題になり、それこそ嘘をつかず、社会の姿を浮き彫りにするアイデアでした。推薦者の嶋さんも「働き方改革やジェンダーギャップなど、世の中のダイバーシティの課題をソーシャルメディアを巧みに活用して顕在化する仕掛け」と絶賛されていますが、この企画の着想について伺えますか。
内山:コピーライターとして仕事をして、改めて強く意識するようになったのが、言葉の受け取り方はその人の状況によって全然違うし、悪気のない言葉でも誰かを傷つけてしまうことがある、ということです。実際私もコピーを考える中で、先輩から「内山さんとして、本当にそういう言い方しちゃっていいの?」と指摘されたことが何度もありました。それでも、私自身もなんでもない会話の中で、ノリで相手を傷つけてしまう言葉を放ってしまうこともあって。例えば体調が悪そうな人に「コロナなんじゃない?」なんて軽はずみなことを言ってしまったり。だからこそ自戒も込めて、私みたいな人にも自分の言葉を振り返って考えるきっかけになれればと思って企画したものです。
——なるほど。そうした着眼点を、嶋さんも「内山さんのすごいところはソーシャルな視点があること」と評されています。内山さんにはどうしてそうした素地があるのでしょうか。
内山:そんな自覚は、正直全然ないのですが…。私ってすごくミーハーなところがあるんです。だいたい一番流行ってるものが好きだし、みんなが好きなものが、私も好き。そういう意味では、もしかして私は、限りなく生活者の視点に立って物事を考えられているのかもしれません。あくまで主観ですが。企画を考える時は、「自分が本当に面白いと思えるか」「今どういうことに違和感を抱いているか」という点にはすごく正直に、素直でいるように心がけています。
——内山さんとお話ししていると、“正直でいることの強さ”をもっていると感じます。それは博報堂で培ったものなのでしょうか。
内山:まさにその通りで、私がこうして正直に自分の気持ちを伝えられるようになったのは博報堂の風土が大きく影響していると思います。最初についてくださったトレーナーにも「自分がどう思うのか、それを言葉にすることが、君がそこにいる意味だよ」と言われたことがあって。だからこそ、今では自分たちで作るものに対して、途中で何かしらの違和感を抱いたり、少しでも「自分はもっとこうした方が良いと思う」と感じたりしたことは、必ず言うようにしています。
——それは世に出すものには必ず責任が伴うものだから、と。
内山:そうですね。この仕事って、最終的には過程より結果だと思うんです。どういう流れがあってその成果物が生まれたかよりも、大事なのはそれを受け取った世の中の人がどう思うかに尽きます。それなら、作っている段階で少しの違和感も取り除いておきたい。そういう意味では「違うと思ったことを『違う』と言える強さ」は社内一かもしれません。
——現在はコピーライターの仕事に加えて、アクティベーションプラナーという役職も担いながら、クリエイティブブティックであるハッピーアワーズ博報堂に所属していらっしゃいます。
内山:ここは、CMといった従来の広告手法にとどまらず、さまざまな手口でプロモーションやクリエイティブを考える集団です。それこそ、私が入社当時からやりたかった「面白いことをなんでも考える仕事」ができるのが、このハッピーアワーズ博報堂であり、アクティベーションプラナーという役職だとも思います。ただ、私自身、面白いことをアウトプットしていくには、やっぱりまだまだコピーライターとしての技術を磨かないといけないと思っていて。「こういう社会になったら良いのに」「これができたらきっと面白い」を形にし、世の中を動かすには、やっぱり先に言った“コピーの力”は重要だと感じます。
——やはり内山さんの根っこはコピーライターにあるということですね。これから社内ではどんな存在になっていきたいですか。
内山:博報堂の社員は「粒ぞろいより粒ちがい」とよく言うのですが、まさに全く違うタイプの人やいろいろな強みを持った人が勢揃いしている会社です。だからこそ、チームが変わればその場その場でこれまでとは全然違う化学反応が起こる。私もその“一粒”になりたいですし、みんな違う個性を持っているからこそ、私だけにできることってなんだろうと考え続け、私の得意なことをもっと伸ばしていきたいと感じます。
——なるほど。最後に、内山さんのこれからの“野望”があればお聞かせください。
内山:広告業界にいると、やっぱりまだまだCMの力ってすごいと思います。でも、そうじゃない手法でもどれだけ世の中を盛り上げ、動かせるかにも挑戦していきたい。夢を語るなら「内山さんに、なんでもいいから現状を変えるアイデアを考えてほしい」と任してもらえるようになりたいですね。
取材・執筆=田代くるみ(Qurumu)、撮影=杉能信介