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あなたが「怖い」ものは?データから見る“弱さのダイバーシティ”(連載:デジノグラフィで読み解く〇〇vol.8)

2022.12.08
#デジノグラフィ#トレンド#生活総研
ネット上には多様な生活者の声があふれています。中でも、ブラウザ検索のキーワードとして打ち込まれた文字列には、生活者自身の思考が素直に投影されています。あの細長い検索窓には、生活者が疑問に思っていること、分からないこと、悩んでいることが、時として検索ワードというより心情を吐露する文章になって打ち込まれているのです。
本連載では、そんな検索ビッグデータに現れた生活者の移ろいゆく心を様々な博報堂社員の視点でご紹介していきます。ベースになっているのは、博報堂生活総合研究所が提唱する、デジタル上のビッグデータをエスノグラフィ(行動観察)の視点で分析する手法「デジノグラフィ(https://seikatsusoken.jp/diginography/)」の考え方です。
ビッグデータ分析、というとなんだか肩に力が入ってしまっていけません。リラックスした気分で、データの向こう側にある現代社会を生きる生活者の日々に思いを馳せられる半分エッセイのようなコラムを連載でお届けします。
※本コラムは、Webメディア「NewsPicks」の「トピックス」に掲載された記事の転載です。

青沼 克哉
博報堂 プラナー

はじめまして、博報堂のプラナー、青沼克哉と申します。
「デジノグラフィで読み解く〇〇」、第8回のフックワードは「怖い」です。

「怖い」
1 それに近づくと危害を加えられそうで不安である。自分にとってよくないことが起こりそうで、近づきたくない。2 悪い結果がでるのではないかと不安で避けたい気持ちである。3 不思議な能力がありそうで、不気味である。
(コトバンクより 参照:2022.11.16)
https://kotobank.jp/word/%E6%80%96%E3%81%84-505696

ヤフー株式会社が提供するデータ分析ツール「DS.INSIGHT」を使って、2021年1年間の「怖い」を含む検索の中から気になるものをピックアップしてみました。
※「DS.INSIGHT」では統計化されたデータのみを扱っており、個人を識別可能な情報は含まれません。

「胃カメラ」「歯医者」などの「あるある」や、「話」「画像」「都市伝説」などの「怖いもの見たさ」を感じる結果が散見されます。が…!今回はあえて、こんな検索データに注目してみました。

みなさん「?」と思いませんでしたか?それの何が怖いのか、共感できないものも多いのではないのでしょうか。
ですが、検索ボリュームが示しているのは、確かにそれを「怖い」と感じる人がいるという紛れもない事実。その背景に興味を惹かれて、詳しく調べてみました。

寝るのが怖い(年間8100人が検索)

「眠りたいのに眠れない」ではなく、「眠るのが怖い」です。年間で8100人の方が検索していることを考えると、睡眠障害とはくくりきれない現象なのでしょうか。
ある記事(※1)では「睡眠恐怖症」とよばれ、「運動が苦手な人がいるのと同じように、『睡眠』が苦手な人が存在する」ようです。
この記事で紹介されている動画投稿(※2)では、深夜3時以降にならないと眠れない理由は、「忙しいから」「遊びたいから」ではなく「寝るタイミングが分からない」から。寝ようとするのが「バンジージャンプのような感覚」で、「自分から布団に入るという発想がない」そうです。当事者ならではのコメントが興味深いですね。

お金を使うのが怖い(年間2500人が検索)

どうやら「将来の不安定な生活が怖い」ということばかりではないみたいで、検索すると「お金使えない症候群」という言葉がヒットしました。(※3)
極度な節約志向によって人との関わりを極端に減らしてしまうリスクなどが挙げられていました。この背景には、投資よりも貯金志向が高く、倹約を是とする日本人ならではの金銭感覚も影響していそうです。

階段を降りるのが怖い(年間850人が検索)

足腰の筋力低下による悩みも多く見当たりますが、驚いたのはある個人ブログで紹介されていた「階段イップス」という概念。(※4)
野球の投球動作など、それまでは自然とできていた動作がなぜか急にできなくなってしまう症状を表す「イップス」という言葉が、階段の昇り降りに用いられています。
このブログによれば、

なるべくおりるときは手すりにつかまっておりないと上手くおりれません。手すりにつかまっていても踏み外しそうになる時があり、残り数段から飛び降りる感じになることもしばしばあります。逆にあがるときは問題なくすいすいあがることができます。

だそうです。
こんな「身体の不自由さ」があるなんて思いもしませんでした。自分の想像力の小ささを感じざるを得ません。

インターホンが怖い(年間620人が検索)

前触れなく自らの生活スペースに知らない誰かが訪れることに対する恐怖感から、「インターホンが怖い」という感覚もあるようです。(※5)
スマホを介したテキストベースのコミュニケーションが当たり前になっていることが影響しており、同様の理由から「電話恐怖症」の人も増加しているらしいです。
確かに、これは分かる気がします。注文した記憶がない物が突然届けられたりすると怖いですよね。私も、四六時中の在宅勤務にも関わらず「宅配ボックスにお届け」の選択肢があれば迷わず選択してしまいます。

外食が怖い(年間510人が検索)

コロナ禍での外食制限を経て、そのように感じるようになったという情報もいくつか見当たりましたが、注目したのは「会食恐怖症」という言葉。(※6)

会食恐怖症とは、誰かとご飯を食べること(会食行為)に対して強い不安を感じ、次第にその不安を避けようとすることで、友人関係、恋愛、仕事などで何らかの支障が出てしまい、「本来あるべき健全な社会生活が脅かされている」という状態が、半年以上続いている場合を指します。社交不安障害という精神疾患の症例の一つとされています。

「外食が苦手」どころではありません。吐き気やめまいで食事が喉を通らず、仕事でもプライベートでも、あらゆる「人との食事」ができないという、深刻な症状です。
会食恐怖症のきっかけのアンケート調査では「学校給食や家の食卓での、完食指導・強要」が多く挙げられています。食育指導の在り方について、私も2歳の娘を持つ身として考えさせられます。

ビッグデータから見えてくる“弱さのダイバーシティ”

「睡眠」「出費」「階段」「インターホン」「外食」と、あまりスポットライトの当たることがない様々な「怖い」をご紹介しました。それぞれのワードの検索数から、当事者一人ひとりの「どうにかしたい」「自分だけかもしれない」という不安や心配、「仲間を探したい」という安心欲求が感じ取れます。

ここから見えてくるのは、いわば、自分の想像の世界の外側にある“弱さのダイバーシティ”。なんだか難しく感じるダイバーシティの理解も、「人が誰しも持っている弱さの理解」と捉えてみると、急に身近なテーマに感じませんか?

一見、血の通っていない情報の集積のように感じられるビッグデータですが、うまく使えば、他人が抱える弱さや生き辛さを想像し、寛容さを持つことの一助になってくれるのではないだろうか。そんな予感を感じました。

青沼 克哉
博報堂 プラナー

2014年博報堂入社。計画が通用しない手口フリーな企画と子育てで培った現場力が強みのプラナー。

参考Webサイト
※1 https://www.news-postseven.com/archives/20210913_1691047.html?DETAIL
※2 https://www.youtube.com/watch?v=yVNhCcaofZg
※3 https://news.mynavi.jp/article/20210210-1714795/
※4 https://www.nachore.tokyo/entry/2017/11/14/190000
※5 https://www.j-cast.com/2017/09/01307060.html?p=all
※6 https://www.fnn.jp/articles/-/18837

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