山本 薫
人材開発戦略局 ストラテジックディレクター
私は学生時代、レポートを書き上げるのに苦労した思い出があります。文章を書き慣れていなかった学生時代の私は文中で使う言葉についてよく悩みました。「この場合どっちが適切だろう?」と2つの表現で迷う時、ありませんか?たとえば「じゅうぶん」という言葉を使いたい時「十分」なのか「充分」なのか……。そんなときは「十分 充分 違い」と検索します。似た言葉の意味の「違い」、私と同じように検索する方は多いのではないでしょうか。
ということで、今回のフックワードは「違い」です。表現に限らず類似の事象が数多ある世の中で、どんな「違い」が多く調べられているのでしょうか?
ヤフー株式会社が提供するデータ分析ツール「DS.INSIGHT」を使って、2021年1年間の検索データの中から「違い」を含む検索の上位10位をランキングにしてみました。
※「DS.INSIGHT」では統計化されたデータのみを扱っており、個人を識別可能な情報は含まれません。
こうしてみるとやっぱり似た言葉の違いについて検索されている方が多いようです。いくつかみていきましょう。
まず上位にあがった「叔母と伯母」「叔父と伯父」。この両者の違いについて調べると、両親の「姉・兄」にあたる場合は「伯母・伯父」、両親の「妹・弟」にあたる場合は「叔母・叔父」だそうです。ちゃんとした定義があるんですね。
5位にランクインしたのは冒頭で取り上げた「充分と十分」。少し調べてみると「叔母 伯母」「叔父 伯父」と異なり、意味や使い分けの用法に違いはないようです。物事や気持ちが満ち足りているとき、どちらの漢字を使っても間違いではありません。一般的には教育漢字である「十分」の方が多く使われるようですね。公文書でも「十分」が用いられるケースが多いようです。あともう1つだけ見てみましょう。
6位の「御霊前と御仏前」。お香典の表書きに、どちらを用いるか迷う方が多かったのではないかと推測します。調べてみると両者ははっきりと異なり、時期と宗派による違いでした。一般的には四十九日法要までは「御霊前」、それ以後の年忌法要などでは「御仏前」を表書きにします。ただし真宗(浄土真宗や真宗各派)では霊という考え方がないため、四十九日法要前でも「御霊前」は使わず「御仏前」を使います。これは間違えたくないですね。検索ワードで上位に上がるのも納得です。
言葉の違い以外では、依然として収束しないコロナ禍が検索ワードのランキングにも影響しており、特にワクチンのタイプの違いは生活者の大きな関心ごとのようでした。「風邪 コロナ 違い」もあがっています。
「違い」を調べる対象は、年代別で違いはあるのでしょうか? ためしに20代、30代、40代で比較してみました。
20代は言葉遣いに関する違いを検索する傾向が強いようです。特に「御社」と「貴社」の違いを検索する人が多いのが特徴的でした。20代前半の就活をはじめ、企業の人間と接し始める時期なので、こうした違いを調べるようになっているのではないかと推測されます。「すいません すみません 違い」も、目上の人に対する正しい言葉遣いを習得しようとしているのでしょうか。
ただ30代や40代でも20代と同じように「ご教授 ご教示の違い」がランクインしており、30代では20代同様に「御社」と「貴社」もあがっています。いまどきは年代があがっても正しい言葉遣いを都度検索しているのかも知れませんね。一方で30代40代では「モデルナ ファイザー ワクチン 違い」が最上位にあがったり、「nisa 積立nisa 違い」がランキングに入ってきたりと、生活に根ざした検索が増えていることも伺えます。40代になると先ほどみた「御霊前と御仏前の違い」や「戸籍抄本と抄本の違い」などもあがっています。こうして年代別にみると、その世代ならではの興味関心が伺えます。
以上、今回は「違い」をフックに生活者がどんな事柄を検索しているのかを見てきました。来年はコロナが沈静化しているといいですね。
ストラテジックディレクター職としてマーケティング業務に幅広く携わり、現在は人材開発戦略を担当。ワークショップデザインやデザイン思考でプロジェクトを進めることが得意。