
原亮太
『OCEANS』統括編集長
福井健史
博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 統合ディレクター
福井健史(以下、福井):『OCEANS』では30代、40代の大人の男性に向けてファッションやライフスタイル情報を発信されていますが、このところ顕著にウェルネステーマの記事が増えていますよね。とくに反響が大きいのはどんな記事ですか?
原亮太さん(以下、原):プロテインやファスティングの記事には反響がありますね。『OCEANS』の場合、本格的に筋肉をつけたい人というより、趣味で身体づくりをする人に向けて発信しているので、マッチョになるためじゃなく、サプリのように使うプロテインを提案したくて。でも、4年前くらいに最初に企画したときはまったく反応がなかったんです。さざ波も立たなかった(笑)。この2年で急に読まれはじめた感じですね。
福井:それはやはりコロナ禍の影響でしょうか?
原:それはあると思います。みんなが健康というものを意識した期間だったし、そのなかでいかに無理なく暮らすかということに注目が集まったのは間違いないですよね。そんなとき、ディープに身体づくりをする人のための情報はあったけど、最近興味を持ちはじめたライト層に向けた情報が欠落していて、僕らの記事がはまったんだと思います。
福井:あまりマニアックな情報にしすぎない、というのは『OCEANS』で心がけていることなのでしょうか?
原:本格的に筋トレをしたい方なら、たとえば専門誌を読むと思いますし、トレーニングジムに通った方が早いという話もありますよね。そこまでではないけれど「洋服が似合う体型ではいたい」という方とコミュニケーションをとるのが『OCEANS』。ある種ミーハーな気持ちを大切にしています。ファッション的にイケているかっていうのは、時代感を捉えるうえですごく重要なフィルターだと思うんですよね。
福井:ウェルネスはファッションの文脈でも受け入れられたということなんですね。
原:ファッションというとネガティブな印象を持たれる方もいるかもしれないですが、新しい価値観やカルチャーを広めるために、ファッション的な感覚はとても大切だと思っています。例えばSDGsも、義務ではあるけれど楽しみながらみんなで向き合えた方がいい。そうできるのがファッション的感覚だと思うんです。

ヤフー株式会社が提供するデータ分析ツール「DS.INSIGHT」を使って、40代男性の「プロテイン」を含む検索について、コロナ禍に入る前の2019年と、入った直後の2020 年を比較してみました。
プロテイン関連の検索総量が増えていることはもちろん、「飲む量」「飲むタイミング」といった言葉と一緒に検索する人も増えていて、新しく飲み始めた人が多いことが見て取れます。
あと共起語でいうと「ファスティング」や「プチ断食」など、新しく注目されている健康習慣をセットで見ている人も多いですね。
こうなると、OCEANSと博報堂のクリエイティブチームで、今のこの世代の男性に合わせた楽しくてタメになる飲み方マニュアルをつくるのも面白そうです。

博報堂でもウェルネス領域には注目していて、相談も増えているところ。僕が携わるプロジェクトでは世の中のインサイトに対して企画をつくっているので、『OCEANS』と同じようにコアな層に向けたアイデアというより、興味関心を持ちはじめた人に対するアプローチがメインになっています。

原:なるほど。僕らは30〜40代のインサイトを知っているという強みがあるし、そこに博報堂のアイデアやデータの力を融合させたら、おもしろい取り組みができそうですよね。
福井:ぜひチャレンジしたいです。いろいろな企業がウェルネス領域に興味をもっていると思いますが、OCEANSがいまトレンドとして注目しているのはなんですか?
原:ゴルフには力を入れていますね。受け入れる施設の敷居もだいふ低くなっているし、ファッション感覚で楽しむ人が増えています。ゴルフって昔のおじさんの遊びだと思っていたけど、やってみると気持ちいい、満たされるという感覚が若い人の間にも広まっている。僕らの考えるウェルネスというのは、心の充足みたいなことも含めてウェルネスなんです。自分らしくあるとか、輝いているみたいなこと。いまゴルフもキャンプも盛り上がっているのは、休みの日に自然に囲まれて過ごすと気持ちいいよね、というすごく根源的な理由なんだと思っていて。だから決して浮ついた一過性のファッションではなく、ちゃんとカルチャーとして根付いていくものだと思っています。
福井:ウェルネスのカルチャー化というのはひとつのキーワードかもしれないですね。今後『OCEANS』として力を入れていきたいことなどありますか?
原:コミュニティづくりというのは大きいかもしれません。これまで雑誌は、メーカーにとって“翻訳者”の役割を担ってきました。Aという商品の魅力を、読者のライフスタイルにあわせて咀嚼して表現する。でもいまは、メディアからの一方方向の発信ではなく、共感と応援が必要な時代です。僕らがある種のトライブをつくり、熱量の高いコミュニティから発信することで、共感や応援を生み出す仕組みを強化していきたいですね。
福井:生活者はそのコミュニティにいる人に親近感をもつことで、買いたい気持ちが高まるということですよね。博報堂で取り組んでいるEC領域でも、同じことに注目しています。いままでは24時間どこでも簡単に買えることがメリットだったのに対して、いまは「あの人から買える」「応援したくなる」といった体験も重要。それをいかに設計するか「HAKUHODO EC+」というプロジェクトチームを立ち上げ、取り組んでいるところです。“新しい売り方”を模索する意味でも、ぜひ『OCEANS』と協業できたらうれしいです。
原:本当ですね。コミュニティづくりもすべて含めて、ウェルネスはカルチャー。音楽とか映画と同じように語られるべきだからこそ、スタイルやストーリーが必要になってくると思います。その意味で僕らがいっしょにできることはたくさんありそうですし、ぜひチャレンジしてみたいです。


1979年生まれ、愛知県出身。2008年「OCEANS」に参画、2016年「OCEANS」副編集長、2019年「OCEANS Web」の編集長、2022年より統括編集長に。

2008年博報堂入社。メディアや手法にとらわれないブランドコミュニケーション・クリエイティブ開発に従事。近年は、コマース領域を起点にした企画開発を提唱、「コマース・クリエイティブ」プロジェクトを推進している。受賞歴に、ACC金賞、ADFEST金賞、SPIKES ASIA金賞、新聞広告賞大賞、グッドデザイン賞など。