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「瞳」の80年代、「夜」の90年代、2020年代は「世界」…各年代ヒット曲を元にAIで歌をつくってみた(連載:デジノグラフィで読み解く〇〇vol.15)

2023.02.09
#デジノグラフィ#トレンド#生活総研
ネット上には多様な生活者の声があふれています。中でも、ブラウザ検索のキーワードとして打ち込まれた文字列には、生活者自身の思考が素直に投影されています。あの細長い検索窓には、生活者が疑問に思っていること、分からないこと、悩んでいることが、時として検索ワードというより心情を吐露する文章になって打ち込まれているのです。
本連載では、そんな検索ビッグデータに現れた生活者の移ろいゆく心を様々な博報堂社員の視点でご紹介していきます。ベースになっているのは、博報堂生活総合研究所が提唱する、デジタル上のビッグデータをエスノグラフィ(行動観察)の視点で分析する手法「デジノグラフィ(https://seikatsusoken.jp/diginography/)」の考え方です。
ビッグデータ分析、というとなんだか肩に力が入ってしまっていけません。リラックスした気分で、データの向こう側にある現代社会を生きる生活者の日々に思いを馳せられる半分エッセイのようなコラムを連載でお届けします。
※本コラムは、Webメディア「NewsPicks」の「トピックス」に掲載された記事の転載です。

酒井 崇匡
博報堂生活総合研究所 上席研究員

歌は世につれ世は歌につれ

“ 青春時代のヒット曲 ”と言われて、あなたはどんな曲を思い浮かべますか?
Spotifyのアジャイ・カリヤ氏は、Spotify視聴データ分析から、「人は33歳を境に新しい音楽を聴かなくなる」と結論付けていますが、逆に言えば10~20代の頃の流行曲で形成された音楽の好みは、その人の中にいつまでも残り続ける、ということでもあるでしょう。
「歌は世につれ世は歌につれ」という言葉もありますが、そもそもヒット曲は世相を色濃く反映する非常に面白い分析対象です。
生活総研ではこの度、1980年~2020年代のヒット曲約4,100曲に高頻度で登場するワードを分析し、更に分析の結果を元にAIが作詞・作曲を行った「ヒンド(頻度)ソング」を制作。5曲同時にリリースしました。

https://www.youtube.com/watch?v=OFHBlUh9Ek0

今回はいつもの検索データ分析から離れて、この年代別ヒンドソングをご紹介します。

Step.1 各年代の楽曲で使用する「高頻度ワード」を選定

まず1980~2020年のオリコンランキング上位約4,100曲(※)について、歌詞に含まれる言葉を分析。1980年代~2020年代の各年代について他の年代に比べてヒット曲に多く登場する「高頻度ワード」を5つ選定しました。それが下記の表です。
※ 1980~2019年はオリコン年間シングルランキング上位100位、2020年のみオリコン年間合算シングルランキング上位100位のデータを使用しています。

Step.2 AIによる作詞・作曲

次に、亜細亜大学教授の堀玄さんが開発した作詞システムを活用し、それぞれの高頻度ワードを含めることを条件として各年代の歌詞を作成しました。AIは高頻度ワード以外にも各年代の歌詞を学習しているので、言い回しや言葉のチョイスに時代の雰囲気が反映されています。
例えば、1980年代と2020年代で生成された歌詞がこちらです。(色がついている文字が指定した高頻度ワードです。)1980年代が明確な恋愛ソングなのに対して、2020年代は結構抽象的で、人によって様々な解釈が可能な、ある意味でユニバーサルな歌詞になっていることが分かるのではないでしょうか。

続いてAIによる作曲は東京大学名誉教授の嵯峨山茂樹さんが開発した自動作曲システム「ORPHEUS(オルフェウス)」を使用しました。ちなみに、このAI、Webで公開されており、誰でも利用することが可能です。
他にも作曲ができるAIは幾つかリリースされているのですが、ORPHEUSは歌詞を入力するとそれに合わせた旋律を出力してくれる機能があり、歌詞先行の曲作りをする今回の企画にはうってつけだったのです。歌詞が異なるとAIが作る旋律も当然異なるため、数十パターンの微妙に異なる歌詞を用意して、うまくマッチするよう調整をしていきました。

Step.3 人の手で編曲・レコーディング

こうして出来上がったAI楽曲を、各年代を象徴する楽器編成や曲調を反映して人の手で編曲。各年代で歌い手を変えてレコーディングを実施しました。この部分は高木公知さんをはじめとする株式会社インビジの皆さんにご尽力頂いています。最終的な曲調の各年代らしさは、かなりこの編曲、演奏、歌唱のステップによるところも大きいですね。AIと人のコラボ、という点でも非常に面白い取り組みでした。

80年代は明るい恋の歌『夏恋リクエスト』

そんな工程を経て、ようやく完成したのが年代別ヒンドソング全5曲です。順番にご紹介すると、まず1980年代は『夏恋リクエスト』。80年代にジャンルとして確立されたJ-POPの曲調を反映しつつ、映像内のイラストの感じや、クリームソーダ、ユニコーンなどのアイコンも当時の流行を反映しています。

https://www.youtube.com/watch?v=ImCoWa7ZrjI

この時代の楽曲の特徴は、やはり明確に恋の歌であるということです。男と女という言葉がはっきり登場していたり、瞳、髪などの体の部位表現が80年代は多いですね。

90年代は世紀末な恋愛ソング『夜を抱きしめて』

1990年代のタイトルは『夜を抱きしめて』。当時を彷彿とさせるハードロック調の仕上がりにしました。

https://www.youtube.com/watch?v=TA3YGEY2OIM

恋の歌であることは80年代と変わりませんが、「夜」、「街」、「遠い」といったちょっとダークなトーンが入ってきます。また、ヒット曲の中にラップパートが盛んに登場するようになったのもこの頃です。個人的には中高生になりJ-POPを一番聞いていたのがこの頃だったので、やっぱりテイスト的に好みの曲に仕上がっています。

長引く不況の中で明日を模索する2000年代『明日を待てば』

2000年代は『明日を待てば』。曲調は当時隆盛したR&Bです。映像にあるように、女子高生文化が花開いたのもこの頃でした。

https://www.youtube.com/watch?v=rwrHUUzdUBs

歌詞の面では不況が長引く中で、ストレートな恋の歌が減少していきます。「明日」、「空」、「信じる」といった言葉がヒット曲の中に増加し、なんとか希望を見出そうと模索を続ける人の姿が描かれました。

自分で明るい未来をつかむ2010年代『キミにずっと』

2010年代『キミにずっと』は完全にアイドルソングです。(実際に現役アイドルグループの皆さんに歌って頂いています。)

https://www.youtube.com/watch?v=Wk8TVmZiNJ8

徐々に景気が上向き始める中、ヒット曲の中でも「自分」の手で明るい「未来」を見出そう、掴み取ろうという前向きなメッセージが歌われるようになりました。また、アイドルブームも影響してか、歌詞の中で描かれる「ボク」と「キミ」の関係性が、恋人とも、友人とも、あるいはアイドルとファンの間柄とも取れるようなものが増えてきました。

歌詞がユニバーサル化した2020年代『声が響く世界で』

最新の2020年代『声が響く世界で』の曲調は、近年再評価されているシティ・ポップを取り入れつつ、声質はボカロ風に仕立てました。

https://www.youtube.com/watch?v=kjQiSM7HVQ0

歌詞の面では、「世界」とか「全て」とか「幸せ」とか、言葉の抽象度が高くて、人によって様々な解釈ができる、よく言えばユニバーサル度の高い歌詞になっています。(実はこの曲が一番お気に入りで、かなり頻繁に聴いています。笑)
コロナ禍がどの程度、どのように影響してきているのかは最新のチャートも加味して分析中なのですが、例えばこの曲にも入っている「触れる」という言葉はコロナ禍以降で増加傾向にあります。行動が制限される中で、人の手に触れるとか、そういうことの価値が増したからかもしれませんね。
いかがでしたでしょうか。ヒット曲は世相を反映するものとして、非常に分析のしがいのあるものだということを今回の一連の分析で私たちも再認識しました。今後も定期的にヒット曲の歌詞の言葉の変化、分析と発信をしていきたいと考えています。

酒井 崇匡
博報堂生活総合研究所 上席研究員

2005年博報堂入社。マーケティングプラナーを経て、12年より現職。 デジタル空間上のビッグデータを活用した生活者研究の新領域「デジノグラフィ」を様々なデータホルダーとの共同研究で推進中。 行動や生声あるいは生体情報など、可視化されつつある生活者のデータを元にした発見と洞察を行っている。 新刊に『デジノグラフィ インサイト発見のためのビッグデータ分析』(共著) https://www.amazon.co.jp/dp/4883355101/ その他の著書に『自分のデータは自分で使う マイビッグデータの衝撃』(星海社新書)がある。

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