メタバース広告事業において協力し合っている「arrova」と「HYTEK」。メタバースでどのように新しいマーケットを切り拓き、新しいコミュニケーションを図っていこうと考えているのでしょうか。
荒井
メタバースの技術自体はだいぶ前からありました。インフラの整備が進んだことと、3Dコンテンツにおけるユーザーの可処分時間が増えたこと、その両面が成熟する兆しが見えた2020年、コロナ禍でエンターテインメントのフレーム自体も大きく変わりました。現在のZ世代より下の子供たちは、現実とデジタル上での体験の重要度がほぼ同等とも言われています。そんな文化的成熟を経て、新たなコミュニケーション領域やデジタル広告が世の中に広がりつつある。例えば、ラッパーのトラヴィス・スコットの9分間のライブで約21億円、通常のツアーの20公演分の売上を上げて大きな話題になったこともありました。新しいエンターテインメントが生まれたということは、新しいコミュニケーションが創出される可能性もあるわけです。XRの領域では、広告の枠という制限がなくなり、デジタル広告のみならず、既存の広告ではできなかった表現もメタバースでは可能になります。例えばメタバース広告では車の試乗体験など、3D空間で自由に表現できる点が魅力。ユーザーも楽しみながら体験することができます。
道堂
HYTEKはコンテンツ開発会社なので、クリエイターの視点に立つと、メタバースの出現によってコンテンツやエンタメの見せ方の可能性が広がりました。新しい広告の「面」が生まれ、出せる広告量が単純に増えるだけでなく表現の幅が広がり、今までのデジタル広告ではできないことが可能になります。作り手側の市場性もあり、メタバース空間に対してインパクトがある表現ができたら大きなチャンスになると思います。
荒井
私が立ち上げたarrovaでは、こうした新たな広告表現の確立に向けて様々なプロダクトの開発・買い付けを行っていて、足元ではヴァーチャル空間内でのサイネージ広告事業を行っています。これはリアル空間の屋外広告のように空間に溶け込んで広告を見せるもので、ユーザーの体験自体を妨げません。デジタルならではの強みは、ユーザーが広告を見ているかどうかを計測できること。これらはデジタル広告とリアル広告の中間のようなイメージなのですが、本来我々がやろうとしていることは、メタバース内でアバターやアイテムなどを通じた新しいコミュニケーションの創造です。例えば新作映画のキャラクターのアバターにユーザーが興味を持って話しかけると内容を教えてくれたり、実際の商材をゲーム内のアイテムとして利用してもらったり、サイバーパンクな近未来の空間に新しいラインの服を着たアバターを登場させてブランドが将来提示したい世界を伝えたりと、能動的なコミュニケーションや3D空間での体験性を付与することができます。
道堂
メタバースでは、同じ空間に他の人がいて、コンテンツと接したらすぐに感想を伝えられるコミュニティがあることが特徴です。コンテンツの享受・体験に加えて共有までできるので、そこに魅力を感じますね。とはいえ、まだ「サイバー空間の中で閉じている」ことが多いので、そこは自分たちが突破すべきところだなと。現在、日常的にメタバースにどっぷり触れている人もいるけれど、もちろんリアル空間でしか生きていない人も多い。そのつなぎ目をもっとうまく作る必要があると考えていて、荒井君たちと取り組んでいるところです。
荒井
メタバース事業のコンセプトは「空間を作ること」だけではなく「空間内でどう表現するか」ということ。モノ、空間、体験自体をデジタル技術と組み合わせることによってあらゆるものがメディアにできることがポイント。ゲーム領域やヴァーチャル空間で始めてはいますが、リアルな体験も重視しています。例えば、商業施設と組んで、ショッピング体験自体をメディア化したり、将来、自動運転によってできた余暇時間に車をメディアとしてエンターテインメントを提供したりするなど、今後はデジタル技術によってメディア化される空間や新たな余暇時間をターゲットとして事業を展開したいと考えています。
道堂
AIが生まれた頃に、「人の職業を奪われる」と危惧する声がありました。メタバースに対してもネガティブな声はあるでしょう。ただ、私は「テクノロジーは基本的に人を助けるものである」と思っています。例えば、不登校の子がメタバースで他の人とコミュニケーションをする中で学校に行けるようになるかもしれません。そんなメタバースのポジティブな面を作り出すには、リアルとの接点を生み出すことが重要ですからね。
メタバース領域に参入しようという企業や自治体は多いと聞いています。メタバース広告を仕掛ける時に留意すべきポイントはどのような点でしょうか。
道堂
これは広告に限った話ではなく、メタバースコンテンツ全体に言えることですが、メタバース内にコミュニティを作る場合、街の人たちをどう巻き込むかが大事だと思います。メタバース内の住人とリアルな街の人がリンクされるべきで、企業なら、自社のファン同士がアバターとなって集い、コミュニケーションが生まれるヴァーチャル空間があり、そこで新しい商品が生まれて実際にそこで使われるとか…。コミュニティを作っても一過性の体験だけで終わらないことが肝心ですね。
荒井
コミュニティを作る目的を明確にすることと、期間の考え方も重要です。プロジェクトを進めていると、メタバースについて、短期間で反響を得られると思っている人が多いのですが、実際、コミュニティを作って場を設け、そこに人の接点を作るには、時間がかかります。若年層を主体に、これから大人になっていく彼らに向け、エンターテインメント体験を楽しんでもらう。気づいたらブランドに強い愛着を感じている…というブランディングの仕掛けを行うなど、企業や自治体に対するユーザーの熱を高めていく熟成期間が必要です。
最後にarrovaとHYTEKの今後の展望について教えてください。
道堂
今後メタバースコンテンツの作り手が増えてくると「何が強みなのか」が問われますが、我々の一番の強みは「リアルとのつながりを作り出せる」ということだと思います。博報堂DYグループが総合広告会社である意味が、その時に生きてくるはず。例えば、メタバースで体験したことをリアルなメディアでも発信することで、メタバースとリアル空間がつながっていると実感させるような仕掛けが可能です。
メタバース空間でどんなクリエイティブを作ればいいのか、この問いに関してはまだ誰も答えを出せていないと思うんです。これがメタバース空間での面白いコンテンツだという事例を2社で作っていきたいですね。
荒井
博報堂DYグループはクリエイティビティを強みとしている企業でもあり、事業開発に取り組める土壌もある。我々が新しい体験を生み出し、人々の生活を豊かにするという、そんな壮大なことが実現できたら、すごく面白いですよね。arrova × HYTEKでは、メタバース主語ではなく、生活者を中心にブランドのコミュニケーションを使える、総合的なデザインをしたい。時間もかかりますが、新しい体験のフレームと技術を掛け合わせて作った空間をメディアとしてマーケティングに生かし、独自の商品を生み出していきたいと思います。
「日経ビジネス電子版 Special」2023年2月7日に公開
掲載された広告から抜粋したものです。禁無断転載©日経BP
2019年株式会社博報堂DYメディアパートナーズ入社。2020年TBWA HAKUHODO出向中に社内公募型ビジネス提案・育成制度「AD+VENTURE(アドベンチャー)」に応募。選考を勝ち抜き、2021年DACにてバーチャル空間内でのメディア開発・広告販売を展開するサービス「arrova」を立ち上げた。
2015年博報堂に入社し、研究開発局、TBWA HAKUHODOを経て、「AD+VENTURE」の2019年度採択事業として、テクノロジー×エンターテインメントを盛り上げる「HYTEK」を設立。大学時代に、ウェアラブルコンピューティングを活用したダンスパフォーマンスシステムの開発に関わる。マーケティングツールの開発やデータ分析に従事する傍ら、ARやVRなどの新しいテクノロジーを活用した次世代顧客接点の研究開発などに携わる。大学やベンチャーのテクノロジーの種と企業のビジネスの種を結び付けた事業創造を目指す。
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