こんにちは。ヒット習慣メーカーズの山本です。
だんだんと春の兆しを感じさせる暖かい日もちらほらと訪れ始めている昨今、皆様いかがお過ごしでしょうか。最近、様々なメディアでのニュース報道を見ていますと、「ジェンダー」という言葉を見かけない日はないのではないかと思うほどで、男女の性差に関する様々な問題が世の中ごととしてますます注目されているように感じます。今回のコラムのテーマも、そんな「ジェンダー」に関するものです。一昨年には、「ジェンダー平等」という言葉が流行語大賞にノミネートされました。周囲の環境を見ても、少しずつではあるものの、性差による偏見や差別をなくすための議論や取り組みが広まっているように感じます。
そんなジェンダーに関する議論の中でよく聞かれる言葉に、「ジェンダー・ニュートラル」という言葉があります。ジェンダー・ニュートラルとは、性別を意味するジェンダーと中立を意味するニュートラルを組み合わせた表現で、男女の性差のいずれにも偏らない思考や行動、制度を支持する考え方です。日本でも、スラックスかスカートを自分で選べる制服選択制を導入する高校が増えていたり、男女どちらの性自認にも属さない人に配慮して、機内アナウンスでの「Ladies and Gentleman」という表現を撤廃した航空会社が話題になったりと、ジェンダー・ニュートラルな取り組みは増えているようです。Googleトレンドでキーワード検索してみると、直近10年の中でもここ数年の間は検索ボリュームが徐々に右肩上がりに伸びていることがわかります。
「ジェンダー・ニュートラル」の検索数推移
今回は、このジェンダー・ニュートラルな考え方が、子育てや幼児教育の現場でも広がっているという新しい社会の兆しに着目しました。ご紹介する「ジェンダー・ニュートラル育児」は、女の子は女の子らしく、男の子は男の子らしくといった、ステレオタイプにとらわれない子育てに励む親たちが増えているという話です。男の子は青い服、女の子はピンクの服などと、親自身がジェンダーバイアスを子どもに押し付けないことで、子どもが自分のジェンダーアイデンティティを自由に選択でき、意志や個性をありのままに表現できるような育児スタイルが注目を集めています。ここからは、具体的な動向を一つずつ紹介していきたいと思います。
まずは、ジェンダー・ニュートラルな「おもちゃ」です。
子どもたちが性別の枠にとらわれずに自由に好きなおもちゃで遊ぶことができるように、ジェンダー・ニュートラルなおもちゃを取り入れる例が増えています。どちらかの性差に偏ったイメージのない、白や黄色などを使ってデザインされたままごとセットはその一例です。ほかにも、世話人形や工具玩具など、これまでジェンダーバイアスがあるとされたおもちゃにおいても、だれもが使えるカラーリングやデザインが適用された新しいタイプのものが人気を博しているようです。
また、電車や恐竜は男の子、人形やままごとは女の子などと、性別で子どものおもちゃの指向性を大人が勝手に決めてしまうことがないよう、おもちゃ業界の取り組みも盛んです。「ボーイズトイ/ガールズトイ」と性別で販売コーナーを仕切る従来の風習を撤廃し、売り場を商品ジャンルで区切り直すおもちゃ屋が増えていたり、年に一度発表される幼児玩具のランキングからはジェンダー別のランキング部門が撤廃されたりするなど、性差を問わない子どもの遊び文化が見直され始めています。
次にご紹介するのは、ジェンダー・ニュートラルな「保育・教育環境」です。
幼稚園や保育園の現場でも、ジェンダー・ニュートラルを掲げる施設が注目を集めています。具体的な取り組みについて調べてみると、先生が「男の子」や「女の子」と言う代わりに「おともだち」や「名前」で園児を呼ぶことをルールにする、玩具や遊び方を性別で振り分けないなど、配慮されたひと工夫が実践されているようです。また中には、「個人マーク」に関する面白い取り組みをしている保育園もあります。個人マークとは、子どもが自分のスペースや持ち物を認識するために、保育園や幼稚園で使われるシールのことです。これまで男の子には「ライオン」や「消防車」などのイラスト、女の子には「ウサギ」や「リボン」など、性差に偏ったイラストが割り当てられることが多いものでしたが、ある保育園では、男の子っぽい、女の子っぽいという印象を与えない「ドーナツ」や「イルカ」など、中立性の高いイラストを採用した個人マークを自分たちで開発し、採用しています。また、育児や幼児教育の現場で使えるフリーイラストの配信サイトでも、ニュートラルなデザインに配慮したイラストセットが公開されるなど、保育・教育環境においても少しずつ、ジェンダー・ニュートラルな取り組みが支持を集めているようです。
最後にご紹介するのは、ジェンダー・ニュートラルな「子どもの名前」です。
子どもを名付けるという、育児における決定的な瞬間にもジェンダー・ニュートラルな意識が広がっているようにうかがえます。毎年、赤ちゃんの人気命名ランキングがいくつかの団体から発表されていますが、共通して、男女の性差を感じさせないジェンダーレスな名前が人気になっているようです。実際にランキングを見てみると、「あおい」「ひなた」「そら」など、確かにジェンダーレスな名前が上位にあがっています。あるランキングでは、従来の性別ごとのランキングに加え、ジェンダーレスネームという特別部門を設けているものもあり、赤ちゃんの命名に際して男女どちらの性差にも偏らない名前を付けたいと考える親が増えているのではないでしょうか。
さて、ここまで「ジェンダー・ニュートラル育児」の例を紹介してきましたが、なぜいまこのような動きが広がりつつあるのでしょうか。
大きな理由として、社会的な注目がいま、LGBTQの方々の声に集まっているということがあると思います。親にも性自認を打ち明けられない。通っている学校の制度では自分らしさを表現できない。そんなLGBTQの方々が直面している様々な問題に触れる機会が増す中、自分の子どものジェンダーについて改めて考え、子どもの将来の可能性を開かれたものにしてあげたいと考える親が増えているのではないでしょうか。
また、人と違うことが価値であるとする「ダイバーシティ&インクルージョン」の考え方が次第に社会に根付いていく中で、画一的な教育ではなく本人の主体的な選択や個性を重んじる教育への関心が高まっていることも、要因の一つとして考えられそうです。
子どもが自由にやりたいことを選択できるように、親や周囲の大人が無意識のうちに「こうあるべき」という社会通念を子どもに押し付けすぎないという教育意識の変化が、今回ご紹介した新しい育児スタイルを後押ししているともいえるのではないでしょうか。
最後に、「ジェンダー・ニュートラル育児」のビジネスチャンスを考えてみました。
性差を問わない中性的な命名が人気になっているという先の例を考えると、程度の差はあれ、子育ての際に大人がジェンダーバイアスを持つべきでないという考え方自体は、想像以上に多くの家庭で支持されはじめているのかもしれません。今回のコラムを執筆する中で、僕自身も、子どもが生まれた友人になにかお祝いの品を贈る際には、ジェンダー・ニュートラルな視点に気を配ってギフトをピックアップしたいな、なんてことを思いました。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
2017年に博報堂入社以来、ストラテジーやブランドデザインを軸として、企業やブランドの戦略・企画立案に従事。ミレニアル世代/グローバル領域の業務経験多数。写真と音楽とすべてのユースカルチャーをこよなく愛する。