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「新米」からみる地域性~ブランド米から幻の米まで~(連載:デジノグラフィで読み解く〇〇vol.19)

2023.03.09
#デジノグラフィ#トレンド#生活総研
ネット上には多様な生活者の声があふれています。中でも、ブラウザ検索のキーワードとして打ち込まれた文字列には、生活者自身の思考が素直に投影されています。あの細長い検索窓には、生活者が疑問に思っていること、分からないこと、悩んでいることが、時として検索ワードというより心情を吐露する文章になって打ち込まれているのです。
本連載では、そんな検索ビッグデータに現れた生活者の移ろいゆく心を様々な博報堂社員の視点でご紹介していきます。ベースになっているのは、博報堂生活総合研究所が提唱する、デジタル上のビッグデータをエスノグラフィ(行動観察)の視点で分析する手法「デジノグラフィ(https://seikatsusoken.jp/diginography/)」の考え方です。
ビッグデータ分析、というとなんだか肩に力が入ってしまっていけません。リラックスした気分で、データの向こう側にある現代社会を生きる生活者の日々に思いを馳せられる半分エッセイのようなコラムを連載でお届けします。

博報堂生活総合研究所 客員研究員
田中 徹

「新米」
① その年新たに収穫した米。ただし、収穫期の前には前年の産米をさす。新穀。しんべい。《季・秋》⇔古米(こまい)。
② 定期米市場で、翌々月限(ぎり)の米。〔取引所用語字彙(1917)〕
③ ある物事をするのに、まだその事に従事してからの日が浅く、慣れていない者。まだ未熟な者。新参。
コトバンクより 2023/2/28)

はじめまして。博報堂生活総合研究所で客員研究員を務めている田中と申します。

2022年を振り返ると、円安やエネルギー価格の高騰に伴う物価高の影響を痛感する機会が増えたわけですが、とりわけ食生活まわりにおいては小麦価格の上昇でパン食を控え、価格上昇の影響を比較的受けなかった「米食」に改めて関心を寄せるようになった方も多いのではないでしょうか。

お米といえば秋頃から、スーパーなどの小売店やインターネットなどの通販、意外なところではフリマアプリなどで「新米」とラベリングされた各地のお米を目にする機会も多いかと思います。一方で「新米」を「新米」として呼べるのは収穫してその年を越えるまで、だそうです(幾つか定義あり)。

ということで、今回はヤフー株式会社が提供するデータ分析ツール「DS.INSIGHT」を使って2021年1年間の検索データの中から「新米(※ドラマなど除く)」を含む検索行動を都道府県単位で分類し、特徴的な傾向がみられた地域を幾つかご紹介したいと思います。

※「DS.INSIGHT」では統計化されたデータのみを扱っており、個人を識別可能な情報は含まれません。

「絶対王者」を猛追する「大型新人(新米?)」(新潟県)

まずは米どころとして名高い、新潟県の検索結果の上位を見てみましょう。

水加減、時期、炊き方といった実用的なワードが佇む中、注目すべきは同県を代表するブランド米「魚沼産こしひかり」に次いで「新之助」がランクインしている点にあります。コシヒカリとは異なる食味を目指し、7年もの開発期間をかけたといわれる「新之助」。今年で一般販売開始から6年目を迎える県産米ですが、生活者の興味関心が高まっていることがうかがえます。

「地元米」への「地元愛」?(福岡県)

私が暮らしている福岡県も、特徴的な傾向がありましたのでここでご紹介できればと思います。

上位の検索キーワードに県産米の「元気つくし」に加えお隣・佐賀県の「さがびより」がランクイン。数多あるブランド米よりも地元福岡・九州の県産米を思い浮かべる度合いが高いことは、裏返すと地産地消・地元に対する愛着の表れなのでしょうか。

前年比1,000%越え!「たこまい」とは(千葉県)

最後にご紹介させていただくのは、前年比で1,033%の検索ボリュームを記録したパワーワード「たこまい」が唯一無二のオーラを放つ千葉県です。

「たこまい」について調べてみたところ、千葉県香取郡多古町(たこまち)で栽培されるコシヒカリ「多古米(たこまい)」のこと。千葉県産のお米のうち、およそ2%という少ない生産量でありながら、そのおいしさから当地では「幻のお米」と呼ばれているそうです。地元のみで消費されるがゆえに全国にほぼ流通していない、という希少性はかつてブームとなった「幻の地酒」「幻の焼酎」に通じるものを感じます。

地域ごとに異なるお米の「魅力」や「味力」

今回ご紹介したのは3地域のみでしたが、地域ごとに異なる検索行動、いかがだったでしょうか。ちなみに、同じ「新米」の検索結果を全国ベースでみてみるとこのような結果となります。

ふるさと納税の「お礼の品」に悩まれている方は、普段召し上がっているお米とは異なる未知の産地やブランドなど、地域によって異なるお米の「魅力」や「味力」との新たな出会いを楽しんでみるのも面白いのではないでしょうか。

※本コラムは、Webメディア「NewsPicks」の「トピックス」に2022年12月6日に掲載された記事の転載です。

田中 徹
博報堂生活総合研究所 客員研究員

2020年より博報堂生活総合研究所にて主に九州エリアを中心とした生活者研究に従事。また、博報堂グループの地域会社である九州博報堂のマーケティングプラニングディレクターとして、企業や自治体などのマーケティング領域におけるご支援を行っています。

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