伊牟田 麻耶
博報堂
FIFAワールドカップカタール大会での「ドーハの奇跡」からはや3か月。大きな盛り上がりとともに、改めてサッカーというスポーツの国民的人気を知らしめました。選手たちの活躍が注目を集める一方、試合の度に大騒ぎする集団には眉をしかめる人も。迷惑行為をするような輩はどうせ「にわか」ファンでは、という批判もしばしば見受けられます。
というわけで、今回のフックワードは「にわか」です。
ヤフー株式会社が提供するデータ分析ツール「DS.INSIGHT」を使って、「にわか」を含む検索クエリの動向を探ってみました。するとやはり、ワールドカップの日本代表戦が盛り上がっていた11月21日週~12月5日週の期間は多くのクエリで検索ボリュームが通常の3倍以上に増加していました。
その中でもピークだった11月28日週の検索ボリュームランキング上位をまとめたのが下の表です。
上位の「にわか 意味」「にわかファンとは」を調べている属性は、男女比で言えば4:6で女性が多いようです。年代では、40代と50代が半数以上を占めていました。サッカーブームに火をつけたJリーグ発足が、約30年前の1991年。今の40~50代は当時10~20代でした。その当時からファンを続けている人達にとっては、「にわか」なファンの存在はやはり気になるものなのかもしれません。
しかし、この「にわか」という言葉が注目されだしたのはサッカーではないようです。過去3年で、最も検索ボリュームが多かった時期を見てみましょう。
2019年1月~2022年11月までの「にわか」検索推移
最もグラフが高い位置にあるのは、2019年の12月。その直前の10月にも、少し大きい山があります。共通するのはラグビーのワールドカップ。2015年に強豪・南アフリカを下して一躍話題となり、2019年の戦いぶりにも注目が集まりました。10月には南アフリカ戦、12月にはパレードが行われています。「にわか」というワードを世間が認識しだしたのは、ラグビーワールドカップでの日本代表の活躍のタイミングと言って差し支えないのではないでしょうか。 ちなみに、Google Trendで2004年からの動向を調べても、この時期に一気に注目が集まったことが分かります。
「にわか」の検索推移
不思議なのは、すべてのスポーツイベントで検索ボリュームが上がるわけではないこと。特に大きな国際大会が行われた2021年は検索数としては目立ちません。仮説として考えられるのは、「日本が勝利すると、会場外で大騒ぎするファン」という画が「にわか」検索のトリガーなのでは、ということです。
コロナ禍によって、2020年と2021年のスポーツ界は無観客試合を余儀なくされました。緊急事態宣言発令もあり、スポーツバー含む飲食店は軒並みクローズに。盛り上がりを示すために使われる、深夜の渋谷のスクランブル交差点自体に人の影が見当たりませんでした。しかし今年は熱狂するファンの姿が撮られ、交通整理にDJポリスも出動。久々にニュースになりました。
「にわか」はスポーツだけではなく、アニメや音楽、アイドル界隈でも使われます。単純にファン歴が浅いというより、ミーハーでお作法を知らない人という揶揄が込められているようです。しかしコミケやライブといった文化系コンテンツの祭典の時は、検索数としては表れてこない。それはうるさいほどに熱量をふりまく参加者の画を、報道のされ方含め世の中がまだフォーマット化していないからではないでしょうか。
かつてサッカーの結果によって大騒ぎするのは、「フーリガン」と呼ばれる熱狂的なサポーターと言われていたはず。しかし今は、「にわか」ほど大騒ぎするという印象が作られるという逆転現象が起きているようです。街に集っている人達が比較的若い年代であることも、このイメージに拍車をかけているのかもしれません。
とはいえ、ファンのすそ野が広がることは、スポーツの発展にもつながります。「にわか」と一線を引くだけに終わらず、次の一戦に向けての「サポーター」として取り込んでいく目線も必要とされていくのではないでしょうか。
ファッション誌ライター、営業、コピーライターを経て現職。外資系や化粧品、ゲーム業界など幅広く担当。スラムダンクファン歴25年。