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日本人はどんな体験に「幸せ」を感じるか?(連載:デジノグラフィで読み解く〇〇vol.21)

2023.03.23
#デジノグラフィ#トレンド#生活総研
ネット上には多様な生活者の声があふれています。中でも、ブラウザ検索のキーワードとして打ち込まれた文字列には、生活者自身の思考が素直に投影されています。あの細長い検索窓には、生活者が疑問に思っていること、分からないこと、悩んでいることが、時として検索ワードというより心情を吐露する文章になって打ち込まれているのです。
本連載では、そんな検索ビッグデータに現れた生活者の移ろいゆく心を様々な博報堂社員の視点でご紹介していきます。ベースになっているのは、博報堂生活総合研究所が提唱する、デジタル上のビッグデータをエスノグラフィ(行動観察)の視点で分析する手法「デジノグラフィ(https://seikatsusoken.jp/diginography/)」の考え方です。
ビッグデータ分析、というとなんだか肩に力が入ってしまっていけません。リラックスした気分で、データの向こう側にある現代社会を生きる生活者の日々に思いを馳せられる半分エッセイのようなコラムを連載でお届けします。
※本コラムは、Webメディア「NewsPicks」の「トピックス」に掲載された記事の転載です。

酒井崇匡
博報堂生活総合研究所 上席研究員

「幸せ」
1 運がよいこと。また、そのさま。幸福。幸運。
2 その人にとって望ましいこと。不満がないこと。また、そのさま。幸福。幸い。
コトバンクより 2023/3/17参照)

皆さんはどんな時に「幸せだな」って思いますか?
私は家族や友達とリラックスして会話している時とか、美味しいものを飲み食いしている時はもちろんですが、仕事中のディスカッションですごく良いラリーというか、思考や発想がどんどん加速していくようなグルーブが生まれる時がたまにあって、そういう時にも「あぁ、この議論は気持ちいいなぁ、幸せだなぁ。」と感じます。そういう、日常に生じた色々なことに小さな幸せを見つけていくことが、総体としての幸せの第一歩なんじゃないでしょうか。

人々が感じた小さな幸せは、SNS上にも投稿の形で共有されています。そこで今回は、世界の人々がどんなことを「幸せ」と捉えているか、日本、アメリカ、インド、タイの4カ国のTwitter投稿についての分析をご紹介します。この分析は、デジタル上のビッグデータをエスノグラフィ(行動観察)の視点で分析する手法「デジノグラフィ」研究の一環として、博報堂コンサルティング・アジア・パシフィックの堀場久美子が行ったものです。

具体的なアプローチとしては、まず各国のTwitter利用者のうち、過去に「ハッピー(happy)」「ハピネス(happiness)」などの単語を含む投稿したことがある人を特定します。
特定した人々が、コロナ以前の2019年、コロナ禍真っ只中の2021年、やや落ち着いてきた2022年――という3つのタイムポイントで投稿した、「ハッピー(happy)」などの単語を含む投稿をピックアップし、比較を行いました。

まず、Twitterに投稿されている日常体験をざっと分類し、Twitter上で表現される30種の代表的な体験(30“everyday experience”)を機械学習によって抽出しました。この30種の体験はTwitter上の独自の使い方や意味を精査するために、定性調査インタビューを踏まえて内容の精緻化を行った上でモデル化されているので、Twitter独自の文化やニュアンスを捉えるラベルとなっています。
たとえば「We Stan」というラベルは、日本語では「推し活」に相当する表現ですが、お気に入りのセレブやブランドなどに対する熱烈な賞賛やサポートなどを指します。

「オタ活」がハッピーの源になる日本

30種のラベルのうち、各国の特徴が現れた10種を抜粋したのがこちらのグラフです。
まずは日本から見てみましょう。全期間を通じて、日本では「Watching Together」というラベルが「幸せ」と大きく結びついているのが特徴です。

「Watching Together」というのは、アニメやドラマをテレビや動画サイトを見るといった、インドアなファンダム(熱狂的なファン集団)活動を指します。他の国と比較するとわかりやすいのですが、幸せの形が自宅で完結しているような形がコロナ禍の日本の傾向と言えるでしょう。
Twitterでは、テレビでスタジオジブリアニメが放映されたり、朝ドラで衝撃的な展開が起きたりするたびに書き込みが大いに盛り上がりますが、特に2021年には、こうしたSNS上の連帯感に幸せを感じる人が多かったのではないでしょうか。

もっとも、時系列で見れば、2022年になるとコロナ禍での行動制限などが緩和された影響からか、「Watching Together」関連の投稿の割合は減っています。それでもほかの国々と比べれば多いのですが、2021年と比べれば半分以下です。

代わりに増えているのが「Foodie Adventure」つまり食の探求です。2022年前半は、それまでステイホームが長く続いたぶん、「外に出る」ことに幸せを感じる人が多かったことが見て取れます。
また、前出の推し活=「We Stan」も増加。「Watching Together」と「We Stan」は、いずれもファンダム活動ですが、後者のほうがよりアクティブに、ライブやイベント等に参加していることが分かります。このような同じ推し活でも、自宅なのかライブ会場なのかをテキスト文脈から判定できるようになっているのが今のAIの精度であると言えます。

他の三か国の分析結果は、次回の投稿でご紹介します。お楽しみに。

酒井 崇匡
博報堂生活総合研究所 上席研究員

2005年博報堂入社。マーケティングプラナーを経て、12年より現職。 デジタル空間上のビッグデータを活用した生活者研究の新領域「デジノグラフィ」を様々なデータホルダーとの共同研究で推進中。 行動や生声あるいは生体情報など、可視化されつつある生活者のデータを元にした発見と洞察を行っている。 新刊に『デジノグラフィ インサイト発見のためのビッグデータ分析』(共著) https://www.amazon.co.jp/dp/4883355101/ その他の著書に『自分のデータは自分で使う マイビッグデータの衝撃』(星海社新書)がある。

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