酒井崇匡
博報堂生活総合研究所 上席研究員
世界の人々が日々どんなことを「幸せ」と捉えているか、日本、アメリカ、インド、タイの4カ国のTwitter投稿分析結果をご紹介します。前回 は日本の特徴をピックアップしました。
今回は、日本以外の国の特徴について掘り下げてみましょう。
分析概要をおさらいすると、各国のTwitterで投稿された「ハッピー(happy)」、「ハピネス(happiness)」などの単語を含む投稿を、コロナ以前の2019年、コロナ禍真っ只中の2021年、やや落ち着いてきた2022年―という3つのタイムポイントで比較分析しています。そして、各国の投稿内容に特徴的なラベルを示したのが以下のグラフです。日本では「Watching Together」というオタ活に関連した体験に付与されるラベルの率が高くなっている、というのは前回記事でご紹介した通りですが、他の国はどうなっているでしょうか。
(分析手法や日本の結果の詳細は、前回記事 をご参照ください。)
まず、アメリカの投稿の特徴を見てみましょう。アメリカでは全期間を通じて、「Celebrating Special Event」つまり記念日のお祝いパーティーが、最も幸福と強く結びついているという傾向が見られます。家族を大切にするカルチャーが垣間見える結果です。
ただ、2019年には「ハッピー/ハピネス」関連の投稿の40%にこのラベルが付いていたのが、2022年になると25%まで減っています。コロナ禍の影響で、さすがにお祝いのイベントも減っていたことがわかります。
反対に、この時期に増えたのが「Animal Cuddles」つまりペットや動物への愛情や、彼らと過ごす時間への感謝をつづった投稿です。併せて、料理をしたり、運動をしたりといった日々の平凡な活動に関する「Everyday Life」の投稿も増えていました。
コロナ禍の最中は、パーティー好きなアメリカの人々もさすがにハレの場ではなく、何気ない日常に幸せの拠り所を求める人が多かった、ということでしょう。
ちなみに、ラベルの中には「Celebrate Diversity(多様性を讃える)」というものもあります。アメリカだと、この項目に対してハッピーを感じる人が多いのではないかという印象を持つ方もいるかと思いますが、今回の分析上、値は高くありません。社会問題に対して意見を求められれば多様性を支持するものの、自分事として積極的に発信する人は少ないようです。
アメリカとある意味で対照的なのがインドです。インドの人々も家族を大事にするので、「Celebrating Special Event」つまり記念日のお祝いに幸せを感じる傾向があるのはアメリカと同様です。インドで更に特徴的なのは「Truth to Power」つまり、社会的不公正などに立ち向かって発言していくことが幸せにつながるという感覚です。これは、Twitter上では「ハッピーな社会をつくるために○○」とか、「一人一人にハッピーになる権利があるので自分は○○を支持する」といった投稿に表れます。
また、アメリカでは目立たなかった「多様性の賞賛=Celebrate Diversity」にタグ付けされる投稿が多く見られます。多民族、多宗教、多言語のインド社会では、多くの人が「多様性」を自分事として捉えていることが見て取れます。
インドについてもうひとつ興味深いのは、コロナ禍以前、以後で「ハッピー/ハピネス」に連動する投稿の傾向にほとんど違いがないことです。インドは世界でも最もコロナ被害の大きかった国のひとつ(死者数は世界3位)なのに、ある意味では「コロナの影響を受けていない」のです。インド人の何事にも動じない強さや底力のようなものが垣間見える気もしますね。
最後にタイの分析結果を見てみましょう。タイの傾向で目を引くのは、「I Needed That」という文化です。
「I Needed That」は、「月曜日のモチベーションを高めてくれる」投稿と説明しているのですが、新しい週を迎えるにあたって「今週もハッピーに頑張ろう」とメッセージを送るような感じでしょうか。「笑っていれば毎日がハッピー」みたいなポジティブ投稿もそうですね。これは、自分で自分をモチベートしているだけではなくて、他人が「I Needed That=その言葉を求めていた」と感じるようなメッセージを積極的に発信していくのが、タイの人々の特徴でもあるようです。
もともと他者との調和を重視する文化なので、自分がポジティブな姿勢を保ち、周りの人もハッピーにしようする感覚があるのだと思います。さすが「微笑みの国」といったところでしょうか。
この傾向はもともと強かったのですが、2022年になって、「I Needed That」にタグ付けされる投稿の割合は前年の倍以上に増えました。コロナ禍からの復興期に入って、改めてみんなで前向きに頑張ろうという気運が高まっているのでしょう。
2005年博報堂入社。マーケティングプラナーを経て、12年より現職。 デジタル空間上のビッグデータを活用した生活者研究の新領域「デジノグラフィ」を様々なデータホルダーとの共同研究で推進中。 行動や生声あるいは生体情報など、可視化されつつある生活者のデータを元にした発見と洞察を行っている。 新刊に『デジノグラフィ インサイト発見のためのビッグデータ分析』(共著) https://www.amazon.co.jp/dp/4883355101/ その他の著書に『自分のデータは自分で使う マイビッグデータの衝撃』(星海社新書)がある。