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つながりを感じて、豊かに生きる。いま注目のSBNRとは?|SBNRレポートリリース記念#1

2023.04.13
2023年4月、博報堂と博報堂DYグループのSIGNINGは、生活者発想で経営を考える人間経済学プロジェクト「HAKUHODO HUMANOMICS STUDIO」の立ち上げを発表しました。プロジェクトの第一弾としてリリースしたのが「SBNRレポート」。“精神的な豊かさを求めるけれど宗教的ではない”とされるSBNR層は、欧米を中心に広がりをみせ、日本の自然観や宗教観と非常に親和性が高いと言われています。そもそもSBNRとは何なのか、SBNRがビジネスに与えるインパクトとは?編集メンバーの橋本明意と伊藤幹にききました。

ヨガやサウナ、「いただきます」を言う習慣まで。日常のなかにあるSBNR

―はじめにHAKUHODO HUMANOMICS STUDIOについて教えてください。

伊藤:HumanとEconomicsを掛け合わせた言葉「Humanomics」をコンセプトに立ち上げた、博報堂とSIGNINGの共同プロジェクトです。経済合理性を追求したこれまでのビジネスモデルに行き詰まりが見えてきたいま、より本質的な人間の幸せに向き合って新しい経営ビジネスを考えていくのがこれからの時代には必要なのではないか、という考えのもとこの横断プロジェクトを立ち上げました。その活動の第一弾として作成したのが、SBNRをテーマにライフスタイルやこれからの経営のあり方を考える「SBNRレポート」です。

―なぜ初回のテーマにSBNRを選んだのでしょう?

伊藤:物質的ではない精神的な豊かさや幸せを求めるという意味で、我々が取り組もうとしているテーマにとても近いと考えました。欧米ではかなり浸透していますが、日本でSBNRはまだそれほど知られていない。でも実は、日本とすごく深いつながりがあるんです。ビジネス的にも大きいチャンスがあると感じてこのテーマを取り上げました。

―そもそもSBNRとは?

橋本:SBNR=Spiritual but not Religious。直訳すると「無宗教型スピリチュアル」という言葉になります。わかりやすく言うと、特定の信仰している宗教があるわけではないけれど、精神的な豊かさを求めるライフスタイルを送る、ということ。もともと2000年代にアメリカで誕生した概念ですが、近年欧米の若者を中心に徐々に浸透してきています。SBNRなライフスタイルを送る人たちの特徴としては、比較的年齢層が低くて、健康関心はもちろん、食・旅行・文化への感度が高い人たちが多いという傾向があります。

―なぜいまSBNRが注目されるのでしょうか?

橋本:大きな要因としては、やはりコロナが挙げられると思います。コロナ禍で人との関わりを制限されたなか、良くも悪くも自分のこころと向き合う機会が増えましたよね。そして、その状態を誰もが経験したことで、こころの弱さを見せたり、自分の気持ちについて語ったりすることへの抵抗感が薄れたのかもしれません。そういった環境のなかで、SBNR的な活動も受け入れられやすくなっていると感じます。もう一つ要因があるとすると、今の若者は、他人がいいと思うものより「自分にとって意味があるか」を基準に消費行動を行う傾向が強いと言われていますよね。目に見えるメリットも大事だけど、自分の気持ちが乗るか乗らないかがもっと大事。だから自然と、気持ちが整う行動へと向かっているかもしれません。

―具体的にどのようなことをSBNR的と言うのですか?

伊藤:身近な例で言うと、ヨガや瞑想はからだを整えながら自分のこころと向き合っていくSBNR的なものだと言えます。ほかにも、例えば「いただきます」や「ごちそうさま」を言う文化だったり、朝日を浴びて自然とのつながりを意識したりするというのもSBNR的と言えますね。あと最近流行っているサウナも、もしかしたらSBNR的ライフスタイルのひとつと言えるかもしれません。スマホなどの外部情報を遮断して、自分の身体と心の状態を研ぎ澄ます、いわゆる「ととのう」状態に感じる心地よさを楽しむ人がいま増えていますよね。僕自身の話で言うと、テレワークで仕事に集中したい時にお香を炊いたり、ぐっすり寝るためにメディテーションミュージックをかけたりしているのですが、こういったとくに意識せず生活の一部になっているものが、知らず知らずのうちに気持ちを豊かにしていたり、精神を整えるものになっている。振り返ってみると、身の回りにSBNR的な行動は案外たくさんあるのではないでしょうか。

橋本:わたしは長年ヨガをやっていますが、はじめはダイエットのためにはじめたんです。でも、だんだん身体的なメリットよりも気持ちが整うことに重きを置くようになっていって。そういう変化の仕方もあるのかなと思いました。ほかにもアンケートでもユニークな回答がたくさんありましたよね。無心で絵を描くとか、ペットと触れ合うとか、ジョギングするとか、天気がいい日に散歩に出かけることとか。何気ない日常も、言われてみれば実はSBNRだったんだなと、いろいろな気づきがありました。

「こころ、からだ、しぜん、つながり」を大切に、精神的な豊かさを追求する

―無心で絵を描く、ペットと触れ合うという行為は宗教的でないように思いますし、SBNRの捉え方はとても複合的なのですね?

伊藤:たしかにそうですね。そもそもSBNRに明確な定義があるわけではないので、僕らなりに再解釈する必要があると考えました。先ほどもお話したように本来SBNRは「Spiritual But Not Religious」という言葉を表していますが、私たちはS/B/N/Rという頭文字に「Soul:こころ、Body:からだ、Nature:しぜん、Relationship:つながり」という意味を新たに持たせてみました。これらを統合して精神的豊かさを求めていくことが、SBNRなのではないかと解釈しています。

橋本:日本にはもともと「一心同体」という言葉があったり、こころとからだは一体、自分は世界と歴史の一部であると捉えたりする独特の感性があります。例えばヨガも、やっていることはからだを動かすことですが、こころに集中しないとうまく整えられなかったり。「いただきます」と言う文化やお墓参りは、生命とのつながりやご先祖様とのつながりを感じながらこころに向き合うことだったり。それぞれの要素が連関することで心地よくなるというのは、私たちにとってごく自然の感覚ですよね。スピリチュアルという言葉が入っていると、抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、精神性だけにフォーカスするのではなく、すべてのバランスのなかに身を置くことで満たされるのがSBNRであることを、このレポートのなかで発信しています。

伊藤:「無宗教型スピリチュアル」という直訳だと、どうしてもスピリチュアルが立ってしまうんですよね。「こころ、からだ、しぜん、つながり」を大事にしながら精神的な豊かさを追求するライフスタイルです、と解釈し直したほうが、多くの人に理解していただけるのではないかと考えました。

―SBNRはウェルビーイングとも違うものなのでしょうか?

伊藤:ウェルビーイングは、身体的・精神的・社会的に健康である状態のことを指します。からだだけが健康でもだめで、からだ・こころ・社会とのつながりが全て満たされている状態こそが、人間としてあるべき健康・幸福の姿なのではないか、というのが最近言われることが多くなってきました。そういった意味ではSBNRと重なる部分が多いですよね。ただ、ひとつ違うかなと思うのが、ウェルビーイングでいうこころの健康は、こころが安定している状態とか、こころが疲弊していない状態、などストレス度合いなど「メンタル」での文脈で語られることも多いのですが、SBNRは「スピリット」。つまりこころの状態ではなく、精神や魂と言った、自分がなにを信じ、どんなことに豊かさを感じるのかという、こころの性質にタッチしていくものなのではないか、と個人的には解釈しています。

橋本:自分のこころが何に向いているのか、それがどれくらい深いものなのかというところに意識を向ける感覚ですよね。

伊藤:からだが健康か、ストレス度がどうかという指標だけじゃなく、ちゃんと豊かに生きられているか、信じられるものを持っているかという複合的な視点で、「こころ」が、そして「じぶん」が満たされることが、これから求められていくように思います。

まだまだ日本では浸透していないSBNRという概念。しかしレポートでは、SBNRという言葉が広まっている欧米諸国とくらべても、日本のSBNR人口は多いというデータが出ています。本記事の続編となる、「経営にサービスに、心地よい余白をつくる。SBNRがビジネスに与えるヒント|SBNRレポート リリース記念#2」では、なぜ日本とSBNRの親和性が高いのか、またビジネスとSBNRの接点について紐解きます。

HAKUHODO HUMANOMICS STUDIO 「SBNRレポート」はこちらから

橋本明意
博報堂 ストラテジックプラナー・コミュニケーションプラナー

2016年博報堂入社。“リアルなまなざしでとらえた人や社会の気持ち”を起点とするプラニングが得意。趣味はヨガとスピリチュアル探訪。ヨガ好きが高じて、2022年にインストラクターの国際資格を取得。

伊藤幹
SIGNING コミュニケーションデザイナー

2017年博報堂入社後、2020年よりSIGNING出向。戦略を軸足に、事業共創、ソーシャルアクションの立ち上げなど幅広い領域のプラニングに従事しながら、ウェルビーイングを1つのテーマに様々なプロジェクトを推進。一児の父として、育児と仕事の両立に奮闘中。(所属は取材当時のものです)

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