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若手!クリエイターが挑む!ソーシャルテーマvol.2
誰もが着たい服を着られる未来へ。身体の不自由に合わせたリペアサービス「キヤスク」

2023.04.17
クリエイティブの力で世の中に新しい視点をもたらし、社会課題の解決に挑む博報堂の若手メンバーにフィーチャーする連載企画。今回は、身体が動かしにくい人に向けた洋服のお直しサービス「キヤスク」をご紹介します。立ち上げメンバーである志村洸賀と冨来大二朗に、サービスの成り立ちや「キヤスク」が目指す未来についてききました。

キヤスクとは
「着たい服を着る日常を、すべての人に。」をスローガンに、病気・怪我など様々な理由で服の選択肢の少なさに悩む人に向け、身体の不自由に合わせて「既製服を着やすくするお直し」を提供する日本初のオンラインサービス。前田哲平氏が代表を務める株式会社コワードローブのサービスとして2022年3月にローンチ。プロデューサーとして博報堂ケトルの日野昌暢、デザイナーとして博報堂の志村洸賀、プラナーとして博報堂ケトルの冨来大二朗が参画している

一人ひとり違う障害に、ぴったりのお直しを

―キヤスクははじまって1年という新しいサービスですが、どのように生まれたのか、おふたりの役割もあわせて教えてください。

志村:もともとファストファッション企業に勤めていた前田哲平さんという方が、身体の不自由な方は、自分の好みより“着やすいかどうか”を優先させて毎日の服を選んでいるということに課題を感じて、800人を超える当事者の方やご家族にインタビューをしていたんです。ヒアリングする中で見えてきた課題を解決するため、新しいサービスを開発しようという段階で僕たちが加わりました。

冨来:プロデューサーの日野と前田さんが高校の同級生というご縁もあったんですよね。僕は前職でファッションデザイナーをやっていたので、その経験もあってプラナーとして参加させていただきました。その時点では、服選びにおける選択肢の少なさを解消するという目的と、800人のインタビュー結果が手元にあるという状態。じゃあそれをどういうサービスにするの?ということから考えはじめました。

志村:僕はデザイナーという肩書きですが、このプロジェクトではとくに役割を決めず、みんなでブレストを重ねて企画を固めていきました。はじめはリメイクした服を売るサービスや、身体の不自由な方に向けたおしゃれなファッションブランドという切り口もあるんじゃないかと話していたんです。でも、障害は一人ひとり違うから、一概にこの仕立てなら大丈夫ということはない。だったら、その人に合うようにお直しする方がいいのでは?という結論が自然と出てきました。

冨来:すでにいくつかのアパレルブランドで、体の不自由を考えた服の取り組みはあったのですが、特定の障害を前提として一定の量を生産するやり方では経済合理性が合わず、結果販売価格が高くなってしまったり、サイズが合わなかったりで、あまり広がっていない状況でした。リペアも、通常の業者さんだとメニューにない特別なお直しは受けていなかったり、特別料金が発生してしまうのが現状でした。じゃあ、みなさんどうしているかというと、当事者のご家族が、自身で家族が着たい服が着られるように、身体の不自由に合わせてリペアしているケースが多かったんです。そして、その特別なお直し技術を同じように困っている人に提供したいと思っていることもわかりました。そのインサイトに気付けたのは、サービスを立ち上げるためにクラウドファンディングを行ったとき。そこで、自分もお直しの提供者になりたいという声をいただいて、そのみなさんを組織化していまのサービスを提供しています。

将来的には、お直し費用0円が理想

―クラウドファンディングで発信することによって、サービスの軸が太くなっていったイメージでしょうか?

志村:前田さんと僕たちの想いに共感していただいて、仲間が増えていった実感はありますね。

冨来:自分の技術を誰かのために生かしたいというモチベーションのある方や、もともとお直しの技術があって、このサービスに共感してくれた人たちばかりなので、僕たちはみなさんを「キヤスト」とお呼びしています。そのほうが一緒にやっているチーム感が出るし、気分もあがると思うんです。自分の技術を役立てたいというご家族の想いも内包して、新しい“仕事”を生み出すことができたのも、このサービスの特徴的なところだと思います。

―お一人おひとり必要なお直しが違うと思いますが、実際どのようにオーダーするのですか?

志村:被りのデザインのトップスを前開きにしたり、スボンの脇をファスナーで開けるようにしたり、基本のメニューは用意しています。さらに詳しいオーダーは、直接キヤストとチャットや画像でやり取りして進めていただけます。

―加工料も手頃な価格に設定されているように思います。

冨来:店舗を持たないのでそのぶん安くできるのと、品物のやりとりもキヤストとお客さまと直接行うことでコストを抑えています。将来的にはこのお直し費用がかからなくなるというのが理想なんですよね。健常者の方が洋服を買う、その価格のままで、障害のある方も同じ服が着られる。そういう取り組みにもチャレンジしていきたいです。

サービスの裏側にあるストーリー

―実際お直しをされた方で、印象的なエピソードがあれば教えてください。

志村:お母さんが成人式で着たスーツを、娘さん(次女)のためにリメイクしたいというオーダーをいただきました。娘さんは、首、体幹、手足の自由がきかず、寝たきりの状態。カチッとしたスーツは脱ぎ着が大変で、お母さんにとっても娘さんにとっても一苦労ということでした。そこで、ジャケットの脇から袖までファスナーで開けるようにしたり、パンツのウエストをゴム仕様にしたり。

このスーツ、リメイクする前はお姉さん(長女)も着ていたそうで、母・長女・次女の3人の成人式で着ることができたと、大変よろこんでいただけました。

冨来:ご家族の思い出が詰まった服も代えのきかないものですし、ユニフォームも同じですよね。脳性麻痺などの障害で寝たきりの息子さんのために、サッカーチームの応援ユニフォームをリメイクしたいというご注文もありました。スタジアムに行って応援することはあっても、ユニフォームを着せるのがむずかしく、体にのせるだけになってしまっていたそう。簡単に着脱できるよう、両脇から袖まで大きく開くかたちにお直ししました。

スタジアムでもテレビの前でも、みんなと同じユニフォームで応援したい。ファンなら当然の想いですよね。こういったお客さまの声をいただいて、今後スポーツチームとの協業も視野に取り組めたらと考えています。

アパレル業界全体をひとつの方向へ

―スポーツチームとの協業という話もありましたが、今後キヤスクとして取り組んでいきたいことは?

志村:いま少しずつメディアでも取り上げていただいていますが、まだまだ認知が進んでいない状況。一度利用していただくとリピート率は高いサービスなので、とにかく多くの人に伝えていきたいです。先ほどの例のように、自分が好きなものをお直しして着たいとか、親が大切にしていたものをお直しして着たいとか、一着ずつにストーリーがあるのがキヤスクのいいところ。そういった事例もご紹介しながら、サービスの魅力を伝えていきたいと思います。

冨来:お直しのキヤストさんと同じように、僕らも前田さんの想いに共感して、全力でプロジェクトを推進しています。アパレル業界全体を巻き込んで、みんなが自由に着たい服が着られる未来を実現したい。そのためにも、百貨店や商業施設でポップアップを開催したり、さまざまな企業さまと協業していきたいです。僕らも企業さまのPRやCSR活動のパートナーとしてお役に立てると思いますし、キヤスクのお直しの知見をアパレルブランドに共有することもできる。業界全体がひとつの方向を向けるよう、活動していきたいと思いますので、興味をもっていただけましたらぜひご連絡ください!

志村洸賀
2013年博報堂入社。2021年まで博報堂ケトルに所属後、現在BXクリエイティブ局に在籍。アートディレクター/デザイナー。

冨来大二朗
ファッションデザイナーを経験後、2019年より博報堂ケトルに参加。プラナー/デザイナー

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