Z世代は、人間関係について「狭く深くつながりたい」と考えているとよく聞きます。若干20代にして、自分が持つ関係性をこれ以上広げなくていいと本当に思っているのでしょうか。中年世代のつながりについて考えることが多いアラフォー筆者は、Z世代の「狭く深くつながりたい」の真意が気になり、探ってみることにしました。
※なお、Z世代は2023年現在、おおよそ11歳~27歳ですが、本稿においては他の世代と条件をそろえて比較するため、便宜上、Z世代=20代の有職男女(学生や無職の方を除く)と定義しました。以下、20代Z世代と呼ぶことにします。
一口につながりといっても、様々なタイプの関係性があります。「狭く深く」を支持する20代Z世代であっても、関係性のタイプによっては、これから広げていきたい関係性もあるのではないかという仮説を立てました。
まず、関係性には、大きく『代理的な関係性』と『親和的な関係性』というベクトルが存在します。
実際には、ほとんどの人間関係には両方の要素が含まれますが、今回はあえて両者を分けて、それぞれの関係性の例を示し、今後広げたいニーズがあるかを聴取しました。
その結果、20代Z世代は、代理的関係性、親和的関係性ともに「もっとほしい(増やしたい)」と考える層が5割前後を占め、他世代と比べても、つながり作りの意欲が必ずしも低いわけではないことがわかりました。
一方で、20代Z世代で特徴的だったのは、「もっとほしい(増やしたい)」と回答しなかった人たちのうち、「すでに十分持っているため、もっとほしいとは思わない」(=これ以上広げなくていい)と答えた割合が、親和的な関係性において高いことです。
これはなぜでしょうか。20代Z世代に行ったインタビューからは、いくつかの背景が浮かび上がってきました。
見えてきたのは、SNSの浸透やコロナ禍といった時代背景と、複雑化する社会を生き抜く20代Z世代の“無理してまで頑張らない”ストレスコーピング戦略※です。(※不快な感情を軽減するために使用される意識的な戦略)
20代Z世代はSNSで多くの友人・知人とつながっていることで、SNSが無ければ知る由もなかった友人たちの動向を知り、ときに心がザワつく場面に遭遇することがあります。そんなとき、自分にとっての“深い関係性の友人”を予め狭く定義しておくことで動じないようにするのは、一種のストレスコーピングだと言えます。
また、コロナ禍になってからは、浅い関係性の友人たちとは取り立てて会う必要が無いため、実際に会って親しくなることが難しくなりました。とりあえずSNSでつながっておいて、SNSでの言動や雰囲気をもとに自分との相性を判定するケースが増えました。
新しく関係性を広げようにも、実際に会えない、相性が合わない場合は事前にそれがわかってしまう。そういった障壁を前に、20代Z世代は、“親しい人が新たに欲しくないわけではないが、無理をしてまでつながろうと思わない”と口をそろえます。
この“無理をしない”は、20代Z世代を読み解くひとつのキーワードだと感じます。彼ら彼女らは不透明さを増す社会の中で、タフな環境変化にさらされる事態に備えて、自分にかかる負荷を調整し自分を保つことの大切さを感じ取っています。つながり作りにおいても、SNSやコロナ禍の影響で親しい友人を新たに作るハードルが上がる中、無理をして自分が消耗することは避けたいので、親和的な関係性は”狭く深く“でいいと許容している状態だと言えるでしょう。
続いて代理的な関係性について見ていきます。20代Z世代は、他世代に比べて、代理的関係性を優先して広げたいと考える割合が高くなっています。
その際、やみくもに広げるのではなく、“お互いにとって有益な相手と効率的につながりたい”と考えるのが20代Z世代に見られる特徴です。
代理的関係性は、主に仕事やキャリア、ライフワークにおいて、お互いが成し遂げたいことのために知識や経験、情報、人脈などを融通し合い貢献し合う、いわばギブ&テイクが強く働く関係性です。
代理的関係性を広げる際には、ギブ&テイクがうまく成立しそうな相手とつながろうとするため、多くの場合、相手の“ハッシュタグ”(その人が何者かや、その人の強みを端的に表すキーワード)を拠り所にして興味を持ち、つながっていくことになります。
自分が何者かや、自分の強みを明確にしてアピールする行為はセルフブランディングにも通じる話であり、
SNSなどでやりすぎると“イタイ”などと揶揄されることもありますが、自分のハッシュタグが明確なほど相手からも選ばれやすくなり、代理的関係性を広げやすいと言えます。
以下のデータからは、20代Z世代が、つながり作りにおいて上記のような感覚を他世代よりも強く持ち、“ハッシュタグ”を拠り所の1つにして行動している様子が伺えます。
では、20代Z世代が、代理的関係性を戦略的に広げることだけに集中しているかといえば、もちろんそうではありません。
代理的関係性には、必ずしもお互いの人格ではなく、お互いの持つ“機能”を求め合うドライな側面があり、そのことがときにもたらす緊張感や疎外感を20代Z世代が感じている様子も伺えます。
そのような中で、20代Z世代からは、親和的関係性、代理的関係性それぞれの価値を認め、しなやかに向き合っていこうとする声が聞かれました。
代理的関係性を広げたいと思いつつも、職業的な充実に役立つつながり作りだけに価値を見出すのではなく、親和的関係性が持つ安心や安らぎといった価値を理解し、両者のバランスを取っていこうと考えている様子が伺えます。それは、自分にかかる負荷や自分を保つことに敏感な20代Z世代ならではの賢さと言えるかもしれません。
また、一般に、人間関係は新しく出会った初期の段階ではギブ&テイクの均衡により敏感であり、その後に親しい関係性へと移行することを踏まえて、代理的関係性を“親和的関係性に至る前段階”と捉えるなど、代理的関係性が持つプレッシャーを合理的に受け入れようとする頼もしさも感じられます。
いずれにしても、20代Z世代にとって、代理的関係性と親和的関係性の両方をバランスよく育んでいくことは一層重要な課題になりそうです。
最後に、20代Z 世代が、どのような方法で「代理的関係性」や「親和的関係性」を広げていきたいと考えているのかをご紹介します。
代理的関係性では「職場の会合」が、親和的関係性では「友人・知人の紹介」「過去の友人に連絡を取る」がそれぞれ高くなっていますが、注目したいのは、いずれの関係性も作り方は「わからない」が極めて高いことです。関係性へのニーズはあるのに、実際に関係性を作るための具体的な方法はよくわからない状況だといえます。
ここから、20代Z世代のつながり作りをサポートする場やサービスにビジネスチャンスがあると考えられます。例えば、以下のような方向性があるのではないでしょうか。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
大人になってから人とつながるって、奥が深いテーマだなと改めて感じます。つながりたいと願う人たちが利用しやすい、より多様な“つながり方”の進化に期待したいと思います。
※ 博報堂「つながりに関する自主調査」(2回)
インターネット調査(東名阪の1都2府5県在住の20-50代 有職男女1000名、2023年1月・3月実施)
※ 20代有職男女インタビュー
民間シンクタンク、教育系事業会社を経て2018年より現職。日用品消費財を中心に幅広い業界のマーケティング戦略立案に従事。社会潮流や生活者の洞察に面白さを感じ、最近は「中年世代のつながり直し」というテーマで自主研究を推進。