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ヒット習慣予報 vol.269『詰め込みライフ@中国』

2023.05.30
#トレンド

こんにちは。ヒット習慣メーカーズの江です。

私は先週まで、3年半ぶりに故郷の中国に帰ってきました。今回の帰郷はGW明けに1週間ほどのタイ、ベトナム出張を除くと、1か月半にも渡る長めの滞在でもう少しのんびりできるかと思っていましたが、日本にいる時以上にやることが多すぎて大忙しでした。久々の親孝行はもちろんのこと、親戚を訪ねたり、旧知の親交を温めたり、仕事につながるネタを探したり、地元の人気スポットを探訪したりして、一日を通して多くの充足感に包まれていました。

さて今回のテーマは、中国で最近、様々なシーンで見られる「詰め込みライフ」です。
中国では一昔前に、常に時間に追われながら忙しなく働く現代社会への疑問から生まれたスローライフという考え方を取り入れて、時間を気にせずにゆっくりとした暮らしを楽しむ人がもっと多かったように思いますが、コロナ禍を経た今、寸暇を惜しんで予定を詰め込みながら、あえて「詰め込みライフ」を楽しむ人が増えてきています。

まずは「詰め込みライフ」の代表例として、中国の大学生など若者たちの間で人気を集めている強行軍のような「特殊部隊式旅行」(※中国語における「特殊部隊式」とは、超人的レベルという意味で用いられることばです。)があげられます。中国のソーシャルリスニングツールを使って「特殊部隊式旅行」を確認すると、直近3か月で急上昇していることが読み取れます。

「特殊部隊式旅行」の投稿ボリューム推移

出典:DATASTORY(中国)

猛者たちは、学校や仕事が終わると、荷物を抱えて空港や駅に駆けつけ、金曜日の夜もしくは週末の初日の早朝に出発し、景勝地や話題のグルメスポットを10数カ所訪れ、夜はわずか数時間しか睡眠を取らず、すぐに次の「行軍」に移ります。移動でへとへとになりながら、週末か月曜日の高速鉄道で帰路について、また授業に出席したり出社したりします。中国のネット上でこのような内容の投稿が相次ぎ、それを真似しようとする人も後を絶たない現状にあります。

若者のみならず、シニアにも「詰め込みライフ」を送る傾向が見られます。中国の実家で暮らす70代の両親を近くで観察していると、すきま時間にスマートフォンを上手に使いこなしてこれまでになかった行動を取っていることがわかります。例えば、食料品の調達先はこれまでもよく利用していた朝市、スーパーマーケットやECサイトのほか、ライブ配信を見ながら商品購入ができるライブコマースにはまっていることが意外でした。両親には、なぜ、ライブコマース?と聞いてみたところ、テレビ番組のような感覚で決まった曜日の決まった時間帯に、決まった人(お店)のライブ配信を見るのが楽しみで、遥々現地まで足を運ばなくても全国各地の農産物やローカルフード等の特産品を自宅にいながらポチっと買えるからとのことで、便利な世の中になったよねとご満悦な様子でした。父も母も一日中詰め込んでライブ中継を見すぎじゃないかと心配するほどでした。

他には、地元に残る同級生たちに話を聞くと、40歳くらいの中年も日々の仕事がどんなに忙しくても、どんなに疲れたとしても、少しでも暇な時間があれば、流行りのキャンプやフライングディスク、サーフボードやサーフスケートなどのアウトドア活動に精を出しているそうで、その元気さは若者顔負けですね。

では、なぜこのような「詰め込みライフ」が注目を集めるようになってきているのでしょうか。その理由は大きく2つあると思います。
1つ目は、長期にわたってコロナ禍を経験したからこそ、「今を生きる(中国語で“活在当下”)」という価値観の広がりが背景にあるのではないかと考えます。コロナ禍中に不自由な生活を強いられて不安に押しつぶされそうな日々が続いていましたが、そのような経験から、将来のことなど考えずにひたすら「今やりたいこと」「今、楽しいこと」を精一杯やる、多少無理してでもそれができれば人は幸せになれるという価値観が広がっているのだと考えます。

そして、2つ目は、現代社会が豊かになりすぎたから、情報・モノ・買い方が溢れる中で、選べないことを避けるために、ひとまず「詰め込み」で一通り試しながら、少しずつでもすべて体験しておくというのが生活者の新たな知恵だと捉えています。「特殊部隊式旅行」のように、限られた時間の中で、なるべく多くの場所を回り、多くのタスクをこなせば、今度じっくり回りたいところ、楽しみたいことが効率的に見つかるかもしれません。

最後に、「詰め込みライフ@中国」にどのような可能性があるか、新たなビジネスチャンスを具体的に考えてみました。

「詰め込みライフ@中国」のビジネスチャンスの例
■訪日中国人観光客向けの「特殊部隊式旅行」のモデルコースが検索できる日本観光情報サイトの開設。
■スケジュールや趣味等の情報を入力すれば、「詰め込み」の過ごし方を提案してくれるスマートフォンアプリの開発。
■様々なジャンルで、「詰め込み」の楽しみ方を教えてくれるコーチの育成。

中国の故郷から日本に戻ってきてもうすぐ2週間立ちますが、仕事に追われて慌ただしい日々を過ごしている中、自分らしくどのような「詰め込みライフ」のスタイルを確立していこうかなと考え始めたところです。

▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。

江 源(こう・げん)
MTCグローバル開発グループ
ヒット習慣メーカーズ メンバー

2017年博報堂に中途入社。
近いようで遠い中国のヒット習慣から仕事のヒントを探す日々。
中国で一番辛いと言われる故郷の湖南料理をこよなく愛する、生粋の「辛党」。

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