クラシエの「漢方セラピー」誕生15周年を記念して発売されたからだの不調をきっかけにダイバーシティ社会を考える カードゲーム。プレイヤーが「体調不良の人」と「まわりの人」とに分かれ、自分のからだの不調に気付いていない設定の「体調不良の人」が、「まわりの人」からかけられる「やさしい言葉」※をヒントにして、自分の症状に気がつくことを目指すゲームです。 2021年10月の発売からわずか1週間で年間売上目標の800個をクリア。発売から2ヶ月で異例の1,500個を売り上げ、2022年の春に増刷された。
※相手の気持ちを想像し気遣うことで生まれる言葉。相手を思いやって、やさしくなることがこのゲームのポイント 。
【あそび方】
①“体調不良の人”役が自分に見えないように「症状カード」を引いて、額に当てる
②周囲の人が症状に合わせて体調を気づかったやさしい言葉“セラピーワード”をかける
③“セラピーワード”をヒントに自分の症状がなにか当てる
④一番やさしい言葉をかけた人に「セラピーチップ」が贈られる
―「人にやさしくなるゲーム」の企画はどのようなきっかけではじまったのでしょう?
村山:クラシエの担当者の方から「漢方セラピー」の15周年をきっかけになにか企画ができないかというご相談をいただいたことがきっかけでした。マーケティング的には、若年女性を中心に漢方セラピーをまだ知らない人たちに認知を拡大したいというリクエスト。ちょうどコロナ禍で、みんながからだの不調に敏感になったり、人間関係にもピリピリした空気が停滞していた頃だったんですよね。そんなタイミングだからこそ、広告的なおもしろさを狙うのではない、もっと違うアプローチで漢方の価値に共感してもらえる施策を行いたいなと思っていました。
そんなことを考えているなかで、プロジェクトに参加してくれたのが横山さん。そのときは特別「社会課題を解決しよう」という思いでスタートしたわけではなかったですし、ましてやゲームというアイデアも生まれていませんでした。ただ、継続的に自走するブランドコンテンツを社会潮流から発想して企画したいなという想いはあって、そのためにはなにか生きにくさを感じる人にとって少しでも解決の糸口になることが大事だなと考えていました。そこで若年女性が思う社会に対する息苦しさってなんなんだろうということを一緒に考えることからスタートしました。
―どのような経緯でゲームのアイデアが生まれたのですか?
横山:これまでの広告コミュニケーションを振り返ってみると、漢方ってどうしても「女性が一人で自分の不調と向き合う」みたいな描き方が多かったように感じたんです。わたしが常々思っていたのは、からだの不調を一人で抱えて、一人で解決しなきゃいけないのってなんか寂しいよなということ。家族やパートナーや友達が、自分のからだのことをもっと知ってくれたらハッピーじゃないですか。そんな思いから、“もっとオープンにからだのことについて話せる世界”が漢方と結びつくにはどうしたらいいかと考えました。
ちょうどその頃、コロナ禍であまり外出できないこともあって、少人数で家に集まってカードゲームであそぶというのにハマっていたんですよね。ゲームしながら会話して、仲良くなれるのがいいなと思っていて。そんな点と点がつながって、“オープンにからだのことについて話せるゲーム”という企画が生まれました。
村山:この企画に決まるまで、たくさんアイデアを出してくれたのですが、そのなかで、継続的に自走するブランドコンテンツにしたいという僕の考えとゲームのアイデアがぴたっとはまった。漢方という真面目な商材と、いい意味でのギャップがあるものがいいなと思ったんです。
もうひとつ、「漢方セラピー」のブランディングのなかでCMでも象徴的に使われていたパッケージデザインがひとつのブランド資産になっていることに着目して、このデザインをそのまま活用したいというのも当初から思い描いていたこと。ゲームのパッケージに使うことで、商品認知にしっかりとつなげられると考えました。
―ゲームをつくることが決まってから、内容はどのように詰めていったのですか?
横山:カードゲームをつくりましょう。からだのことについてオープンに話せる世界を目指しましょうということまでは決まっていましたが、その時点で「人にやさしくなる」というコンセプトは生まれていませんでしたし、ルールも1から考えはじめました。
村山:なるべくシンプルにあそべるものがいいよね、という話になったよね。そのなかで出てきたのが、自分に見えないように額にカードを当てて数字を競うトランプゲーム。
横山:世の中にすでにあるゲームをベースにしながら、うまくアレンジできないかなと考えました。ただ手元でやるだけのゲームより、「おでこに付けて相手に見せる」という動作が入ることでSNSの動画にしたときも拡散させやすいみたいな計算もあって(笑)。
村山:すごく真面目なゲームなんだけど、なんなら友達との飲み会とかで使ってもらえるくらいにならないと本当の意味で民主化しないと思うんですよね。からだについて話し合いましょうというのを真面目にやろうとしたら教科書とかで教えればいいし、でもまだ浸透していないということは、もっと楽しんで前向きに捉えられるコンテンツにしないといけない。だから盛り上げ要素として「アプローチカード」という仕組みを考えました。
横山:カードゲームやるときって、あの子と仲良くなりたいなとか、あの子にこんなこと言わせたいなみたいな気持ち、ありますもんね(笑)。
村山:真面目さも大事だけど、人間本来の欲求のようなものに正面から向き合わないと、社会課題だって自分ごと化することはできないし、解決につながらない。ただの真面目な勉強コンテンツに終わらせないための工夫については議論しました。
―「人にやさしくなる」というネーミングが決まったのは?
村山:漢方の本質的な価値を共感できる形で言葉にしてみると「人にやさしくなる」ということなんじゃないかと考えたんです。そもそも漢方って、一人ひとりのからだに向き合って体質改善をしていくアプローチ。言ってみれば「ダイバーシティ」なんですよね。
このギスギスした社会の中で、お互いのからだの不調を話し合うことは、本質的にはやさしさを与え合う行為なんじゃないかと思って。ダイバーシティ&インクルージョン社会の実現を目指すという大きな潮流の中で、自分の不調をオープンに話し合うことで、利他的に人にやさしくするという行為をゲームの価値に据えようと考えました。漢方という商品の価値、このゲームの体験価値、そしていまの社会の価値、それを一気通貫する言葉として「人にやさしくなるゲーム」というネーミングが生まれました。
―オープンに話すこと、やさしくし合うことが目的という新しいゲーム。ルールメイキングは相当苦労したのでは?
村山:僕らだけでつくるのではなく、このゲームの意義に共感してくれるプロと一緒につくりたいなと思い、数々の素敵なゲームを生み出し続けているオインクゲームズに入っていただきました。最初のミーティングでやさしさを切り口にしたゲームはこれまでなかったからとてもおもしろいと思うって代表の佐々木さんから言ってもらえて、うれしかったよね。
横山:はい。ゲームに正解なんてなくて、とにかく繰り返しやってみることでしか分からないということで、テストプレイを100回以上やりましたよね。全部紙に手書きしたカードを使って、とりあえずみんなでやってみる。クライアントも巻き込んで一緒にテストしました。
―ゲームをつくるなかでこだわった点は?
横山:ふつうのゲームだと正解を当てることでポイントが加算されると思いますが、このゲームは勝ち負けではなく、やさしい言葉をかけるということ自体に意味があるルールにしました。。そもそもの目的が発話を生むとかやさしくし合うということなので、そういったルールにしていますが、もし症状に対して、間違った声かけをしてしまったとしても、あとから「そんな対処法もあるの?」とか「それは違くない?」といった会話にひろがったらいいなと思って。あと、「そのやさしい言葉、ぜんぜん女ゴコロをわかってないね」とか(笑)。
村山:やさしさについて語り合うっておもしろいよね。「いまのやさしさ最高だったな!」みたいに(笑)。あと、症状カードの症状は「漢方セラピー」でアプローチできる症状とリンクさせているのですが、例えばホットフラッシュとか、男性や子どもはあまり知らないかもしれませんよね。でも「症状リスト」を見るとそれがどんな不調なのかわかるようになっている。ゲームであそぶことで、漢方で改善することを知れるだけでなく、日々の生活の中で家族や友達、仕事仲間の体調をもっと気遣えるようになるかもしれないですよね。
―発売してからの反響はいかがでしたか?
村山:家族や友達とあそんでいますという声だけでなく、今ではなんと中学校の授業やNPOで使っていますといった声までいただいています。あとは、医療福祉接遇マナー講師の方が興味をもってくれたり。患者さんと向き合うときにどんな言葉をかけるべきか、これを使って研修に活用しようとしてくれているみたいです。体調について知ることや人にやさしくするということが、教育の面でも価値を認めてもらえてうれしいですね。
―今回の企画を通じて気付いたこと、今後のクリエイティブに活かしたいことなどあれば教えてください
横山:振り返ってみるとやはり、漢方という製品と、オープンにからだのことについて話せる世界になればいいという思いが素直に結びついたことが強かったなと思います。不調って生きていくうえでぜったいに起こることだから、それにみんなで向き合い、乗り越えていく社会がつくれたらすごくハッピーだなって心から思えた。それが社会課題を解決するということの第一歩なんですよね。この企画が「社会課題を解決するぞ!」ということからはじまったわけではないですし、自分の生きていく延長線で考えられたことが一番よかったんじゃないかと思います。
村山:自分は決して意識が高い人間ではありませんが、そんな自分でももっとこういう世界になったらいいのにと感じたことが、実は社会課題の解決にむけた小さな一歩なのかもしれないなと思います。僕自身も、社会課題解決がマーケティング課題と独立したものであるという認識はなくて、すべてのことが社会の何かとつながっていると思っている。その距離が近いかどうか。今回は非常にわかりやすいケースでしたが、どんな仕事でも、社会に対してどんな意味があるのかを意識して常に企画するようにしています。
自分の関わったマーケティングによって「漢方セラピー」を知っていただくというだけでなく、誰かの小さな希望につながるならこんなにうれしいことはないですよね。マーケティング課題を解決するだけでなくその先にいる誰かの日々の悩みや生きづらさが少しでもやわらいだり、そんな小さな余波をどれだけ生み出すチャレンジができるかが広告会社で仕事する意味なんじゃないかなと思っています。
マーケティングにおいては物を売ることもひとつのお題ですが、クライアントの皆さんと大きなチームになってクリエイティビティを発揮すれば、製品以上の価値を生み出すことにつながるはず。今後も小さい波みたいなものを生み出しつづけていきたいです。
2012年博報堂入社。社会を巻き込むコンテクストを軸に、統合プラニングを実現する。PRアワードシルバー、ACCシルバー、グッドデザイン賞等
2017年博報堂⼊社。コピーライター/アクティーベーションプラナーとして、コアメッセージを中⼼とし、”⼈を動かす”ことにこだわった統合的なプラニングに幅広く携わる。
ACC Young Competition グランプリ 、PRアワード シルバー、JPMプラニングソリューションアワード銀賞等