こんにちは、ヒット習慣メーカーズの山崎です。
玄関の扉を開けた瞬間に夏の熱気に飲み込まれる日が続きますが、みなさまいかがお過ごしですか?わたしはそのままそっと扉を閉めて、陽が翳るまで冷房の効いた部屋に逃げ込むことがほとんどです。
そんな省エネ気味なわたしとは対照的に、春先から育てている観葉植物は夏の光を浴びてぐんぐんと緑の葉を増やしています。のびのびと育ってゆく姿に明るいエネルギーをもらい、もしかして「育てる」って偉大なことなのでは…?と愛しく思う日々です。
第一園芸株式会社によると、日本国内に住む人の二人に一人の自宅に観葉植物があり、そのうちの26%は一年以内に育て始めたそうです。想像よりもたくさんの人が緑のエネルギーをもらって暮らしているのですね。
「自宅の植物の有無」(左)と「観葉植物を育て始めた時期」(右)
育てる習慣は観葉植物だけではありません。今日は新たに広がりつつある「育てる」暮らしについてご紹介いたします。
1つ目は、「育てる調味料」です。
調味料といえば、卵焼き専用の出汁やアウトドア専用のスパイスなど、使用オケージョンがどんどん細かく専門的になっているのはご存知の方も多いかと思います。そのような流行の先端で、「育てる」ことに着目する人も増えているようです。
たとえば調味料の代表格、お醤油。瓶に入った醤油麹を購入し自分で水を足すことで発酵をスタートさせ、週1回など定期的にかき混ぜて発酵を促します。仕込んだ麹は季節を越えて熟成され、だんだんと香り豊かなお醤油になっていきます。同じ瓶でも発酵させる環境や熟成期間が異なるとまた違う味わいになるのも醍醐味だそうです。
作る人と使う人にはっきり分かれていた立場が「育てる」という行為を通じてゆるやかに繋がってゆくのも不思議で嬉しいですね。
2つ目にご紹介するのは、「育てる調理器具」。
100円ショップに行けば基本の調理器具がずらりと並び、一人暮らしを始めるのにも事欠かない時代ですが、今、あえて本格的な調理器具を買って時間をかけて「育てる」という人が増えてきています。
その代表の中華鍋は使うほどに油が馴染みお料理がしやすくなるという育てがいのある調理器具です。料理の基本である焼く、炒める、蒸す、煮る、揚げる、のすべてができてしまう万能器具でもあり流行り廃りがなさそうですが、最近になってあえてお気に入りの中華鍋を買う人が増えています。コロナ禍でお家時間を充実させるトレンドの一つとして広がり、その万能さから現在はキャンプブームに乗っかって広がっているように思います。
砥石はもちろんのことまな板の素材にまでこだわって長く使う包丁も「育てる調理器具」の一つといえるのではないでしょうか?
3つ目にご紹介するのは「育てる家具」です。
安価でおしゃれな家具、複数の組み立て方ができる家具、また便利なサブスクリプションなど家具の選び方も多様になってきましたが、そんな中でも「育てる」という長い見通しのもと家具を選ぶ人も増えています。
人の手がよく触れる場所の色の変化や、生活の中で擦れる場所の細かい傷、そういうものを「味」や「風合い」と捉えて丁寧に使い込んでいくのを良いと捉える人が増え、それに伴って家具のメンテナンスサービスも増えているようです。初めからヴィンテージ品を買うのも心惹かれますが、使い込んでいくうちに少しずつ少しずつ自分だけの家具に育っていくのも楽しみですね。
なぜこのような「育てる」暮らしが流行しているのでしょうか? 大きな理由は二つ考えられます。
一つ目は、生活者がモノに求める価値が「唯一性×過程」に変わりつつあること。
モノや体験に唯一性を求める傾向は少し前から続いています。市場に多く出回る「既製品」を皆と同じように持つことが良いとされていた時代は過ぎ、手に入れられる時や場所あるいは生産者などの付加情報による「希少性」に重きを置くようになりました。そして、自分だけに向けて作られた「パーソナライズ/オーダーメイド」や、製作体験も価値の一つである「オリジナル」へと変化を続けています。
そのようなモノの価値の流れに、時間を加味した「過程」の価値が加わって、「育てる」暮らしの流行に繋がっていると考えられます。
二つ目は、コロナ禍でのお家時間や今も続くリモートワークを通して、自分の暮らしを見直す人が増えたことです。お金や時間、モノの価値が一変した期間を通して豊かさとは何か考えるきっかけになった人も多いのではないでしょうか。
最後に、今後の広がりについて、考えてみました。
星の王子さまに「きみのバラをかけがえのないものにしたのは、きみが、バラのために費やした時間だったんだ」(※1)というやさしい台詞がありますが、「育てる」暮らしは、目まぐるしくモノや情報が駆け巡る現代で、自分の暮らしをかけがえのないものにするとてもやさしい習慣なのだな、と思いました。
<参考文献>
(※1)サン=テグジュペリ.(2006).『星の王子さま』新潮文庫
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
2021年博報堂に入社のマーケター3年目。生き物が好き。この夏にリニューアルした福井の恐竜博物館に行きたいです。