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【カンヌライオンズ2023】博報堂グループ審査員インタビュー(博報堂 張ズンズン/TBWA HAKUHODO細田高広/TBWA HAKUHODO松宮聖也)

2023.08.04
#アワード#グローバル
今年で70周年を迎える世界最大規模の広告祭「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」が2023年6月19から23日まで、フランス・カンヌで開催されました。

カンヌライオンズ2023の審査員を務めた博報堂グループの審査員に、今年のカンヌの潮流や担当部門のグランプリ受賞作品などについてインタビューしました。

■デザイン部門

(前列右から2人目が張 ズンズン)

今年のカンヌの潮流や審査を終えたご感想について
今年の審査は、とても拮抗していました。「デザインの力を活用して影響力を持つ最高な作品を選ぶ」という審査基準で、多くのユニークなアイデアやデザインクラフトと表現方法があり、グローバルな社会イシューに根ざした作品も多かったです。

実際の審査は、10カ国からの10人の審査員で14時間x2日間行われました。審査委員長は、インクルーシブな視点に長けていて、幅広い視点から多様性に満ちた議論を尽くす環境を作ってくれました。学びの多い、とても価値のある経験ができました。

デザインの可能性を広げるために、幅広く作品を選びました。パーパスドリブンな作品から、飛びぬけたデザインクラフトまで。Z世代からLGBTQや高齢者向けの作品まで。メディアも、プリントからデジタルまで。ぜひ、今年のデザイン部門の受賞作をチェックしてみてくださいね。

今年のデザイン部門のグランプリ作品の特徴や受賞の秘訣について
今年のグランプリは、言語文字のデザインの「ADLaM」です。西アフリカのフラニ族は口頭で話すだけで書き文字を持っていません。言語文化が衰退していくことを懸念したバリー兄弟は、手書きのアルファベット「ADLaM」の制作を発想しました。兄弟はMicrosoftの力を借りて、文字をデザインし、デジタル化して、各種デバイスでも使いやすいデジタル書体化することに取り組みました。今後はMicrosoft 365のプログラム群、デスクトップ、モバイルに展開していく予定。デザインとデジタルの力で、文化保存に役立てようという作品です。他のエントリーより、豊かな人間性を持ち、より強いインパクトを創り出していることが評価されました。

受賞品:ADLaM - An Alphabet to Preserve a Culture
広告主: Microsoft

張 ズンズン
グローバル統合アートディレクター
博報堂 グローバルクリエイティブ&プロデュース部

台湾出身。多樣で豊かな文化のNYに11年間滞在した後、東京へ。世界的なラグジュアリーグループとデザイン会社を経て、2020年博報堂に入社。ブランディング、ラグジュアリー領域に強みを持つグローバルAD。

■イノベーション部門

(左から4人目が細田 高広)

今年のカンヌの潮流や審査を終えたご感想について
今年は世界的に生成AIが盛り上がる最中で、カンヌが開催されました。その反作用でしょうか。むしろAIには頼れない人間らしい創造性に注目が集まったように感じました。

個人的には「外側への想像力」を持つ仕事が印象に残っています。マーケティングの仕事は、ターゲットやユーザー、内側を想定することから始まりますよね。けれどその時点で、障害がある人やマイノリティは、市場の外に追いやられている可能性がある。そこにアクセシビリティと呼ばれる「外側への想像力」を持ち込もうというわけです。

もうひとつ「フィクシションの構想力」にも注目しています。例えば、海面上昇によって国土が沈むとされているツバルが、デジタル上の土地への引っ越しを始めるというSFのような施策。人間らしい「壮大な虚構」で未来を変えようとする発想に惹かれました。

今年のイノベーション部門のグランプリ作品の特徴や受賞の秘訣について
カンヌのイノベーション部門といえば、2016年にGoogleのアルファ碁がグランプリとなり、いまに至るAIブームを決定づけたカテゴリーです。一過性ではなく、生活や社会を変えうる仕事を讃えます。

グランプリだったMouthPad^はMITのラボから生まれたデバイスです。両手に障害のある人たちが、回路の埋め込まれたマウスピースを上顎にはめ舌で操作します。

ポイントは舌を「11本目の指」と捉えたコンセプトでした。音声認識やアイトラッキングでは真似できない、指のようなスムースで自由な操作性。それが手に入ることで、絵を描くことも、ゲームを自在に楽しむことも簡単になります。

イノベーション部門の評価軸であるスケールの可能性とインパクト設計、つまり「どのように広がるのか」と「どのように生活を変えるのか」という2つの問いに明確な答えをだしてくれました。今後のスタンダードになることを期待します。

受賞品:MouthPad^
広告主: Augmental

博報堂グループもゴールドを獲得し、これが「日本初となるイノベーション部門での受賞」となりました。廃棄貝殻を代替プラスチック素材に変えて、循環型経済をつくるというアイデアです。プロダクトを超えて、新しい社会の提案となっています。

受賞品:SHELLMET (日本名:HOTAMET)
広告主:甲子化学工業株式会社

細田 高広
チーフクリエイティブオフィサー(CCO)
TBWA\HAKUHODO

博報堂、TBWA\CHIAT\DAY(LA)を経て現職。事業ビジョンやコンセプトから、ブランドコミュニケーションまでを一貫して手がける。カンヌ金賞、NYADCグランプリ、Clioグランプリ、ACCグランプリ、クリエイターオブザイヤーなど国内外で受賞多数。アジアを代表する40歳以下の40人(40 UNDER 40)にも選出。

■エンターテインメント・ライオンズ・フォー・ミュージック部門

(前列右から2人目が松宮 聖也)

今年のカンヌの潮流や審査を終えたご感想について
初めてカンヌで審査員を務めさせていただき、世界のトップレベルのクリエイティブ達と熱い議論を交わす事は、キャリアの転機ともいえる程自分に大きな成長を促したと感じています。何を持って良い作品とするのか。3つのクライテリアを定義し、一つ一つ、時間をかけアイデアを交換する。それに大きな賛同を得たり、自分の価値観が変えられることはとても刺激的な体験でした。今年僕が担当した部門の潮流として、やはり多くの作品が現在の社会のあり方を反映していると感じました。Gen Zへのメッセージや、この1年で劇的な成長を遂げたAI、多くの人たちを傷つけている戦争に対するメッセージ。単純に異常に高いクラフト。それら全てに共通していたことは「目的」と「文化」です。今年の審査を通じて学んだことは、今後の自分の作品にも影響を与えると強く感じています。

今年のミュージック部門のグランプリ作品の特徴や受賞の秘訣について
MV部門でグランプリを獲ったBeautiful Lifeは、見る人の感情を強烈に動かす作品です。受賞の背景には、この普遍的な影響力、そしてその作品が伝えようとしているSNSの危険性や、命の大切さがあります。この作品一つに2時間弱の時間をかけて話し合い、最終的にグランプリを与えました。ブランド作品としてグランプリを受賞したAppleのThe Greatestは多様性の表現、広告性の高さ、そしてそれを盛り上げる音楽の紐付けが他の作品に対して圧倒的でした。こちらは満場一致で一瞬でグランプリが決定しました。

受賞品:Beautiful Life
広告主:Michael Kiwanuk

松宮 聖也
TBWA\HAKUHODO DISCO ミュージックスーパーバイザー / Black Cat White Cat Music CEO

十代の頃カリフォルニアのインディーズシーンで音楽活動を開始。バークリー音楽大学を卒業後、ロサンゼルスでアーティストとして活動しつつ、2013年に現地で映像音楽プロデューサーとしてのキャリアをスタート。2018年東京でBlack Cat White Cat Musicを設立。

カンヌライオンズ公式サイト:Cannes Lions (lovethework.com)

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