-ネーションズリーグが終わったばかりというタイミングですが、まずは銅メダル、おめでとうございます。
石川祐希選手(以下、石川):ありがとうございます。
-日本男子バレーが強くなった要因はどこにあるのでしょう?
石川:選手層が厚くなったというのはひとつ。
さらに、海外経験を積む選手が増えていることも大きいと感じています。現在、僕と高橋藍選手はイタリア、宮浦健人選手はポーランドで、昨年は西田有志選手と関田誠大選手がそれぞれイタリアとポーランドでプレーしてきました。やはりイタリアやポーランドのリーグはレベルが高いですし、名だたるメダリストのなかでプレーすることでスキルも磨かれる。海外で一人で生き残っていかなければいけないというシビアな環境も、精神的な強さにつながっていると感じます。
-海外経験を積んだ選手がチームのなかでうまく機能し、結果につながったということですね。
石川:日本はチーム力が長けている一方、海外の選手と比べると個の強さが足りないことが課題のひとつでした。バレーボールはチーム競技でありながら、プレーひとつひとつは個人のスキル。一人で流れを変えることができる選手が増えてきたことが、勝ちにつながっているのではないでしょうか。
-以前「実力を持っているのに本番で発揮できないのは、実力を持ってないのと同じことだ」というお話をされていましたが、石川選手が実力を出すために心がけていることは?
石川:当たり前のことですが、練習でやっていることしか、試合では発揮できない。流れがよくてたまたま成功した、ということも稀にありますが、基本的には日頃の練習の質を上げることしか方法はないと思っています。でも同時に、試合と練習はまったく別のもの。試合をたくさんこなして感覚を身につけることも必要です。これまではファイナル4、セミファイナルに進む経験がありませんでしたが、今回のネーションズリーグで戦い方を学ぶことができましたし、そういう経験をたくさん積むしかない。そのためには、やはり「勝つしかない」ということを改めて感じています。
-博報堂DYメディアパートナーズでは2008年から「アスリートイメージ評価調査」という調査を行っていて、今回新たにSDGsとスポーツアスリートの関係性について分析しました。SDGs17の目標のうち、スポーツアスリートに期待する項目としてトップにあがったのが「ジェンダーの平等」。バレーボールはこの目標に近いと感じていますが、いかがでしょうか?
石川:男女の間に差はないと思いますし、平等だと感じます。今回のネーションズリーグでは、ファイナルラウンドでチームのなかに一人違うデザインのユニフォームを着用していた選手がいたと思うのですが、それは「イコール・ジャージ」と呼ばれるジェンダー平等を訴えるキャンペーンなんです。同じ背番号の男女の選手が、二人の名前が入ったユニフォームを着用する。バレーボール業界全体でそういった発信も行っています。
-2023年3月のアスリートイメージ評価調査で、石川選手は「社会貢献に関心を持っているアスリート」に4位でランクインしています。コロナ禍でもさまざまな取り組みをされていましたよね。
石川:新型コロナのパンデミックで子どもたちも学校に行けずに家で過ごすことが多くなっていましたよね。僕に何かできることはないかな、と考えたとき、この期間に日頃お世話になっている人に感謝の言葉を伝える機会がつくれたらいいなと思ったんです。高校時代チームのスローガンだった「感謝の気持ちを忘れずに」という言葉を大切にしているので、それをコンセプトに子どもたちから声を募りました。
-「アスリートファースト」という言葉を「アスリートがファースト」と表現して、自ら率先して行動する大切さを発信していたのも印象的でした。
石川:「僕たちが今、できること。」という感染予防のポスターをつくったり、「感謝の気持ちを忘れずに」のキャンペーンを企画したり。いま自分ができることを考えて行動することの大切さを子どもたちにも伝えたいなと思っていました。感染対策をしっかりしながら、楽しくバレーをやってほしいという思いが強かったですね。
-石川さん個人のイメージを表したデータを見てみると、「さわやかな」「誠実な」「かっこいい」といったキーワードが突出していますね。ご自身として、今後ここが伸びていったらいいな、という項目はありますか?
石川:存在感があるとか、国際性があるとか。リーダーシップがあるというのも伸びるといいですね。
-日本代表のキャプテンとして、今後どのようにリーダーシップを発揮していきたいとお考えですか?
石川:いまのチームメイトとは、バレーボールをやるときはしっかりやる。でもコートの外では友だちのようにフランクに話し合える。そんなメリハリのあるいい関係が築けていると思います。チームをコントロールできなくなっては元も子もありませんが、大事なところさえ押さえておけば、上下関係が必要な時代ではないんですよね。いまの若い世代にもフィットするやり方でチームメイクができていると思います。
-チームメイトから相談を受けることもありますか?
石川:基本的には、困っていてもなるべく僕から手を差し伸べることはしないようにしているんです。海外でプレーすることにも通じますが、自分一人で挑むことの大切さもあると考えているので。
-個が強くなるということと、チームとして調和することがうまく循環しているイメージでしょうか。
石川:やはりそれぞれが持っている最大限の力を発揮しなければ、チームとして勝つこともできない。周りに頼らず自力で解決することで、みんなが自分のことに集中できるし、それがチーム全体の力を発揮することにつながると考えています。もちろんチームで協力することは怠りませんが、協調性っていい面もあるし、そうでない側面もあるんですよね。日本代表チームはその両方を理解して、いいバランスが取れていると感じています。
-その結果が今回の銅メダルにも表れているわけですね。
石川:そうですね、いまのチーム、少なくとも自分には合っているやり方だと思っています。でも正直もっと強い海外チームはいるわけで、なにが正解かはわからない。ただ、僕らのチームの“らしさ”をつくりながら、徐々にステップアップできている実感はあります。
-石川選手が今後取り組んでいきたいことは?
石川:育成には興味があるので、バレーボール教室など子どもたちに関わる取り組みは積極的にやっていきたいですね。僕はイタリアでプレーしているので、グローバルで活躍することの価値を伝えたいという気持ちもあります。バレーボールだけでなく、日常の生活でも自分の知らない世界を経験することはずごく重要。簡単なことではないけれど、そのぶん成長できるし、新しい感覚を得るきっかけになると思うんです。言葉も食べ物も、コミュニケーションの取り方も違う人のなかで暮らすわけですから。僕自身、イタリア人だけでなく他の国の選手とも交流するなかで、ああ、こういう考え方をするんだなという発見がたくさんある。人として大きくなれると言うか、何でも受け入れられる度量は間違いなく身についたと思いますし、いろいろある考え方のなかで自分にフィットするものをチョイスしながら取り込んでいる最中です。やっぱり、知っているのと知らないのとでは全然違う。考えの共有というのは非常に大きいと思います。
-石川選手自身も、海外で多様な価値観に触れることを力にされているということですね。最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。
石川:まずは、本当にいつも応援ありがとうございます。
僕はプロのバレーボール選手として常に世界一になることを目標にプレーしているので、それを達成するために変わらず突き進んでいきたいと思いますし、いまいい流れができていると思います。競技以外でも、今後SDGsの取り組みや子どもたちの育成について活動していきたいと思っていますので、そういった姿も見ていただけたらうれしいです。
◆主な戦績
2023 年 FIVB バレーボールネーションズリーグ 3 位
22/23 シーズン イタリアリーグセリエ A プレーオフ 4 位
22/23 シーズン イタリアリーグセリエ A レギュラーシーズン 8 位
2022 年 世界選手権 ベスト 16
2022 年 FIVB バレーボールネーションズリーグ 5 位
21/22 シーズン イタリアリーグセリエ A レギュラーシーズン 5 位