こんにちは。ヒット習慣メーカーズの江です。
秋分の日を迎え、厳しい残暑も次第に和らぎ、そろそろ夏から秋へ季節が変わっていく頃です。「そろそろ、秋っぽいお部屋にしたいな」と模様替えを考えている方もいるでしょうか。さわやかな夏のインテリアから、あたたかみのある秋のインテリアへと模様替えするなら、家にいる時間が長くなってくる秋だからこそ、居心地のいい空間をつくりたいですよね。
そんな住生活と関係のある今回のテーマは、中国における「ポップアップ型リノベーション」、略して「ポップアップ型リノベ」です。
「ポップアップ型リノベ」とは文字通り、ポップアップストアを出店するような感覚で、短期間かつテーマ性をもって自宅のリノベーションを行うという新たなトレンドのこと。中国において特に20、30代を中心に広がっているようです。具体的にどんなことが行われているのでしょうか。
まずは「光の演出」の台頭です。
リノベーションといえば、大掛かりな工事を行うというイメージをされる方が多いかもしれませんが、照明、光の演出を施すだけでも空間のイメージはかなり変わってきます。「ムードライト(中国語で“氛围灯”)」という検索ワードをBaidu指数で調べてみると、ここ数年にわかに人気を集めていることが見て取れます。
「ムードライト(中国語で“氛围灯”)」に関する検索数の推移
部屋の中央にシーリングライトという時代は、中国の20、30代にとって、ほぼ終わりを遂げています。ムードライトのような間接照明はその日の気分や設置場所に合わせて明るさや色を調整できるモデルも多く、光の模様替えが手軽にできるのがメリット。空間に立体感を生み出すことでコンパクトな部屋でも圧迫感を軽減することもできますし、やわらかい光の間接照明を使うと精神的に落ち着き、リラックスしやすくなります。また、近年は、おうちでプロジェクションマッピングという新しい光の演出によって、バーチャルワールドを映像として感じることができる技術が活用されることもあります。寝る前のリラックスタイムに癒しの画像を壁や天井に映し出すことも可能です。子どもだけでなく大人も夢中になれる遊び方はアイディア次第で無限にありそうです。
続いて、「おうちミュージアム」化。
ミュージアムは、歴史や芸術、科学技術、自然などに関する資料を収集・保管、研究、展示する場所で、そこでしか鑑賞できない資料・作品もあれば、テーマごとに企画された特別展として巡回するものもあります。通常であれば、特定のミュージアムまで出かけなければ目にすることができないですが、「おうちミュージアム」は、おうちの中で、アートなアイテムまたはマイ・コレクションを生活に取り入れながら、日常そのものをミュージアムにいるような空間に変えています。例えば、旅好きな人が旅先ごとに、手に入れたポストカードを写真立てに入れて飾ったり、これまでは出番がなくしまっていた民芸品をテーブルや棚に並べたり、期間限定で自分だけの企画展を開くのも楽しいですね。
そしてほかには、「機能的な間取りの再定義」があげられます。
住宅の間取りは時代ごとのライフスタイルにより変化するものです。新しい世代の感覚からすると、昔ながらの間取りを見直しながら、リビング、寝室、書斎やキッチンなどの役割を再定義する動きもあるようです。例えば、中国式のリビングはこれまで日本と比べると広いだけで空間を活かしきれていないところがありましたが、最近、リモートワーク対応のため収納可能な簡易防音ブースが昼間限定で出現したり、テント以外に折りたたみテーブルやチェアなどを配置しておうちキャンプに変身したり、ゲーマーの場合、リビングの一角にゲーミングな雰囲気あふれるコーナーを作ったりすることが増えてきています。
では、なぜこのような「ポップアップ型リノベ」は広がりつつあるのでしょうか。
1つは、最も身近なところである自宅から、生活に変化をつけたいという心理が働いているのではないかと考えます。心理学の一説では、人は変化のない毎日が続くと、エネルギーが低下し、何に対してもやる気を出すことができなくなってしまうと言われています。そのため、自ら環境を変えることが難しい職場や学校より、毎日の気分や自分のやりたいことに合わせてわりと自由にリノベーションでき、かつ変化を楽しむことができるのが自宅しかないかもしれません。
そしてほかには、中国におけるライフスタイルの変化の影響も大きいかもしれません。一人暮らしの人が増えてきているほか、特に大都市での不動産価格の高騰にともない、賃貸か購入を問わず、コンパクトな部屋を進んで選ぶ若者も多いことから、限られたスペースながらも、自宅に多種多様な機能を求めた結果、常設よりフレキシブルなポップアップ型が好まれるというふうに捉えられます。
最後に、「ポップアップ型リノベ」にどのような可能性があるか、新たなビジネスチャンスを具体的に考えてみました。
朝晩が涼しくなり、秋が深まってくると読書や料理など家でゆっくり過ごす時間も増える中、私も秋の雰囲気を盛り上げてくれるポップアップ型リノベのテーマを考えていきたいです。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
2017 年博報堂に中途入社。
近いようで遠い中国のヒット習慣から仕事のヒントを探す日々。
中国で一番辛いと言われる故郷の湖南料理をこよなく愛する、生粋の「辛党」。