-博報堂DYグループでは2008年から「アスリートイメージ評価調査」というオリジナル調査を行っていて、今年8月にSDGs視点での調査リリースを出させていただきました。
髙梨さんは以前から社会貢献活動をされてますが、今日はその活動について伺いたいと思います。調査結果では、SDGs目標のなかでも「気候変動に具体的な対策を」の情報接触度が高いという結果が出ています。髙梨さんは「JUMP for The Earth PROJECT」という、雪山の自然環境を守るプロジェクトを立ち上げてますね。
髙梨:はい。私がやっている競技はアウトドアスポーツなので、雪がないとできないというのが大前提。そのなかで、年々雪が減っているのを実感します。大会が中止になってしまったり、その時だけ人工の雪で対応したり。選手にとっても切実な問題なので、環境問題について勉強しはじめたのがきっかけでした。この活動は参加者のみなさんといっしょに自然にふれて、そのよさを感じていただいたうえで、自然をどう守っていくか考え、行動してもらうきっかけになれたらと思ってスタートしています。今年の6月に蔵王でのトレッキングイベントを開催して、100組ほどの親子にご参加いただきました。
-蔵王からスタートされたのはなぜでしょう?
髙梨:蔵王は毎年訪れる場所ですし、私自身はじめて国際試合で優勝したジャンプ台なので、思い入れのある場所というのも大きいですね。みんなでトレッキングをしながらゴミを拾って、最後に郷土料理の芋煮を食べて交流しました。
-「ランドセルは海を越えて」という活動にも参加されていますよね?
髙梨:日本で使われなくなったランドセルをアフガニスタンの子どもたちに届けるという、クラレが2004年に立ち上げたプロジェクト。わたしもクラレの社員になってから参加しています。ランドセルは小学校の6年間しか使わないし、なかには6年も使わなかったりしますよね。すごくきれいな状態のランドセルがたくさんある。学校に行くのもままならない子どもたちもたくさんいるなかで、それってすごく恵まれたことですよね。ランドセルって「学校に行こう!」という気持ちにさせてくれるものだし、実際に送ったランドセルがアフガニスタンで使われているという報告をきくと、次に使ってくれる子がいてよかったねって。とてもやりがいを感じています。
-そのほかにも、課題意識を持って取り組まれていることはありますか?
髙梨:海外で過ごす機会が多いこともあるのか、スーパーでもフェアトレードマークを見かけることが多いんです。
これってなんのマークだろうと思ったのがきっかけで、いろいろ調べはじめました。コーヒーやコットンといった身近なものでも、生産の現場では多くの人が劣悪な環境で働いていたり、本当なら教育を受けるべき年齢の子どもたちが労働していたりするんですよね。
そういう背景に目を向けて、きちんと正当な対価を支払うことで、よりよい暮らしを送ってほしい。フェアトレード製品を選ぶことで生産者さんに感謝を伝えたいと思って、普及活動に参加しています。フェアトレードの製品は少し割高かもしれないけど、それを買うことで誰かを助けられるならうれしいですし、わたしが発信することで少しでも気づきのきっかけになれたらと思っています。
-フェアトレードや環境問題については、海外では意識が高いと感じますか?
髙梨:小さい頃から教育を受けているので、当たり前のように自然にやさしい行動や選択ができるというのは感じますね。日本でも子どもの頃から学べる環境を整えていけるのが理想だと思います。
-それぞれの活動の背景には、次世代を担う子どもの未来が関わっていますね。髙梨さんが幼少期を過ごしたのは北海道の上川町ということですが、どんなところですか?
髙梨:雪深くて山に囲まれているので、スノースポーツをやっている子が多いですね。私も父親と兄の影響でスキージャンプをはじめました。
-最後に髙梨さんがいま関心のあること、そして読者の方へのメッセージをお聞かせください。
髙梨:自分がスキージャンプをやっていることもあり、スキー場の稼働エネルギーを自然のものにできないかということに関心があります。地熱を活用できないかとか、駅からジャンプ台に行くまでのシャトルバスをバイオ燃料に変えられないかとか。今後も可能性を模索していきたいですね。
私の場合小さいときから自然が近くにあったので、それを守っていきたいという気持ちが芽生えましたが、まずは自然に触れて、この自然を守っていきたいと純粋に思えるかがいちばん大事だと思うんです。気持ちが伴ってないと行動って続かないと思うので。小さいから勉強することもそうだし、自然に触れる機会のなかでなにを感じるかが重要。50年後、100年後の次世代に本当に残していきたいと思えるかどうか、一人ひとりが向き合えたらいいなと思います。
Q:改めて、スキージャンプのどんなところが魅力だと思いますか?
A:2本のスキー板だけで100m近く飛べるところですかね。浮いている時間が長いので、ほんとうに空を飛んでいるような感覚です。
Q:スキージャンプは、たとえば風向きや吹雪といった天候にも左右される競技ですが、よくない結果に導かれたとき、どのように気持ちを切り替えますか?
A:そのときの状況をありのままに受け入れるしかないですよね。気分転換をしてもどうにもならない。そのとき吹いた風やおとずれた状況は、自分にとって必要なものだったんだなと思うようにしています。
Q:スキー以外に好きなことはありますか?
A:写真を撮るのが好きです。遠征先でも風景の写真をよく撮ります。
Q:いまはスロベニアにお住まいですが、お気に入りの場所などありますか?
A:とにかく自然がいっぱい。住んでいるところから少し歩くと湖や公園があるので、その辺りを散歩するのが好きです。
小学2年生からジャンプを始め、2011年2月のコンチネンタルカップにて国際スキー連盟公認国際ジャンプ大会での女子選手史上最年少優勝を果たす。その後、FISワールドカップにおける4度の総合優勝などを経て、18年平昌冬季五輪では銅メダルを獲得。FISワールドカップでは男女を通じて歴代最多の63勝、また男女歴代最多115回目の表彰台に立つ偉業を成し遂げた。