「カロリーメイト」が部活に打ち込む学生を応援するキャンペーンの2022年版。コロナ禍で入学し、3年生を迎えた部活生へのインタビューをもとにWeb動画を制作。高校生たちの練習風景の映像に、ラッパーの神門(goudo)によるポエトリーリーディングが重なる。
―今回のWeb Movieでは企画とコピーを担当されていますが、荻原さんはもともとコピーライター出身ですか?
僕は2016年入社なのですが、はじめはアクティベーション企画局に配属されてWebやイベントまわりのクリエイティブを担当していました。アクティベーションプラナーとコピーライターを兼ねるようになったのには2つの転機があって、ひとつは2017年度の朝日広告賞で準グランプリをもらったこと。社内の人にも褒めてもらえたし、シンプルにコピーを書くっておもしろいなって。同じくらいの時期にカロリーメイトの施策で、インターハイ30競技分すべてのポスターをつくるという企画があったんです。そのとき先輩といっしょにコピーをたくさん書いて、担当営業さんに「荻原はコピーを書いた方がいいんじゃない?」と言ってもらえて。それがうれしくて、アクティベーション職なのに、打ち合わせにコピーを書いて行って「これも見てもらっていいですか」というアイデア出しを続けていました。そうしているうちにTCCの新人賞をとることができ、コピーライターとして仕事に呼んでもらえるようになったという経緯です。
―インターハイ30競技分のポスターというのは、今回の「入学から、この世界だった僕たちへ。」と同じ部活シリーズでしょうか?
はい、部活シリーズの1回目ですね。その前年から施策自体はスタートしていたんですが、そのときは「カロリーメイトの箱にメッセージを書いて大切な人に渡す」というキャンペーン。でも、カロリーメイトってどういう商品なのか、改めて突き詰めてみると、本気になっているとき、本当に頑張っているときに食べる商品だということに行き着いたんです。栄養を摂るために製薬会社が真剣につくっている商品だから、本気で頑張っている学生たちを応援する資格がある。だからこそ、冬は受験をテーマに応援しているんですよね。僕らは夏の施策だったので、夏に学生が本気になるものとして部活をテーマに掲げました。2018年から毎年行なっているシリーズです。
―コロナという社会課題に直面し、今回の企画にいたった経緯について教えてください。
2020年の施策を考えて、1度目のプレゼンを行ったくらいのタイミングでパンデミックがはじまってしまいました。このまま広告が出せないかもという空気のなかで、もちろん広告を打たないという選択肢もあったんです。でも、頑張る学生を応援するカロリーメイトが本当になにもしなくていいのか、それは違うとなって、部活生のリアルを応援するためにベストな手法はなにかを考えました。きっとそのタイミングで、大人が言う言葉は何も届かない。それなら、本人たちの言葉だけをつないだムービーをつくろうということに。そこで企画したのが、部活生が自主練している姿と、20〜30人にインタビューした言葉をつないだムービーです。全国にいる同じ境遇の高校生たちに届けることで、私たちは一人じゃないと思えるはすだし、ポジティブにがんばろうと思えるものになるんじゃないかと。それがコロナ1年目の2020年。僕がTCCの新人賞をとった仕事です。
翌年の2021年は、延期となっていた東京五輪も開催が決まって、インターハイや甲子園も再開。ようやく2年ぶりの夏が来るという、部活生のオープニングムービーをつくりました。
そして、3年目がこの「入学から、この世界だった僕たちへ。」。コロナの影響は少なくなっているけど完全になくなったわけではなくて、マスクもしているし、教室の机にはパーテーションがある。まさしくコロナと共存しようというタイミングで、何を伝えるべきかすごく悩んだのですが、今年の3年生は1年生の時からコロナ禍だったということに気がつきました。それはこれまでにない存在だし、彼らの本当の気持ちを知りたくて話を聞きに行ったんです。そうすると、みんな「まあしょうがないっす」って言うんですよね。もっとやりたいことあったんじゃない?と聞いても「これしか知らないからわかんないです」って。でも深く聞いていくと、それでもやっぱり仕方なくないというのが見えてくる。「仕方ないけど、仕方なくない」このせめぎ合いがすごくあるんです。だからこそ、彼らのマスクの内側の本音をちゃんと描きたいと思って企画したのが2022年の「入学から、この世界だった僕たちへ。」でした。
―ポエトリーリーディングという手法を取り入れた理由を教えてください。
ポエトリーリーディングは“本当のこと”を歌う音楽だと思っていて。本当の心の中にある思いを表現するのにいちばん適していると思いました。学生さんの話を聞いて、この感情は一言で言い表せるものじゃないと感じたんです。「仕方ないです」の先に、すごく複雑な思いがある。だからこそ、あれだけの文字量が必要でした。
―ラッパーの神門さんにはどうやって歌詞を書いてもらったのですか?
学生にインタビューした内容をすべて文字に起こして、重要なところに下線を引いて、ぼくたちで描いた歌詞も渡して、彼らの発言から歌詞を書いてもらっています。彼らが語っていないことは書かない。それは大事にしたことですね。この企画では毎年学生にインタビューをして生の声をもとにクリエイティブを行っているので、今回も同じようにインタビューを行いました。それは1回目のインターハイ30競技のときからずっと。やっぱり想像で書いても意味がないんですよ。それを毎年体感しちゃうと、こちらの考えだけで書くことはできないです。
―ローンチした後の反響はいかがでしたか?
今回はコロナという背景がありましたし、「僕もそうです」「うちの子もそうです」という反響は多かったように感じます。時代の社会課題が掛け合わされていると、それに対して発話しやすくなるので、社会課題にアプローチするのはリアクションをつくる意味でも有効なのかもしれません。ブランドとしてはどうしてもポジティブなことだけに触れたくなりがちですが、その周辺にあるネガティブなことも救ってあげることが重要。そのとき意識しているのは、何かを傷つけていないか、取りこぼしたものはないかということです。いまの時代の強い言葉は「誰も傷つけずに伝わる言葉」だと思っているので。
―誰も傷つけない言葉は、ともすると誰にも響かない言葉になってしまうのではないでしょうか?
社会をナナメに見てちょっとおもしろい視点を提示するものって話題になると思うんですが、僕がめざしたいのは、新しい視点があるやさしい言葉。誰も傷つけないけど、でも新しい気づきがある表現が、これからの時代に合った強い言葉だと思っています。誰かを救ってあげられるような、まっすぐな目線でものづくりをしていきたい。
―そのために大切にしていきたいことは?
やっぱり、いろんな人の視点を吸収するというのがいちばん大事だと思っています。それは漫画を読むでも小説を読むでもいいんですけど。ある芸人さんが「多様性を大切にしている」と言う人は実は大切にしてなくて、「多様性って難しいよね」と言ってる人が多様性を重んじている』と言っていたのにすごく共感して。そういう視点って大事だと思うんですよね。いろんな人の状況や視点を知らないと、本当の意味でやさしくなれないし、そういう意味でも高校生にインタビューできるのはすごくいい時間。僕がコピーを書きはじめたインターハイの仕事もインタビューが原点だし、コピーを書くうえで嘘をつかないというのは一番大切にしていることです。自分が思っていることではなく、本当のことを聞き出すことが僕の仕事の基本。人から話を聞いて、そこから「真ん中」を見つけることができるのが強みだと思うので、僕は書くというより見つけているに近いのかもしれません。これからも、その視点を大切に向き合っていきたいですね。
2016年博報堂入社。やさしいまなざしで、売るを超えた愛される広告づくりを目指しています。