松村:今日は博報堂キャリジョ研(以下キャリジョ研)の、新旧さまざまなメンバーが集まっているので、これまでの歩みやこれからのこと、いろいろお話しできたらと思っています。この秋「博報堂キャリジョ研プラス」にアップデートするにあたって、まずは発足当初の話を聞かせてもらえますか?
瀧川:私が設立メンバーのひとり。キャリジョ研がスタートしたのは2013年なんですが、当時は女性社員もいまほどは多くなかった気がします。女性ターゲットの商材ってすごくたくさんあるのに、女性がみんなバラバラで仕事をしているのがもったいないなと思ったし、女性のインサイトやトレンドをみんなで共有できたらいいのにと思ったんです。はじめは「女子研」みたいな名前をつけていたのですが、それだとくくりが大きすぎるから、働く女性を対象にしようという話に。幅広い世代を入れた方がいいということで下の代を誘って徐々にメンバーを増やしていきました。
白根:はじめは10人くらいからのスタートでしたよね。
瀧川:そうだったね。みんな手探りのままスタートしたけど、最初の転機になったのがクラスター調査。働く女性を7つのクラスターに分けて分析をしたのが2014年でした。
白根:あと世代論ですよね。SNSでいろいろな人に話をきいて基礎をつくって、「ステップアップ世代」「ピックアップ世代」「アップデート世代」の3世代分からつくりはじめました。
瀧川:そうしたら信川が入社してきて、まったく違う世代が現れた!と(笑)。ドローン型と定義して、新たな「バックキャスト世代」を追加したんだよね。
白根:世代論を分析することで、他の世代のことを知れるだけじゃなく、自分自身の解像度も上がった感覚があります。いまも続けていて、6世代まで増えてるんですよね。
松村:私が所属する以前には、ドラマに関わったこともあるとか?
瀧川:それは、2018年に『働く女の腹の底』という本を出したのがきっかけ。世代ごと、クラスターごとの分析をもとに、このクラスターの人はこういう生活をするというストーリーを描いて一冊の本にまとめました。情報番組や新聞に取りあげていただいたなかで、TBSの逃げ恥のプロデューサーさんの目に止まって、『私の家政夫ナギサさん』というドラマに協力させてもらったんです。キャリジョ研の活動のなかでも印象的なできごとでした。
【TBSスパークル那須田淳氏・岩崎愛奈氏×博報堂キャリジョ研】明日もがんばろう!と思えるドラマ『逃げ恥』『わたナギ』はどんな生き方も否定しない
松村:クライアントワークではどのような活動をしていたのですか?
白根:競合プレゼンなど実際の業務でも知見を活かす機会をいただいています。クラスター調査も世代論も生活者の声をしっかり聞くことをベースにやってきたので、キャリジョの強みってリアルな声を活かせることにあると思うんです。女性向けキャリアスクールの『SHE』とワークショップを行なって、その場でインサイトを引き出してアイデアに昇華していったり。そういったスタイルを得意先とのワークにも応用していますし、「声を聞く」というのは常に活動のコアにありますね。
松村:生活者の声やナレッジをクライアントワークに活かすというだけでなく、私が加入した2020年くらいには女性の健康やキャリアデザインなど社会課題に向き合う活動が盛んだったように思います。いつくらいからそういった傾向が生まれたのでしょうか?
瀧川:もともとはマーケティング視点で女性の代弁をするような役割がメインだったんですよね。でも時代が変わって、MeToo運動が話題になったくらいから、社会的なスタンスが必要になった。メンバーにも課題意識が強くなって、そのあたりが転機でしたね。
白根:社会課題というほど大きな話でなくても、一人ひとりが持っている悩みをみんなで解決していいよね、という機運は生まれていた気がします。その流れで、ジェンダーギャップだけでなく、女性の健康課題、キャリアデザインという活動の軸ができていきました。
松村:私が入ったときもマーケティングだけでない活動ができることに魅力を感じましたが、矢田さん前田さんが入ったときはどうでしたか?
矢田:キャリジョ研の方って、どんな人の話もすごく真剣に聞いてくれる印象がありました。学生さんなどとの会話のなかでも必ず「勉強になりました」という発言があるし、マーケティングに詳しくない私の話もひとつの視点としてきちんと取り入れてくれる。
前田:社会人として「これは言わない方がいいかな」と思うようなことも、キャリジョ研のなかでは自由に話せるムードがあるし、それを話せる場があるということに助けられました。こういうモヤモヤをもってもいいんだという自己肯定感につながっていると思います。それがちゃんと仕事にもつながっている。
白根:前田くんが男性第一号なんだよね。
前田:はい。トレーナーの方から、僕が社会課題に取り組みたといったらキャリジョ研に入ることを勧められたんです。
白根:実際入ってみてどうですか?
前田:発足当初のマーケティング中心の活動だったらたぶん僕は入れなかったんじゃないかな。でもいまの社会課題に取り組むには、男性がいる意義がある。その環境のなかで自分の役割を見つけられたのが大きかったと思います。男女、それだけにくくられない性があり、そこに社会的なバイアスがあるわけですよね。それが仕事上のバイアスにつながっている。女性は仕事と子育ての両立を求められますが、それを解決するには男性の協力が必要。でも男性は男性で、女性よりも稼がないといけないという呪縛があったりもする。
女性の問題を解決するためには男性の問題も解決する必要があるし、一丸となって取り組まなくてはいけない課題なんだと感じています。
松村:前田くんが取り組んでいるジェンダーギャップのプロジェクトは、まさにキャリジョ研がアップデートする象徴的な活動なので、改めてこの連載でクローズアップしたいと思っていますが、ここからは「博報堂キャリジョ研プラス」に込めた想いを話していけたらと思います。
白根:準備は2年くらい前からはじめていましたが、活動の根っこをどうするのか、なんという名前にするかの議論にすごく時間がかかって、やっとリリースできるタイミングを迎えました。「女性」という言葉を使うことが果たして正しいのか、正直もう使いたくないという気持ちもあったんです。でもこれまでやってきたキャリジョ研の名前をゼロにするのはどうなんだろうという迷いもあり、議論を重ねました。結果、キャリジョ研という言葉はひとつのアイコンとして残しながら「プラス」という言葉を加えることに。「プラス」には、女性だけでないジェンダーに取り組んでいく拡張性と、社外のコミュニティと連携していくという意味も込めています。「博報堂キャリジョ研プラス」という名前、みんなはどう感じました?
松村:すごく気に入ってます。私が入ったときから女性に限った話でなく、社会課題に取り組んできていたし、プラスのほうがしっくりくる感じ。
白根:松村さんと矢田さんは学生との取り組みもやってくれているもんね。
松村:大学のゼミに参加してジェンダーバイアスをテーマに研修を行っています。身の回りにあるバイアスをあげてもらって、それを解消するためのアイデアを出してもらったり。
矢田:先日男性の学生さんから、高校生のとき、女子は制服のリボンかネクタイかを選べたのに、男子はネクタイ一択だったことにモヤモヤを感じていたという話を聞いて。私はどうしても選択肢が少ないのは女性の方だと思ってしまっていたのですが、私自身がバイアスに引っ張られていたのだなと気付かされました。今後キャリジョ研プラスとして活動することで、誰も置き去りにしない組織になれるのかなと期待しています。
信川:「博報堂キャリジョ研プラス」は、キャリジョ研がアップデートしたことが一目でわかるネーミングなので、シンプルでいいですよね。今後は、マーケティグや社会課題といった大きい話ももちろんですが、自分にとっての身近な問題にもしっかり向き合っていきたい。育休とかキャリアデザインとか、ライフステージが変化しても変わらず働きたい女性へのアプローチは続けていきたいですね。
前田:新卒の子と話をしたとき「キャリジョ研って名前変えないんですか?」と聞かれたことがあって、その感覚があるのはいい変化だなと思ったんです。キャリジョって言葉に賛否はあると思いますが、働く女性にフォーカスするということ自体は間違っていない。そういう問題がなくなってからはじめてアプローチをやめるべきで、いまやめることは問題をなかったことにしているのと同じこと。プラスって女性のなかにある多様性の意味もあると思うんですよね。女性としてひとくくりにするのではなく、いろんな人がいることを忘れないようにしたい。各々の生き方、選択肢を尊重するという意味があるといいなと思っています。
白根:女性のなかにも多様性があるし、男性にもある。性別にとらわれない多様性があるということを大切にしたいし、ずっと前から私たちが言っているのは「キャリジョという言葉がなくなることがゴール」ということ。みんなが平等に自己実現できるようになるまで、声をあげる存在であり続けたいと思います。
博報堂キャリジョ研プラスでは、「ジェンダーギャップ」、「女性の健康課題」、「女性のキャリアデザイン」の3つを柱に活動してまいります。今後の連載では、それぞれのテーマについて最新のレポートをもとに深掘りしていきますので、ご期待ください。