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AI研究の第一人者が見据える生成AIの特性や課題
Preferred Networks 岡野原 大輔氏

2023.11.27
Chat GPT の登場をはじめ、日進月歩で進化を遂げる「生成AI」。
インターネットやスマートフォンが社会を変革したように、生成AIも過去に匹敵するパラダイムシフトを起こし 、広告やマーケティングにも大きな影響を与えると言われています。生成AIはビジネスをどのように変革し、新たな社会を切り拓いていくのか。

博報堂DYホールディングスは生成AIがもたらす変化の見立てを、「AI の変化」、「産業・経済の変化」、「人間・社会の変化」 の3つのテーマに分類。各専門分野に精通した有識者との対談を通して、生成AIの可能性や未来を探求していく連載企画をお送りします。

第1回は、「AIの変化」をテーマとして、AI研究の第一人者である株式会社Preferred Networks 共同創業者、代表取締役 最高研究責任者の岡野原 大輔氏に、 現段階における生成AIの特性や課題、今後見込まれるAIの進化について、博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・センター 室長代理の西村が話を伺いました。

岡野原 大輔氏
Preferred Networks 共同創業者、代表取締役 最高研究責任者
株式会社Preferred Computational Chemistry 代表取締役社長
株式会社Preferred Elements 代表取締役社長

西村 啓太
博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 室長代理
株式会社Data EX Platform 取締役COO

生成AIによる新しい事実の推論には人間の介在が必要

西村
Chat GPTなどの生成AIが登場して以来、さまざまな産業に大きなインパクトを与えています。博報堂DYグループとしても生成AIを活用していくのはもちろん、生成AIが世の中にどう浸透していくのか。懸念すべきリスクや論点は何かなど、さまざまな有識者の方々にお話を伺っていき、バブリックな視点で生成AIの可能性や未来を探っていければと考えております。
その企画の第1弾として、岡野原さんに色々とお話を聞いていければと思いますが、まずは現時点における生成AIの特性や課題について教えていただけますか。

岡野原
ここ数年を振り返ると、2018年ごろからテキストや画像など、いろいろな分野で同時多発的に生成AIの有用性が示されるようになりました。そして2020年以降には、これまでとは桁違いのパラメーターを持つGPT-3が登場し、さらには画像や音声の生成にも拡散モデルの応用が進んだことで、本物そっくりのコンテンツが生成できるだけでなく、データの背後にある概念をAIが理解していることがわかったのです。

このように、生成AIが急速な進化を遂げてきたなかで、機械学習を専門にしてきた研究者や有識者が一番驚いたのは、「すごく学習データが少ない問題に対して、回答を推論できる」ということでした。極端な例だとプロンプトで「〇〇をしてください」と指示を出すだけで、一度も明示的に学習をさせていないのにもかかわらず、問いが解けてしまう。テキストで指示ができたり、事前の準備をすることなくさまざまなタスクをこなせたりと、生成AIを活用するハードルが下がったのに加え、ChatGPTがチャット型のインターフェースを提供したことによって、全世界で1億人ものユーザーが生成AIを活用するまでに広がりました。

西村
一方で、生成AIの課題に「ハルシネーション(嘘回答)」が挙げられますし、現時点での技術的な限界もあるのではないでしょうか。

岡野原
ハルシネーションが起きる原因の一つは、「人の意見」が入ってしまうことです。「これは〇〇の意見です」とか「これが事実です」といった区別が生成AIには難しい場合があります。他方で生成AIの技術的な課題としては「記憶が混在してしまう」というのが挙げられます。特に固有名詞と一般名詞の違いは人間ほど区別できない。例えば、犬に関する一般的な話は混ぜていいものの、「自分の飼っている犬の特徴を、他の犬にまで成り立っていると考えるのは誤っている」ということまでは、今の生成AIの技術では扱えていないのが現状です。

ほかにも、GPT-4はカスタマイズを加えないと簡単な3桁の足し算ができなかったり、「AならばB、BならばCの場合、AならばCが成り立つ」といった、ちょっと込み入った推論の場合は、間違えた回答を出してしまうことも少なくありません。つまり、生成AIはアイデアを出したり、今ある情報を集約したりするのは得意ですが、何か新しい事実を推論して出す場合には、人間や他の仕組みによる精査が必ず必要になってきます。

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