小島 武仁氏
東京大学大学院経済学研究科 教授
東京大学マーケットデザインセンター センター長
秋本 義朗
博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ
ミライの事業室 第一事業開発グループ グループマネージャー
諸岡 孟
博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ
ミライの事業室 ビジネスデザインディレクター
秋本
ライドシェアなどもマーケットデザインの対象になりそうです。需要と供給のうまいバランスを成立させないと、市場が回っていかない分野ですよね。
小島
まさしくライドシェアなどの新しい市場では、需給バランスの設計がとても重要です。現在、コンピューターサイエンティストや経済学者、ライドシェア事業者などがそれぞれ予測モデルづくりに取り組んでいます。
ライドシェアサービスの基本的な仕組みは、車に乗りたい人がアプリでリクエストを発信して、それを見つけた運転手が乗りたい人のところに行ってピックアップするというものです。つまり、需要と供給の動きをセントラルで把握するのではなく、個々の現場でマッチングする仕組みです。
しかし、これには1つ問題があります。A地点でユーザーが乗車をリクエストし、C地点にいたドライバーがA地点に向かうとします。では、その道中のB地点で別のユーザーからのリクエストがあった場合はどうすればいいか。ドライバーはそれをスルーしてA地点に向かうべきか、B地点の客を拾うべきか迷うことになります。詳細が開示されているわけではないので正確なところはわからないのですが、この問題を解決するために、複数のユーザーからリクエストが集まるのを待って、複数地点のユーザーと複数運転手の最適なマッチングを行うというアルゴリズムがどうやら導入されているようです。しかし、そうするとユーザーを待たせる時間が発生することになります。その結果CX(Customer Experience:顧客体験)が下がって、ユーザーがサービスから離反していくリスクがあります。そうならないように、ゲーム理論などの方法論を駆使してCX向上の工夫をしていると聞いています。
秋本
なるほど。数理アルゴリズムだけではなく、CXの視点も重要になってくるわけですね。マーケットデザインには、生活者の感情や行動を理解することも求められるということだと思います。
小島
おっしゃるとおりです。人々の感情や行動はデータ化しにくいので、モデルから排除すべきであると考える研究者もいます。しかし経済学の本質的な役割は、多くの人々を幸福にする方法を考えることです。幸福には当然ながらさまざまな人間的要素が含まれます。したがって、経済学においても感情や行動といった人間的要素の理解は必須であるというのが僕の考えです。
諸岡
オフィスビルのエレベーター待ち問題なども、このライドシェアと類似の議論が出てきそうです。さまざまなシーンに出現する類の問題かもしれませんね。