瀬⼾内海に⾯する4県(岡⼭県、広島県、⾹川県、愛媛県)と⽇本財団が共同で進める海洋ごみ対策プロジェクト「瀬戸内オーシャンズX」の認知拡大キャンペーン。制作した絵本が教育機関を通じて子どもたちに配布されたほか、ごみ拾いイベントなどの活動にも「海をたすけるももたろう」のモチーフが活用された。
―手元に一冊の絵本がありますが、これはどういったオリエンから生まれたものなのでしょうか?
松井:今回のクライアントは日本財団さん。岡⼭県、広島県、⾹川県、愛媛県といっしょに、瀬戸内地域の海洋ごみ問題に取り組んでいる「瀬戸内オーシャンズX」というプロジェクトがあり、その活動の認知拡大、活動理解がお題でした。海洋ごみ問題って、知っているけれど遠い存在というか、なかなか自分ごとにならないんですよね。それをどうクリアするかが一番の課題だと思いました。
竹内:まずは海洋ごみがどういうものかを調べることからはじめたよね。そのなかで衝撃だったのが、瀬戸内海の海ごみのほとんどが街から生まれているごみ*であるということ。ポイ捨てされたごみやタバコの吸いがらなどが風で飛ばされて川に辿り着き、それが海に流れているというんです。さすがにいま、海に向かってポイ捨てする人っていないじゃないですか。でも海に捨てている意識なく、街から出たごみが海に流れている。それを伝えることが自分ごと化することにつながるんじゃないかと考えて、川から桃が流れてくる桃太郎の話が浮かんだんです。
松井:知ってはいるけど自分ごと化できていないこの問題を、インパクトをもって響くように伝えるにはどうすればいいか考えたとき、子どもから大人に疑問を投げかけるのが強いんじゃないかと思ったんです。僕はCMを中心に担当したのですが、早い段階から絵本の読み聞かせをしている動画のイメージができていて、そのアイデアと桃太郎のアイデアがピタッとはまった感じ。しかも、桃太郎伝説は岡山のものだし、鬼ヶ島って瀬戸内海の島がモデルになってるんですよね。
竹内:もともとグラフィックやCMだけで終わるキャンペーンじゃなくて、もっと立体的に生活のなかで機能していく施策にしたいという思いがあったので、絵本をつくれば子どもたちに読んでもらえてアクティベーションにもつながるよね、とうまくピースがつながっていきました。
川上:街から流れる海ごみを止めようというストーリーと、瀬戸内の人に身近な桃太郎というモチーフが真ん中にあったので、そこからどんどん施策が広がっていった感じです。
―実際絵本をつくるうえでこだわった点は?
竹内:子どもだけに向けたものではないので、大人にもいいと思ってもらえるテイストを大事にしました。たとえばごみが流れてくるシーンも、あまりポップな表現にするとシリアスさに欠けてしまうんですよね。ある程度の真面目さとかわいさの塩梅にはこだわりました。
ストーリーはかなりスムーズに決まったので、それだけ噛み合わせがよかったということだと思います。みんなが知っている桃が流れてくるシーンも、ごみが多くて桃に気づかない。結局鬼ヶ島まで辿り着いてしまって、桃太郎が鬼に育てられたり、知っている物語がちょっとずつズレて歪んでいくような感覚です。海ごみがどこからきているかわからないというのが普通の生活者の意識だと思いますが、遡ってみると自分たちが出した街のごみだったというストーリーをわかりやすく表現できる展開にしました。
川上:川を流れるのが桃じゃなくてごみ。退治するのが鬼じゃなくてごみというシンボルがわかりやすかったよね。
―ごみを出した人間を悪者として描くというより、ごみそのものを退治していたり、全体としてやさしい物語だと感じました。
竹内:直接的に誰が悪いという描き方はしないことも意識しました。読んだとき責められているような印象になると、こころに響かない気がしていて。読んだ人には桃太郎といっしょにごみ退治をしたいと思ってほしかったので、仲間になりたいと思えるストーリーを意識しました。
―実際、ごみ拾いの活動も展開されていましたよね?
川上:もともと日本財団の活動としてごみ拾いはされているので、その活動に「海をたすけるももたろう」のモチーフをのせて実施したかたちです。私たちもイベントに行ったんですが、子どもたちが桃太郎になりきって前のめりでごみ拾いをしている姿を見てすごくうれしかった。
竹内:イベントのさいしょに読み聞かせをしてから「さあみんなでごみ退治をしよう!」とスタートするので、その後のごみ拾いに対するやる気がすごかったですね。はっぴを着てハチマキをして、ごみ拾いのトングを刀のように持てるようにしたのもポイントです。
松井:ごみ退治のイベントもうれしい反響でしたし、瀬戸内地域の10人に1人が絵本やネットでこの「海をたすけるももたろう」を読んだという調査結果が出て、それにもすごく驚きました。
―みなさんにとって思い入れのある仕事になったと思いますが、さいごにソーシャルテーマに取り組んだことでの学びや、今後に活かしたいことがあれば教えてください。
松井:そうですね、今回は絵本からイベントまで統合的な施策にできたことが一番の収穫だと思います。僕は普段テレビCMの動画企画をメインで行っていますが、ソーシャルテーマの課題においてはやはり動画だけではダメ。生活のなかに入り込んで、自分ごと化するためには、今回の絵本のようなものが必要だったとあらためて感じています。絵本がいいのは、物語があって、さらに本という形で残ること。これを読んでもらえれば、多くの人、そして未来の人にも伝えることができるわけです。短期的な施策ではなく、自走するコンテンツにするということが大事。いかに暮らしのなかに入り込めるアイデアにするかということはとても勉強になりましたし、今後にも生かしていけると思います。CMプラナーだからこそ、「言ってるだけじゃダメなんだ」ということを肝に銘じたいと思いました。
竹内:やはり社会課題は広告を打って終わりじゃない。今後ずっと取り組んでいくものなので、長い時間触れるものをつくらなくてはいけません。そういう意味で、普遍的な課題にどう取り組むかを考えるいいきっかけになりました。この仕事をしたことで「残り続けるものをつくりたい」という思いが生まれて、10月からソーシャルクリエイティブ部という部署で事業開発の仕事をするように。自分としても向き合いたいテーマを見つけられたひとつの転機になったと思います。これからも、長い時間をかけて機能していくものに取り組んでいきたいです。
川上:わたしはいつも、ソーシャルテーマを扱うときは「ソーシャルグッドじゃなくてソーシャルポップ」というのを大事にしているんです。「いいことしている」じゃなく「楽しいね」って思ってほしい。今回はまさしくそういう仕事ができたと思います。
竹内:僕はこれからも瀬戸内地域での活動をつづけていくので、今後の活動にもぜひ注目していただきたいです!
1997年愛知県生まれ。2020年入社。
TVCM・WebCMなど動画領域のプランニングを担当。
お笑いをこよなく愛し、ついツッコんでしまいたくなる企画を意識しています。
主な受賞歴に、広告電通賞最高賞、SBCラジオCMグランプリ入選、Metro Ad Creative Award TikTok広告賞、芸能バカクイズ2021夏準優勝など。
1996年京都府生まれ。2020年入社。
広告のグラフィックデザインを主に担当している。
主な受賞歴に、第85回・第88回毎日広告デザイン賞「優秀賞」、第25回グラフィック「1_WALL」審査員奨励賞 、第76回広告電通賞金賞など。
1996年京都府生まれ。2020年入社。
長く愛されるアイデアづくりをモットーに、普段はマス広告制作からイベント設計やプロダクト開発まで幅広いフィールドでコピーライティングを担当。
Metro Ad Creative Award グランプリ/ACCヤングコンペ準グランプリ/ACCマーケティング・エフェクティブネス部門ブロンズ