博報堂DYホールディングスは生成AIがもたらす変化の見立てを、「AI の変化」、「産業・経済の変化」、「人間・社会の変化」の3つのテーマに分類。 各専門分野に精通した有識者との対談を通して、生成AIの可能性や未来を探求していく連載企画をお送りします。
第3回は、東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)センター長の小島 武仁氏をお呼びし、生成AIも含めた先進技術普及における社会的枠組みの整備・事業活用に多くの知見を持つクロサカ タツヤ氏とともに、博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・センター室長代理の西村が、生成AIがもたらす「産業・経済の変化」やそれに伴う生活者への影響などについて話を伺いました。
小島 武仁氏
東京大学大学院経済学研究科 教授
東京大学マーケットデザインセンター (UTMD) センター長
クロサカ タツヤ氏
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任准教授
株式会社 企(くわだて) 代表取締役
西村 啓太
博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 室長代理
株式会社Data EX Platform 取締役COO
西村
今回は小島先生に、生成AIが「マーケットデザイン」をはじめとした産業や経済にもたらす変化についてお聞きしていこうと思います。まずは、ご専門とされている研究領域について教えていただけますか。
小島
専門分野は人と人や人とモノ・サービスを適材適所に引き合わせる方法を考える「マッチング理論」と、それを応用して社会制度の設計や実装につなげる「マーケットデザイン」です。生成AIについてはある種ユーザーとして利用している立場ですが、生成AIは我々の研究でも色々な影響を受けていると感じています。
「マーケットデザイン」は直訳すると「市場の設計」という意味になり、経済学やその周辺領域の研究分野のひとつです。ここで言う「マーケット」は証券市場のようなものだけではなく、「世の中の人々がインタラクション(相互作用)をすることで、何かしら望むものを得ようとする活動」をすべて、広義な意味のマーケットと捉えています。
社会にはさまざまなマーケットが存在する中で、私は「マッチング」というキーワードをもとに研究を行っています。マッチングと聞くと、思い浮かべやすいのがマッチングアプリかもしれません。「婚活」は結婚を望む人たちのマッチングですが、実はそれ以外にも世の中にはさまざまなマッチングが存在していて、例えば「就活」は企業と学生、「入試」は学校と学生のマッチングと言えます。
共通しているのは、マッチングを上手く行うと幸せになるということですが、なかなか思い通りの結果が出ずに苦労することも少なくありません。そこで「より良いマッチングが生まれる仕組みづくり」を考えるのが、私の研究テーマです。
マッチングアプリなら、アプリのUIはどうすればいいのか、誰に何通メッセージを送れるようにすればいいのか。入試だったら何日までに願書を出して、何校まで併願できるのか、また試験の内容はどのような問題にするか。そういった制度設計を上手く行うことで、いかにマッチングの精度を高めていけるかを意識しながら、日々の研究にあたっています。
西村
個人で努力してマッチングできる幅には制限がある中で、仕組み側を整えることで、全体効率性が向上していくわけですね。
小島
例えば、マーケットデザインが課題解決につながった事例の一つが、ニューヨーク市の高校入試です。
優秀な学生に合格が集中してしまい、さらにその学生が締め切り期間を過ぎても入学か辞退かの意思決定をしないことで、他の学生に合格が出せないといった課題に対し、学生が提出した志望校リストをアルゴリズムで処理することによって、最終的に一人一校合格が出るような交通整理を行いマッチ率や満足度を大幅に向上させました。