
近年、「メタバース」というキーワードが世の中に広く浸透しました。メタバースとは、インターネット上に構築された3次元の仮想空間のこと。自分の分身であるアバターを介して自由に動き回りながら、他者との交流やさまざまな体験ができます。
そして、そんな空間や体験を創り出しているのが「XR技術」です。
デバイスやソフトウェアの進化だけでなく、5Gによる高速かつ大容量通信の実現によって、さまざまな領域への応用も急速に進んでいます。
博報堂DYグループが主催する“生活者データ・ドリブン”マーケティングセミナーでは、そんなXR技術のマーケティング領域への活用可能性について、セミナーを実施。今後、XRマーケティングはどのように生活者に新しい価値を創造していくのか。「メディア変革」と「顧客体験変革」の二つを軸に、事例を交えながら解説しました。第一部ではXRを取り巻く環境とマーケティングへの可能性について、第二部では新事業会社ARROVAの取り組みとメディア変革について、第三部では3Dアバターを使用した顧客体験の可能性についてご紹介します。
尾崎 徳行
株式会社博報堂
生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 局長代理
クリエイティブディレクター/HAKUHODO-XRリーダー
はじめに、私がリーダーを務める「HAKUHODO-XR」についてご紹介します。
「HAKUHODO-XR」は、博報堂DYグループ7社からなるXRを専門とした横断組織です。
研究開発領域から、ソリューション開発、プランニング、クリエイティブ制作、さらに実施運用まで、さまざまなニーズに合わせて最適なチームを編成しながらクライアントを支援しています。
詳しくは第二部・第三部でご紹介させていただきますが、アバターを活用したソリューションやXR空間内での広告配信など、さまざまな領域でサービスを展開しています。

ではここから本題に入らせていただきます。まずはXRの現在地についてです。
昨年大きなブームになった「メタバース」ですが、今や「AI」が話題をさらっていると言っても過言ではありません。
そのため、2023年5月に開催された世界最大のXRのカンファレンスAWE(Augmented World Expo)では、「メタバースは死んだ」「メタバース/XRの時代は終わった」「グラス型デバイスの時代はおとずれない!?」などの議論が巻き起こっていました。
本当に“メタバースは死んだ”のでしょうか?
これに対して私は、2022年の記事では100兆円市場などとも予測されていたことから、“過度な期待値が冷めた”と表現する方が正しいのではないかと思います。
実際、現時点の市場規模の推計は約5.7兆円と言われており、昨年は過去最高の伸びを記録、順調に推移している市場だからです。

その上で、XRの現在地を考える時に重要なのは、生活者への本質的な価値である「インターネットの“3D立体化”と“どこでも化”」の流れをいかに掴めるかだと考えています。
マーケティング領域では、オウンドメディアが3D立体化していくでしょうし、SNSもどんどん空間コミュニケーションの要素が強くなっていくでしょう。さらに、OOHなどのタッチポイントがどこでも化されれば、顧客体験そのものが3Dのインタラクティブな体験へ進化していくはずです。

一方で、今年「AI」はジェネレート機能を持ち、大きな進化を遂げました。
よく「XRはAIに取って代わられた」という文脈で話されることもありますが、私はそうは思いません。「XRは、AIで加速する」と認識した方が良いでしょう。
先ほど触れたXRのカンファレンスでも、「AIがXRの成長と進歩に貢献するだろう」「AIツールを活用することで、XRの開発プロセスを迅速化し、UI/UXを強化できる」という発言も見受けられました。
例えばXRコンテンツの開発では、コンテンツ制作にAIを導入することで制作フェーズに大きな変革をもたらすと考えています。
こちらは「携帯電話でニュースを読むミケランジェロ風の犬の像」というテキストから生成された3D画像です。圧倒的なスピードでこうしたオブジェクトを生成し創造性をサポートできれば、表現の幅は飛躍的に拡大していくはずです。
