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「”好き”を起点に、SNSでゆるくつながる」は本当か?(前編)
~「分散ピラミッド型」という新しいコミュニティ~

2024.01.31

若者は”自分の好き”を発信したい?

Z世代の特徴や価値観を検索してみると、「SNSを活用して自分の考えを発信することに慣れている」「オープンなコミュニケーションを好む」といった情報が目に入ります。
商品やサービスが若者の間で話題になり、「若者の間で話題の~」と多くのメディアで取り上げられているのを目にした経験が皆さんにもあるのではないでしょうか。

“話題”に関連していえば、「界隈」というワードを見かけることも多くなりました。「界隈」とは、共通の関心事や好きな世界観を持つ人で構成されるゆるいコミュニティを指します。若者の間では、界隈ごとに異なるものがブームとなっており、話題になるといってもその影響範囲は細分化されていっているようです。

もし、Z世代が情報発信に長けていてオープンなコミュニケーションを好むのであれば、界隈のようにコミュニティが細分化されていたとしても、話題が各コミュニティに伝播していくはず。しかし、実際はコミュニティごとに異なる話題で盛り上がっており、ブームが分散しています。なぜでしょうか?

本コラムでは、その問いを起点に若者へインタビューを行い、好きなもの・ことへの関わり方や情報の広がり方について、その実態と特徴について探ります。インタビューには、Z世代に同じデジタルネイティブであるα世代も加え、これからの若者についても考察していきます。

インタビューを進めていくと、意外にもα・Z世代は好きなものに関する双方向の発話に慎重だという一面が見えてきました。その要因を明らかにするため、まずはα・Z世代の「界隈」の構造から深堀りしていきます。

界隈は「ピラミッド型」ではなく「分散ピラミッド型」

はじめに、界隈の全体像を見てみましょう。
“好き”で繋がる「ファンコミュニティ」と聞くと、トップファンを頂点に裾野が広がっていく「ピラミッド型」を想像する方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、α・Z世代の「界隈」は、単一のピラミッド型とも少し異なる「分散ピラミッド型」の構造をしていることが、インタビューを通じて見えてきました。ここでいう分散ピラミッド型とは、同じ対象を好きな人のコミュニティの中に、小さなピラミッドが複数存在している様子を指します。

なぜ界隈はこのような分散ピラミッド型の構造になるのでしょうか。まず一つ目の理由として、そもそも界隈のへの入り口が多様になっていることが挙げられます。同じ対象にハマったとしても、非常に多くの楽しみ方がSNS上では発信されています。例えば、音楽フェスが好きな人の界隈には、ロックバンド好きだけではなく、フェスコーデ好き、野外ビール好き、キャンプ好き・・・等、色々な文脈から人が流入しています。

そして、分散ピラミッド型を生み出しているもう一つの理由は、各々が見ている情報にバラつきがあることです。地上波のマス向けの情報を得る機会が減った一方で、ネット上では各ユーザーに特化してレコメンドされた情報が目に入る機会が増えています。

みんなが一人のトップレジェンドの声に耳を傾けることは少なくなり、同じ界隈の中でも個々人が信頼する「マイクロレジェンド」が乱立するのが、界隈の特徴と言えます。

コミュニティでは自称「すみっこ」

α・Z世代は界隈の中で、自分のことをどのような存在だと認識しているのでしょうか。
インタビューで「自分はコミュニティのどんな位置にいると思うか」と質問すると、5人中4人が自分は界隈の中心ではなく「隅に近いところにいる」と答えました。

この「自称すみっこ」現象は、「自分で納得できるレベルの知識量がないと、好きなものを公言しにくい」という風潮と結びついているようです。インタビューでは、5人中3人が「好きなものを公言しにくい」と答えました。

スマホ慣れしたZ世代(と一部のα世代)は、知識が豊富な人の発信をインターネット上で常に見ているため、「自分の知識はまだまだ」と感じやすいことが想像されます。界隈の中心的存在になるには、単純な「好き度」だけではなく「情報量」が重要なようです。

沼度は深くても布教欲は弱い

自称「すみっこ」が多いα・Z世代ですが、好きなものに関する知識や情報が少ないわけではありません。近年はデジタル教育も進んでおり、ニッチな分野に対しても情報収集力が高い人も多い世代です。また、珍しい領域に詳しい一般人が出演するバラエティ番組が流行であるように、「知識を極めること=かっこいい」という価値観も浸透しつつあるようです。

このように沼を深めることが得意なα・Z世代ですが、自分の好きなものを他者に広めるということに関しては冷静です。インタビューでも、「好きなものを布教したい?」という質問に対しては、ほとんどの対象者が「そうは思わない」と答えました。

コロナ禍でクラスでの会話が減ってしまったり、YouTubeや動画配信サービスはα世代にも浸透したりと、みんなが同じタイミングで同じコンテンツに触れる機会は少なくなりました。「他人には他人の好きなものがある」という価値観も深まったのではないでしょうか。特にZ世代は炎上リスクにも 敏感であり、自分と違う界隈にいる人の意見はある程度受け入れつつも、積極的には触れない風潮もあるようです。

分散型の界隈にいるα・Z世代は、好きなものについての知識量にも謙虚なうえ、「人は人、自分は自分」という価値観を持っているがゆえに、双方向の発言も控えめなようです。

“発話”に消極的なα・Z世代。発話が生まれるパターンとは?

では、α・Z世代が“自分の好き”を発信するのはどのようなときなのでしょうか? 2つのパターンが見えてきました。

1つめは、リアルで繋がりのある親しい友人に対してのみ発話する“仲良し限定型”。クラスや部活で一緒に遊ぶ友人のなかでも、何でも話せる本当に親しい友人に限定して発話するパターンです。リアル接点での発話はもちろん、複数のSNSアカウントを使い分け、不特定多数が閲覧できるアカウントでは発話せず、本当に親しい友人だけが閲覧できるアカウントのみで発話していました。SNSの炎上リスクを理解しているα・Z世代だからこその発話パターンだと言えます。

但し、仲のいい友人だからといって、自分の好きなモノ・コトを無理に押し付けようとはせず、相手の“好き”に合わせて興味を持ちそうな切り口を考え、発話内容を調整しているようです。

2つめは、α・Z世代には珍しく、SNSでの発話意欲が旺盛な“インフルエンサー予備軍型”。「自分の好きなモノ・コトについて、みんなにも知ってほしい!」「みんなにもやってみてほしい!」といった気持ちが強く、SNSで発話することを楽しんでいるパターンです。“好き”に特化して運用しているアカウントも持っており、フォロワー数を増やすことにも積極的でした。特徴的だったのは、好きなモノ・コトを極めたから発話しているわけではないということ。ハマりはじめた段階でも、いいと思ったら積極的に発話し、むしろ好きを表明することで情報を引き寄せている様子が伺えました。また、人脈形成にも積極的で、様々なジャンルのインフルエンサー予備軍同士で繋がっており、自分の“好き”を発信し合っている様子も伺えました。

■後編につづく…
前編では「友だち限定型」「インフルエンサー予備軍型」の発話パターンがあることが見えてきました。後編では、界隈との関わり方で界隈に所属する人をタイプ分けし、コミュニティをまたいで広く話題化するためには、どのタイプから着火していくべきか、どのような話題なら発話してくれるかを明らかにします。

【調査概要】
小学生~大学生6名インタビュー(2024年11月実施、オンライン形式)

【執筆者プロフィール】

工藤真帆
博報堂 博報堂 ブランドトランスフォーメーションマーケティング局 マーケティングディレクター

女性向け・ファミリー向け商材を中心に、幅広いクライアントのブランド戦略・プロモーション戦略、IMCプラニングを担当。メディアプラナー、アクティベーションプラナーの経験も持つ。マヌルネコにハマり中。

太田誠也
博報堂 博報堂 ブランドトランスフォーメーションマーケティング局 マーケティングプラナー

総合印刷会社にて企画制作や事業開発を経験し、2023年に博報堂入社。日用品を中心に消費財のマーケティング戦略立案に従事。生活者の暮らしや心の機微に関心がある。趣味は映画鑑賞、街歩き。

小野万優子
博報堂 博報堂 ブランドトランスフォーメーションマーケティング局 マーケティングプラナー

2022年に博報堂入社後、自動車や消費財のマーケティング戦略業務を担当。日々さまざまな角度から生活者のくらしに向きあう。恐竜のグッズを集めるのが好き。

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