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人材不足の日本こそ発展の大きなチャンス―「ドメインスキル」と「感性」をもつ生成AI人材の育成を
【慶應義塾大学商学部 山本 勲教授】

2024.02.22
Chat GPT の登場をはじめ、日進月歩で進化を遂げる「生成AI」。
インターネットやスマートフォンが社会を変革したように、生成AIも過去に匹敵するパラダイムシフトを起こし 、広告やマーケティングにも大きな影響を与えると言われています。生成AIはビジネスをどのように変革し、新たな社会を切り拓いていくのか。

博報堂DYホールディングスは生成AIがもたらす変化の見立てを、「AI の変化」、「産業・経済の変化」、「人間・社会の変化」 の3つのテーマに分類。各専門分野に精通した有識者との対談を通して、生成AIの可能性や未来を探求していく連載企画をお送りします。

第5回は「労働」をテーマとして、労働経済学を専門とする慶應義塾大学商学部 教授の山本 勲氏に、 生成AIがもたらす労働への影響やウェルビーイング向上のために企業が取り組むべきことについて、株式会社 企(くわだて)代表取締役であり慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授も務めるクロサカ タツヤ氏と、博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・センター 室長代理の西村が話を伺いました。

山本 勲氏
慶應義塾大学商学部 教授

クロサカ タツヤ氏
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任准教授
株式会社 企(くわだて) 代表取締役

西村 啓太
博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 室長代理
株式会社Data EX Platform 取締役COO

生成AIのジレンマは若手人材の育成

西村
生成AIの発展は、大きな産業変革を起こすと言われています。生成AIがもたらしうる変革について、短期的なものと長期的なものそれぞれの見立てについて、まずはお伺いできればと思います。

山本
短期的には、企業ごとに生成AIをカスタマイズするなどあくまで限定的に使うところが多く、実用レベルには至っていないと考えています。また、中長期的に産業革命に匹敵するようなインパクトをもたらすかどうかは、技術の進展度合いによるところが大きいでしょう。個人的な見通しとしては、生成AIは産業革命を起こすような革新的なものではないと捉えています。というのも、現時点で生成AIにできることを見ていると、結局のところ従前のAIと同様に「インプットしたものをどうアウトプットするか」という本質に変わりがないからです。ビジネスシーンでの適用範囲を考えてみると、「みんなの仕事がなくなる」とか「ドラスティックに仕事の仕方が変わる」というようなことはイメージしづらいと思っています。

西村
生成AIの影響が大きそうな特定の領域はありますでしょうか。

山本
例えば文章を扱う仕事に従事している人にとっては大きな影響を及ぼすでしょう。また、生成AIはいわゆるアシスタントの仕事が得意だと思うんですよね。これまで若手社員やアシスタントが担っていた、下調べで資料を作ったり、議事録を作成したりする仕事を生成AIでまかなえるようになってくる。一方で、そうなると「若手をどうやって育成していくべきか」ということが懸念点になってくるんですよ。生成AIは「人のツール」に過ぎず、生成AIが出したアウトプットのチェックや評価は人がやる必要がある。生成AIを使い、正しいかどうかの判断をし、それを適用していく―この繰り返しです。しかし、若手が専門知識やノウハウを得る経験をする前に生成AIに頼って仕事をするようになってしまうと、「これが本当に合っているかどうかの判断がつかない」ということも起こりうる。これは、生成AIを使って仕事をしていく上でのジレンマになると感じています。

西村
なるほど、プロンプトを打つだけの「AIネイティブ世代」が出てくると、何が正しいかをチェックする側には回れないわけですよね。大局的な視点で生成AIが産業に与えるインパクトを考えた際に、例えばリテラシー別に最適化された生成AIが発展していく可能性もあると思いますが、そのあたりはどのような意見をお持ちでしょうか。

山本
IT(情報技術)が登場したときの影響とは大きな違いが出てきそうだなと思っています。IT化が進んだことで賃金格差や所得格差が拡大したということは、多くの研究でも指摘されています。つまり、コンピューターを使って仕事ができる人とそうでない人では、格差が大きく開いていった既成事実があるわけです。一方で、AI全般はスキルの低い人を補い、未熟練でも中程度の仕事をこなせるようにするという効果がある。「AIの進展は所得格差を縮小させる」という類の研究も、最近は結構出てきているんですよ。比較的リテラシーやスキルの高い人だけが生成AIの恩恵を享受するのではなく、思っている以上の幅広い層に、ポジティブな効果を与えるのではと考えています。

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