こんにちは、ヒット習慣メーカーズの中林です。
最近、とにかくいろんな場所へ出かけています。年始に北極、そしてイギリス、2月は三連休が二回もあったのを良いことに、北海道の知床と上海・香港へ飛びました。
すべての旅を終えて、家のこたつでみかんを食べていた時のことです。
あれ?なんか肩こりとか全然ないな、というか旅の疲労感どこ?・・・ふと、体が疲れていないことに気づき、昔と旅の仕方が変わってきていることを発見しました。
そんな訳で今回は、旅をしながら気付いた「旅行スタイルの変化」について書きたいと思います。
非日常空間に身を置きいつもと違う体験をたのしむリトリート(vol.220『つまみ食いライフスタイル』 )は疲れた現代人を癒やす休暇の手段として、もはや定番化していますが、その非日常癒やし休暇と従来の旅行を掛け算したような、いいとこ取りの「スロートラベル」という旅行スタイルが、いま海外を中心に人気になりつつあります。
「slow travel」の検索数推移(すべての国)
スロートラベルとは、その名の通り「ゆったりたのしむ旅」のことで、自分のペースで見たり歩いたり食べたり、人とは違う体験や自分の好奇心を満たしてくれるものを求めて自由に移動するのが特徴です。一見従来の旅行とさほど変わらないように思えますが、一言でいうと「広く浅く」から「狭く深く」へと、旅の目的や宿泊スタイルなど様々な点で変化しています。
まずご紹介するのは「偽地元民スロートラベル」です。
旅行に出かけた際には人気のスポットを訪れたり、有名レストランで食事をしたり、お土産を物色したり…観光客として現地を楽しみ尽くすのが醍醐味ですよね?
けれどスロートラベルの場合は、「観光しない」ことこそ最大の醍醐味。上記のことを行わず「偽地元民」として、とにかくゆったりと過ごします。
観光地ではなく公園やビーチ、野山へ出かけ、観光客向けのレストランで食事をする代わりに地元の市場で買った食材で自炊をし、お土産を買い込むよりも土産話になる体験を探して街を歩く、といったように、地元民のライフスタイルを疑似体験するのが特徴です。
現地に溶け込みゆっくりと時間を過ごすことで、地元の文化や歴史を学び、地元の食材や音楽を楽しみ、地元の人と交わうことができるのです。
また、従来は素泊まり目的のホテルしかなかったのに対して、地産地消を楽しむキッチン付きホテルや、長期滞在向けプランのある宿、超短期のホームステイなど、宿泊先の選択肢が拡大したことも偽地元民体験の流行の背景にあると推測できます。
つぎにご紹介するのは「陸路でたのしむスロートラベル」。
海外旅行といえば、日本を離陸したはいいものの、飛行機の乗り継ぎや現地での複雑な移動が億劫で腰が重くなってしまう…という人も多いのではないでしょうか。世界地図みたいに大きな路線図の中から目的の駅を探すだけでもクラクラしてしまいますよね。
そんな、一見ネガティブに思われがちな旅先での移動ですが、実は電車やバスに乗っている時間は風景や街並みをたのしむのに最適。スロートラベルでは、飛行機という早くて快適な交通手段ではなく、あえてゆっくり進む陸路を利用することで、旅の軌跡や車窓からの景色を味わったり、途中下車して寄り道を楽しむことができるのです。
自分のペースでゆっくり地域を巡り、飛行機では一瞬で通り過ぎてしまうような街を散歩して文化にふれる、というアナログ感たっぷりの旅行スタイルですが、それが人気を集めている背景としては、逆に文明の発達が関係しているように思います。携帯ひとつで旅先からでも宿やレストランを探せる時代なので、プランを立てないリスクが昔よりはるかに少なく、その安心感があるから行き当たりばったりの旅ができるのではないでしょうか。
最後にご紹介するのは「日帰りスロートラベル」。言葉通り、宿泊せずに近場でたのしむゆったり旅のことです。
気軽に行ける体験型のアクティビティは近年どんどん増えていますが、なかでも注目度が増しているのは文化・自然・歴史など、地域社会や環境と密接に関わった、スロートラベルにつながるアクティビティ。
遠出せずとも、地元民として、地元の文化や生き方を改めて時間をかけて探索してみると、その土地のまだ見ぬ魅力を発見できたり、地域社会と積極的に関わるきっかけになったり、表面的でなく深い部分で文化や地域、また地元民とつながることができるのです。
コロナ禍を経て、遠出せずとも近場で非日常体験をしたい、という生活者の欲求が高まり、そのニーズに応じたサービスやアクティビティプランが増加したことも人気の後押しをしているように感じます。
では、一体なぜアナログ感あふれるスロートラベルがいま流行しているのでしょうか?
まず考えられるのは、旅行にエンタメのほか癒やしを求めている人が増えていること。
観光やツアーの予定がぎちぎちに詰まった旅程は、日頃からマルチタスクをこなし、スケジュールに縛られている現代人にとっては重荷になり得ます。その代わり、浜辺でゆっくり寝転んで波の音に耳を澄ませたり、列車の中でぼーっと車窓を流れる緑をみたり、ふらふら歩きながら見つけた町の食堂で郷土料理を食べたり、予定のない時間を過ごすことこそ至高の贅沢、と考える人が増加しているのかもしれません。
次に、体験の唯一性を求める人が増えていることも理由として考えられます。
観光を楽しむ旅行よりも、よりディープな体験や人とのつながりが得られるのがスロートラベルの魅力です。どんな刺激を求めるかは全て自分の決断次第であり、そこで得た体験やつながりは唯一無二の自分のものとして人生に刻まれます。王道の観光コースでは得られない特別感や充足感を味わうために、スロートラベルを選ぶ人が増えているのではないでしょうか。
また、観光地以外にも旅行客が訪れるようになれば経済は豊かになり、文化や地域の魅力を発信するきっかけにもなります。そのため旅行者を招き入れる側の地元民や地域社会にとってもメリットが多く、旅行客と地元民がwin-winの関係であることも人気の理由であると考えられます。
最後に、今後の広がりについて、考えてみました。
今年の太陽は光量がすごく、例年稀に見るオーロラの美しい年なんだ!と北極のトナカイ飼いが言っていました。本当に素晴らしかったです。
心と体のリフレッシュに、スロートラベル休暇、ぜひ出かけてみてください。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
2021年博報堂に入社。趣味は編み物、好物はさば寿司といわし、あと卵焼きです。まいにち散歩をします。髪がとても長いです。切ろうかな。