宮崎県延岡市上三輪町に生息する孟宗竹(モウソウチク)を使用した国産100%メンマ。LOCAL BAMBOO代表 江原太郎さんの実家に広がっていた放置竹林を活用するアイデアとして生まれた。一般ユーザー向けにEC販売をスタートさせた後、SNSなどを通じて話題に。現在は数々の飲食店、学校給食に採用されるほか、延岡市のふるさと納税返礼品にも選定。国際線ファーストクラスの機内食でも提供されている。
―はじめに、このプロジェクトがはじまった経緯から教えてください。
タルボット:この事業を立ち上げたLOCAL BAMBOO代表の江原さんと僕に、共通の知人がいたんです。その方を通じて知り合って、デザインをお手伝いすることに。でもただおしゃれなパッケージをつくって売る、というだけではもったいない気がして。すごくいいプロジェクトだし、コピーライターや事業開発の視点を入れて取り組んだら、もっと可能性が広がるんじゃないかと思って声をかけたのが小泉でした。
―なぜ小泉さんに声をかけたのですか?
タルボット:同期入社というのももちろんありますが、彼が「大好物醤油」というプロジェクトを手がけていて、社内では「醤油の人」としてちょっと知られる存在だったんです(笑)。食にも詳しいし、彼ならきっとなにかやってくれるだろう、と。
小泉:僕はもともとコピーライターですが、UXデザイナーという肩書きもあり、最近ではブランディングや事業開発の仕事がメインになりつつあります。個人的に醤油が好きで、醤油屋さんに自主プレゼンして、プロダクトを開発していたんです。
―このプロジェクトにはどのタイミングから参加したのですか?
タルボット:江原さんの実家が放置竹林の問題を抱えていて、それを国産メンマというかたちで解決するという根っこのコンセプトは決まっていました。僕らはネーミングやデザイン、どういうコミュニケーションをしようか、というところから携わっています。
―はじめにこのプロジェクトの話を聞いたときの感想は?
小泉:メンマという商材を扱うことってめったにないので、すごくおもしろいなって(笑)。
メンマって正直自分ではほとんど買ったことがないし、どうやったら興味をもってもらえるかを考えました。
このメンマをそのまま表現すると「放置竹林メンマ」なんですよね。でもそれじゃあ「食べたい!」とならない。そのパーセプションをどう変えるかが重要なポイントだと思いました。
そのために、まずこのメンマのコンセプトをしっかり伝えるための言葉開発からスタートしました。はじめにつくったのが「森を育てるメンマ」というキーワード。このメンマを食べれば食べるほど、竹林が整備されて、森が育つ。未来の森の姿にフィーチャーすることしたんです。
―その後はどんなステップで提案を進めたのですか?
小泉:「延岡メンマ」というネーミング案は当初から出ていて、地名にフィーチャーすることが地域課題に取り組む商品としてふさわしいと考えてそのまま採用しました。
ポイントにしたのは、しっかりとした品質のいいものである、というブランドイメージを醸成すること。上質感のあるパッケージもそうですが、EC販売も既存のプラットフォームを使うのではなく、きちんとブランドサイトをつくった方がいいと考えました。
さらに、しっかりイメージづくりができたとしても、一度興味を持って買って終わり、ではダメ。リピートしてもらうためにも、食べ方提案は必須だと感じたので、フードスタイリストと一緒にレシピ開発をしています。
―クラフトでこだわった点は?
タルボット:メンマのパッケージはパウチであることがほとんどなのですが、メンマが主役になれる存在であるということのひとつの象徴として、パッケージは「缶」であることが重要だと考えました。高級感のある金の缶で、積み重ねると竹のように見える。少しコストをかけてでも缶にしたことで、一目で他のメンマとは違うと分かりますし、メディアで紹介頂く時にもシンボリックで取り上げやすい見た目になったのかなと思っています。
―発売後の反響はどうでしたか?
小泉:オンラインで発売した後、メンマ料理をSNSで発信してくださる方もたくさんいて、メディアにも取り上げていただきました。飲食店とのコラボレーションも進んでいます。はじめはto C向けに商品開発をしましたが、このパッケージやブランドサイトで高級感のある品質のよいブランドであることが認知されることで、飲食店や企業の方にも信頼を得ることができ、いまはto Bにも販路を広げています。はじめに重視したブランドづくりが資産になっている実感があります。
―一連のプロジェクトにおいて、これまでの経験が生かされていると感じた点は?
小泉:博報堂の「生活者発想」というDNAは生かされているのかもしれません。パッケージをおしゃれにすればいいのでは?ということで終わらせず、そもそもメンマって買うかな?というところから生活者の視点で考えてみる。
ラーメンに入れるかおつまみにして終わりだと広がりが少ないから、食べ方提案が必要だよね、と考えた結果、オリジナルレシピが生まれましたし、それがあったからSNSで発信してもらえた。そういう意味で、生活者発想が功を奏しているのかもしれません。
―プロジェクトを進めるにあたって大変だったとことや逆にうれしかったことは?
タルボット:これまで僕らは営業にフロントに立っていただいてクライアントと仕事をしてきましたが、今回はクライアントの代表と直接のお仕事。しかもプロダクトを一からつくるという経験したことのない業務だったので、日々勉強しながら試行錯誤していました。それが大変でもあり、学びでもあり。
小泉:うれしかったことでいうと、このメンマがいろいろな高級料理店で使ってもらえていること。国際線ファーストクラスの機内食にも採用していただいたり、ふるさと納税の返礼品としても選んでいただきました。正直、メンマがここまで活躍できるんだ…という驚きと喜びがありましたね。メンマがここまで広がるなんてすごくないですか(笑)。
―延岡メンマ以外にも、社会課題を解決する食品に可能性はありそうですか?
タルボット:おいしければ十分可能性があると思います。放置竹林を解決するためにメンマを食べる人って、正直いないですよね。おいしいから食べる、それが結果課題を解決しているならうれしい。そういう順番。僕はこのメンマを食べて、はじめに「すごくおいしい!」と思ったし、だからこそ可能性を感じたんです。
小泉:社会課題を扱う事業については「この思いに共感してくれる方に買ってほしい」という精神性が先行してしまいがちですが、やはりそこは生活者の視点に立って、食品なら本当においしいか、毎日食べたいものであるかが大切。その商品力があったうえで社会によりよいということが差別化になると考えています。それを踏まえたうえで、社会課題を捉えた食の可能性は非常に高いと感じますね。
―今回のプロジェクトを踏まえ、今後チャレンジしたいことはありますか?
小泉:食べることが生きがいなので、食品関係でお手伝いできることがあったらうれしいですね。日本はやはり食文化が豊かな国。日本の資産としてその価値を高めることに貢献できれば、それ自体がソーシャルグッドにつながると思っています。日本全国においしいものってたくさんあるし、メンマと同じようにまだあまり評価されていないものも多い。そういうものにスポットライトを当てられるような仕事ができたらうれしいです。
タルボット:今回クライアントの代表と直接仕事をできたことがすごくいい経験になりました。はじめはパッケージデザインの仕事だった案件を、コンセプトからコミュニケーションまで設計したことで評価していただけましたし、今後も自分がフロントに立つ仕事を増やしていきたいです。
小泉:やっぱり経営者の方と直接お仕事できるというのが大きいですよね。経営者の思いをダイレクトにきいて、その思いに対してクリエイティブで貢献できることがすごくやりがいになる。そうすることが、結果自分達にとってもクライアントにとってもいい仕事につながるんだと思います。
1992年生まれ。2014年博報堂入社。生まれてからのほとんどを東京で過ごしていた中、2022年から中部支社へ。なごやめしを食べたり、友達に会いに京都に行ったりして暮らしています。広告やデザインに興味がない人たちが見ても楽しめるものを意識して日々デザインをしています。
主な受賞歴に朝日広告賞準グランプリ、読売広告大賞準グランプリ、ヤングロータス日本代表、ACCゴールド、AAAゴールド、ADCノミネートなど。
1989年生まれ。2014年博報堂入社。多岐にわたるマーケティングコミュニケーション業務の経験を活かし、現在は様々なブランド開発業務を担当。クリエイティブの視点で経営者と並走しながら「長く愛されるもの」を生み出すことを大切にしている。主な受賞歴にCannes LIons シルバー、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS ゴールド×3、JPMプランニングアワード ベストクリエイティブ賞、朝日広告賞、読売広告大賞、広告電通賞など。好きな醤油は末廣醤油の『淡紫』。