HAKUHODO HUMANOMICS STUDIO「オシノミクス レポート」はこちらから
博報堂 BXマーケティング局 ストラテジックプラナー 池田 将之
博報堂 データドリブンプラニング局 ストラテジックプラナー 松本 咲葵
博報堂 BXマーケティング局 ストラテジックプラナー 松井 萌々花
-今回、HAKUHODO HUMANOMICS STUDIOとして「推し活」をテーマにしたのはなぜですか?
池田:ここ数年、推し活という言葉がかなり一般化してきましたよね。海外でも「OSHI」という言葉が使われるくらい、世界に注目されている文化です。このムーブメントからビジネスのヒントを見出そうというのがこのレポートの狙い。ここにいるメンバーは、全員何らかの推し活をしているメンバーなんです。いろんなジャンルの精鋭が集められています(笑)。でも、単に当事者だからというだけでなく、「推す」という行動の裏にある心理や社会的価値を明らかにしたいと考えてこのプロジェクトを立ち上げました。
-「推し活」というのは日本特有の文化なのでしょうか?
松本:今回のレポートで早稲田大学演劇博物館を取材したのですが、歴史を遡ると室町時代から「推し活的経済活動」は存在していて、足利義満が世阿弥を保護したのが日本で史料上確認できるパトロンのはじまりと言われています。それが庶民に広がっていくのが江戸時代。江戸という大都市で庶民経済が形成され、みんなが歌舞伎を観に行ったり、いまと同じようにエンタメを応援するようになったという流れがあるようです。
おもしろいなと思ったのは、日本社会は人種や所得による格差が少なく、中間層が厚いので、海外にくらべて推し活をしている人の割合が多く見えるということ。海外だと、富裕層がパトロン的に支援することが多いのに対して、日本では中間層のみんなが頑張ってお金を使って応援している。それが大衆のムーブメントに見えているという考察は興味深かったですね。
-少し前までオタクは隠すべきもの、という印象もありましたが、いまはだいぶ捉え方が変わったように感じます。
松本:オタクがネガティブに評価されたのは、80 年代に一部の暗い事件があったことが要因として大きいです。それまでは、たとえば「親衛隊」にさほど悪いイメージはないですよね。私はずっと、オタクはネガティブなものだと思っていたのですが、そういう評価は一時的なものだと知ってすごく救われた気持ちになりました(笑)。でも、ここまでポジティブなものになったのはここ最近ですよね。
池田:「推し活」という言葉の存在が大きかったかもしれないですね。ここまで浸透したのは、2020年前後でしょうか。僕は2018年入社なんですが、入社当時はオタクであることを周囲に隠してましたもん(笑)。でも最近では自己紹介で「これが好き」というのを開示するのが当たり前。変化を感じます。
松井:私は昨年入社したばかりですが、自己紹介で好きなものを表明して、同じものを好きな同士で交友関係を広げるきっかけにしていますし、オタクを開示することでこのプロジェクトにも参加できました。アイデンティティのひとつとして有効活用している人が増えている印象ですね。
-推し活と経済活動の関係を紐解くにあたって、調査内容はどのように決めていったのですか?
池田:推し活関連の先行レポートは多々ありますが、それらは推し活の対象が切り口になっているものが多かったんですよね、アニメなら、アイドルなら、というジャンルで分類されている。僕らはジャンルを横断して、普遍的な価値観や消費の意識を炙り出したいと考えました。今回は大規模な調査を実施して、推し活の価値観や消費意識、どのようなお金の使い方をしているかについて調査しています。調査項目を考えるうえで、自分たち自身がオタクであることが役に立ちましたね。各々がもっている仮説を十分に盛り込んで(笑)。
松本:あなたにとって推しはどんな存在ですか?どんなときにお金を使うモチベーションが高まりますか?といった質問ですよね。
池田:調査もあえて「推しがいる人」というざっくりした抽出条件にしています。もちろんジャンルごとに傾向を分析することもできるので、こういう消費行動をする人はこの界隈に多い、といった結果も分析できるようになっています。
-調査結果から6つのクラスターに分類しているということですが、それぞれのクラスターについて教えてください。
池田:完全に「自分はこのクラスターに属する」というわけではなく、場面によっていろいろな人格になりうるということは前提として、基本として以下のクラスターに分類しています。
池田:「1:推し活は共有体験にしたいクラスター」はリアルの場や時間を楽しむ、いわゆる「現場」を重視する人。ライブだったりイベントだったり、コミケもそうかもしれません。ライブ終わりにアクスタ(アクリルスタンド)を並べて推し友と乾杯したり(笑)。
「2:推し活で日々を輝かせたいクラスター」は、息抜きとして推し活をして、毎日にメリハリをつけている人。家事や仕事のストレス発散の場といったイメージです。
「3:推しをエネルギーに生きたいクラスター」はそれよりもっと熱量高く、推しがいないと生きていけない!という活力の源にしている人。
「4:推しは遠くから眺めたいクラスター」は、ちょっと距離をとって、ひと目見るだけで幸せという人。少し昔のアイドルファンに近いかもしれません。会いに行くというより、テレビで見られたら十分、という感じ。
「5:推し活はカジュアルに楽しみたいクラスター」は動画をたくさん観たり、コンテンツ視聴がメインの人。
「6:推し活をどこまでも極めたいクラスター」はエクストリームな人(笑)。僕らのメンバーに多いです。どんなときも推しを感じていたいし、ストイックさも兼ね備えてアスリートのように極めたい人。
-4と5は近いようにも感じますが違いがあるのですか?
池田:「5:推し活はカジュアルに楽しみたいクラスター」は、推しているという意識より、コンテンツを享受することで自分の知識欲を満たしたいという主体性が強いと考えられます。「4:推しは遠くから眺めたいクラスター」のほうが、推しはちゃんと崇拝する対象として見ています。
-3と6の違いは?
松本:「3:推しをエネルギーに生きたいクラスター」は生きがいというキラキラ感がありますが、「6:推し活をどこまでも極めたいクラスター」は多少のストレスを感じることもありながら推している。推しのイベントは遠くてもぜったい全部参加!のような、労力もかけつつ推している人です。
池田:この6の人たちだけが、自己犠牲を払ってまでも推し活を続けたいという結果が出ていておもしろかったですね。
-ここにいるみなさんは全員6のクラスターですか?
池田:僕は国内の女性アイドルと特撮が推しの対象。メイン、の女性アイドルに関しては、基本は6のモチベーションだと思います。高校生の頃からなので、そろそろ人生の半分はアイドルオタクですね。なるべく行きたいイベントには足を運べるように、業務とうまくバランスをとりながら時間を作っています。コロナ禍でリモートワークが浸透したことで、遠征もしやすくなりました。 一方で、特撮に関しては完全にコンテンツを見るだけ。カジュアルに楽しみたい5のクラスターだと思っています。
松本:私はキャラクターが推しなんですが、アニバーサリーイヤーのような特別な期間には6になります。限定グッズはぜったいに逃したくないので(笑)。朝5時起きでイベントに行ったり、大変なんですけど、それをやらないと後悔するのがわかっているから。そういう期間以外は、「足るを知る」を大切に課金もメリハリをつけています。
松井:私は本格的にオタクをやりはじめたのはけっこう浅くてここ3年くらいです。もともとアイドルは好きでしたがカジュアルな感じだったんです。でもこの数年、サバイバルオーディション番組が流行りましたよね。それがちょうど就活のときと重なって、すごく人生と重ね合わせてしまって。彼らもデビューを掴み取ったんだから、私もがんばろう!みたいな気持ちで見ていたら、どんどんのめり込んでいって。最初は自分主体だったものがどんどん推し主体になっていった感じです。
いくつか推しを掛け持ちしているので、主となるグループには3のモチベーション。現場はもちろんですが、身の回りに常に推しを散りばめたいので、ワイヤレスイヤフォンに推しの名前を登録して、ペアリングするたびにこっそり「つながった」感覚を味わっています(笑)。サブのグループは1の楽しみ方ですね。
-「オタクをやりはじめた」と言っていましたが、「好き」という状態となにが違うのでしょう?
池田:レポートのなかでは、「好き」は内側で循環するエネルギー、「推し」は外へ向かうエネルギーと定義しています。コンテンツを見るだけの人も、単純にコンテンツを享受するだけでなく、そこから派生して関連するクリエイターを調べてみるとか、同じジャンルの別コンテンツを見てみるとか、なにか積極的な行動に移すことが「推し」と言えると思います。
-なるほど、少しずつ理解が深まってきました。「オシノミクス レポート」ではさらに詳細な調査内容が記されているということですが、見どころを教えてください。
松井:6つのクラスター分析は違いがわかっておもしろいですね。ストイックな6のクラスターのように、ストレスも推し活の一部と捉えている人がいるなんて思ったこともなかったですし、オタク当事者も新しい発見があると思います。一方、クラスターを比較するとその違いばかりに目がいきがちですが、どのクラスターも優劣がないということが大切。どんな推し方でも、みんな推しがいることで前向きに過ごせて、幸せを感じられている。そこが揺るぎない共通点だと思います。外出機会が増えたとか、生きる理由ができたとか、よく笑うようになったとか。どのクラスターでも同じようにポジティブな意見が出ていたのが印象的でした。それぞれの推し方があって、それぞれの幸せを見つけているので、お互いをリスペクトすることが大事ですよね。
松本:私はレポート内の有識者インタビューを担当したのですが、人はなぜ推し活という拠り所が必要なんだろうということを掘り下げています。そうすると、推し活という非日常で息抜きをして、それからまた現実で頑張れるんだ、という回答をいただいて。ずっとモヤモヤしていたことが晴れた気分になりました。人によってゼロがプラスになる人も、マイナスがゼロになる人もいるけれど、多かれ少なかれ現場ではみんなプラスのエネルギーをもらって現実の世界に戻っていくんですよね。
池田:インタビューもクラスター分析も、読み物としてすごくおもしろいです。推し活をしている人にとっては、自分を客観的に見直す良い機会にもなると思います。僕も自身の推し活を振り返って、少しやりすぎだなと反省する部分もありました(笑)。 もちろん、推し活をしていない人にとっても、他者理解のきっかけになると思います。
-オタクの人にもオタクの気持ちがわかりたい人にも役立つレポートということですね。
松井:そうですね。あと、ビジネスの視点でいえば、クラスターによって動くツボが違うから、「推し活をしている人」と大きな括りで捉えられてしまうとモヤモヤする、という側面もあります。グッズを出すことで動くクラスターもいれば、現場を用意することで動くクラスターもいる。それを理解したうえでビジネスに活かすための一助になれると思います。
池田:単純にコラボすればいいというわけではなくて、それによってどういう人たちを動かしたいのか、ということまで考えられるとよりいいコミュニケーションができるということですよね。そのあたりは#2の記事でたっぷり語っていただきましょう!
京都府出身。2018年博報堂入社。ストラテジックプラナーとして、企業/ブランドのマーケティング戦略全般に従事。アクイジション領域とリテンション領域を統合したフルファネルでのマーケティングを支援。女性アイドルや特撮などのコンテンツオタクでもあり、ドメイン知識を活用した案件にも従事。
香川県出身。2020年博報堂入社。ストラテジックプラナーとして、商品開発・コミュニケーション戦略策定からCRM設計までフルファネルでのプラニングに従事。キャラクターをはじめとし女性アイドルやアニメなどのオタクであり、コンテンツ知識を生かした案件も担当。
2023年博報堂入社。グローバルで培った英語力と多様な価値観、ファシリテーションスキルを強みに、飲料・自動車・製薬など複数企業のリサーチ・マーケティングプラニングに従事。グローバルボーイズグループのオタクであり、オシノミクス視点の生活者発想でアイドルを起点としたIPビジネスデザインにも従事。